第48話 リーフ探し3

 暖炉のおかげで服もだいぶ乾いてきている。もう少しすればまたリーフ探しを再開できそうだ。


「そういえばシークくんはなんであんなにたくさん書類を抱えていたんですか?」


 カルロに詰め寄られてベーと舌を出すシークに尋ねる。するとシークは持っていた書類の一部を持ってきてシエラたちに見せた。


「ギルド組合で厄災ランクのミッションが出ているのは知っているっすよね? オレもオレなりに情報を集めようと思って、そこらじゅうからそれっぽい話が綴られた書類を集めてたんすよ」

「そっれっぽい話?」

「知らないんすか? ベラーガに伝わる魔女が結界を張って厄災を鎮めたって言い伝え。ベラーガ出身の兄さんなら知ってると思ったんすけど」

「いや、それは知っているけど……まさかシークがこの話を知っているとは思わなくて」

「まぁ、言い伝えだの伝承だの曖昧な話っすからねぇ……けど、この言い伝えを詳しく知ることで今回の疫病問題を解決できる可能性が一ミリでもあるなら調べておくのは悪いことではないかなって」


 そう言ってシークはため息をついた。

 支部内の机にあるたくさんの書類。まさかとは思うが、これらはすべてシークが集めたものなのだろか。

 たくさんの言い伝えなどが書かれた書類を集めて、夜通し読んでいるのかもしれない。相変わらず真面目な子だと思う。


「……ちなみになにか有益そうな話は見つかったのか?」

「そうですねぇ。魔女が女神の加護を受けた石で結界を張って、厄災を鎮めた。で、そのあと結界を張るのに使われた石は魔女の血筋の人間や、魔女が預けるにふさわしい友人に管理を任せていたってとこくらいしかわかんないっすね」

「石の管理……」


 ベラーガに伝わる言い伝えはどうやって厄災を鎮めたかの話だった。そういえばその後の話は聞いたことがない。たしかにあのリーフたちはなぜ洞窟の中や湖の底に沈んでいたのだろうか。


「シークの調べではどこにどんな石があるのかわかっているのか?」

「いや、昔の話なんでちょっとしか。ほとんどの石はこの国のいろんなところに運ばれて、当時はそこで大切に管理されていたみたいですけど。この石が本当にあるかすらわからないし、もしあったとしても持ち主が死んじまって放置されてる可能性は高いでしょうね」


 なるほど、それなら湖や洞窟にあった理由にも納得がいく。

 おおかた管理者がいなくなって、リーフの価値がわからなかった者が捨ててしまったか、台風などの風で飛ばされてしまったか。おそらくそんなところだろう。


「ああ、でもなんかそれっぽい石に心当たりはあるんすよね、オレ」

「本当ですか⁉︎」

「うわっ、え、ええ、まぁ」


 シークの言葉に食いついたシエラは思わずシークに詰め寄ってしまい、シークは驚きながら一歩下がった。


「親父と昔遊びに行った川だったかな……そこにやけに綺麗な石があったんですよ。それが変な形の石だったから記憶に残ってて。ガキの頃のオレはなんかその石を気に入っちまって、持って帰ったんだかな。どこやったっけなぁ」

「ちょ、それはつまりシークがリーフを持っているってことなのか⁉︎」

「え、まぁ、文献に残っているリーフ型の石と同じやつかはわかりませんけど、おんなじような石は持ってましたよ」

「それは今、どこにあるんですか?」

「えー、どこにやったっけなぁ……部屋の奥隅? いや、どっかに捨てたか……いや、鉄みたいに溶かしちまったかもしれないな」

「それだと困るんですが!」


 真剣な剣幕でシークに詰め寄る。

 シークはそんな表情を見せる二人に驚きながらもううんと唸り声をあげた。


「えっとぉ……たしかオレの部屋に置いてある、かもしれない、かなぁ」


 必死に過去の記憶を思い出してくれたようだが、歯切れが悪い。自信はないようだ。と、なると。


「行ってみよう!」

「マジっすか」


 記憶が曖昧でも、すぐそこにあるのかもしれないのなら探してみるのは悪いことではないだろう。

 シエラたちは服が乾くとシークの家に――カルロ行きつけの鍛冶屋に向かった。


「いや、あのマジであれが結界がどうちゃらに使われた石かわかんないんすけど、それでもいいんすか?」


 鍛冶屋に向かう道中でシークが心配そうな表情で尋ねてきた。

 どうやらシークの部屋のリーフ捜索についてきてくれるみたいだが、自身の記憶が曖昧な分、シエラたちに無駄足を踏ませてしまわないか心配しているようだ。


「それでもいいよ。ね、シエラ」

「はい。私の勘では合っていると思います。だってリーフは本当に綺麗な石ですから。他の石とはどこか雰囲気が違うので、シークくんがリーフだと思ったのならそうなんだと思いますよ」


 カルロに視線を送られ、頷く。

 リーフは石で出来ているにもかかわらず、まるで宝石のように透き通っており、とても綺麗だ。

 自然が作り出すのは不可能な形をした人工物。同じようなものはそうそうないだろう。


「い、いやいや。ガキの頃の記憶だし……え。シエラ姉さん他のリーフを見たことあんの?」

「見たことどころか今リーフを三つ持っているのはシエラだからね」

「はい!」


 はっきりと頷くシエラに、シークはポカンと口を開いた。本人にとっては不本意かもしれないが、先程から表情がくるくる変わってかわいらしい。


「……マジかぁ」


 シークはたった一言、それだけ言うとおとなしくカルロたちの前を歩いた。先導してくれているようだ。


「まさか本当に……」


 ぼそりとシークが小さくつぶやく。

 シエラがリーフを三つ持っている。そして四つ目を探しているということからシークは言い伝えが本当のことだと薄々気がついたのだろう。驚きながらも否定などはせず、素直にシークの部屋に通してくれた。

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