第35話 うちは来ない?

 エリカのおかげで短剣を作った鍛冶士の店の場所が判った。


 私達は三軒隣にある【Pine】へ向かったの。店というには余りにも程遠く、【Pine】と書かれた小さな看板が無ければ、ここが店だとは気づかないと思った。とりあえず店に入ってみる事にした。


『ガタッ、ガラッガラッ…、』

「こんにちは!」


 動きの悪い引き戸を開けて店に入ると、店内は薄暗く営業してるようには見えなかったけど、少し間をおいて奥から女性が現れた。


「あっ、ごめんなさい。ようこそ【Pine】へ!どんなご用でしょうか」


 艶のない赤色の髪に黒い瞳に赤いメガネを掛け、少し疲れた感じの女性が、笑顔で話し掛けてきた。


「あの、三軒隣に【貫通】が付与された短剣があって、ここで作られたと物だと聞いたので、店に寄らせてもらいました」


 来店の理由を説明すると同時に鑑定もする。


【パイン】〚鍛冶師〛〚付与術〛〚鎚術〛


『鍛冶をする為に生まれてきた娘だね。こんな寂れた店で仕事をしてるなんて勿体ないよ』


 エリカが〚以心伝心〛でパインの凄さを説明してくれた。するとパインは嬉しそうな顔で返事をしてきた。


「判るんですか!あなたは〚鑑定眼〛を持ってるんですね!あれは私が作った作品で最高傑作だったんですよ♪」

「どうしてあの店に置かれていたんですか?」


 最高傑作が他人の店に置いてあったので、疑問に思って質問すると、パインの表情が急に曇った。


「鍛冶の世界は男社会で、女の私は受け入れてもらえなくて……お客さんも殆ど来ないので、生活の足しにする為に買い取って貰いました。もう素材を仕入れるお金も無いので、店をたたもうかと思ってるです……」

「そんな、それだけの腕があるのに勿体ない」


 一流の腕を持ちながらも、女というだけで鍛冶職人の道を諦めると酷い話だと思ってると、エリカが私とパインの肩を軽く叩いて提案を市てくれた。


「この店をたたんでさ、あたい達の専属鍛冶士にならないかい?ハルカなら作業場くらい簡単に作れるだろ?」

「あっ、良いね♪パインさん、私達の専属鍛冶士になってください。作業場は私が用意しますから必要な物を教えてください!」

「えっ……専属鍛冶士。作業場まで用意を……やります!専属鍛冶士をやらせてください!」

「決まりだね♪専属鍛冶士さんよろしくね♪」

「はい♪」


 専属鍛冶士としてパインを迎える事となり、握手を交わした時に〚付与術〛をコピーさせてもらった。


「よし、新しい作業場を作る前に、持って行く道具はあるのかな?」

「鍛造道具などの運べる物が結構あります。溶解釜は作るとかなりの値段になりますけど、大丈夫なんでしょうか?」

「ハルカは土魔法は凄いからね!パインが構造を説明すれば簡単に作っちまうよ(笑)」

「まぁ、そこはやってみないと判らないから、家に戻ってからね」


 その後は、鍛冶道具一式を〚無限収納〛に収めると、パインは容量の大きさに驚いていた。その辺りも追々説明すればいいかな?


 私達は念願の〚付与術〛と予想外だったけど、一流の鍛冶士を仲間に加える事が出来た。

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