第2話 踏み出した一歩
「あ、あのっ!」
僕は女子高生に絡む男子達に声をかけた。
「は? 何?」
こちらに気づくと三人とも訝しげな様子で僕を見つめる。
まぁ、そうだよな。あっちからしてみればとんだ邪魔者が入ってきたわけだから。
「誰? お前」
「急に入ってきて何様だよ」
ほんと何様かって話しだよな。突然現れて。
予想はしていたけど、敵対心バリバリな言葉をぶつけられる。
悪い事をしていないのにそんな目を向けられると複雑な気持ちだ。
でも、手首を掴まれて無理やりに連れていかれる彼女の身体が震えているのがはっきりと分かった。
「すみません! その子僕の友達です」
「あ?」
僕はそんな彼女と掴んでいた男子校生の間に割って入る。
僕がいきなり男子の肩に触れて引き離した事で女子高生は解放された。
「おい、急になんだよ」
「邪魔するならただじゃ済まさねーぞ」
喧嘩腰の啖呵を切られ今度は僕の胸ぐらを掴まれる。
うわっ! 手出してきたな。
結構な迫力に腰が引ける。唯一救いなのは、街灯の少ない細い路地のために相手の顔が暗くてはっきりとは見えない事。
それでもなんとか悟られないようにと表情だけでも平然を装った。
ある程度の覚悟はしてたけど僕としても暴力沙汰だけは避けたい。
「いやー。この辺りで待ち合わせてたんですけど。こんな所に居たとは」
咄嗟に先程ついた嘘と被せるように事の経緯を口にする。
当然、それも嘘だし。僕の隣にいる女子高生とは今日が初対面だ。
「おい。そんなので納得できると思ってんのか……?」
「どうした?」
僕の胸ぐらを掴む男子が言葉を止めた。
それを不思議に思った他の男子生徒が口を開く。
「いや、こいつとその女子の制服同じじゃねーか?」
「ん? ……あぁ、言われてみれば」
「えっ」
僕もそれを聞いて横目で彼女の方を見た。
あっ……。
パーカーを羽織っているから気付かなかったけど、チャックが降ろされた隙間から見える制服には見覚えがあった。
それは紛れもなくうちの高校の制服。
「もしかして本当に友達なのか?」
その口ぶりからして、僕が友達だと言った事に対して完全に疑っていたようだ。
疑うもなにも本当に嘘ではあるのだけど。
でもどうやら、彼女は誰だか知らないが僕と同じ高校の生徒らしい。それなら尚更、僕も無関係だとは思われないだろう。
ん、まてよ。制服?
僕の頭の中に、一つの妙案が閃いた。
「そ、それよりも。さっきあっちの方で警察の方がパトロールしてましたよ。こっちに来られたらまずいですよ」
その言葉を聞いて、男子達の視線が僕へと集まる。
「なっ! それを早く言えよ!」
「嘘だろっ、補導とかマジ勘弁」
「おい! もう行こうぜ」
それから僕の胸ぐらを掴んでいた手も離れて男子高校生達は僕が来た反対の道の方へと走り出していった。
案外こんな嘘でも通用するものだな。
その決め手となったのは、囲まれていた彼女が僕と同じ高校の制服を着ていたおかげでもあると思うけど。
じゃなかったら、あんな嘘も信じられなかっただろう。
「……っ!」
男子生徒たちが居なくなった後、突然何かに腕を掴まれた。
驚いて腕の方を見れば、解放された女子高生が僕の腕を掴んでいた。
「……こっち」
そう呟かれて腕を引っ張られる。
「あっ、ちょっと!」
先ほどの男子達が向かった方に少し進むと、壁沿いにもう一つの細い道が現れた。
こんな所にも道が。
そして、彼女は僕を引っ張ったままその細い道へと入っていく。
あのまま道なりに沿って行けば先にいる男子達とまた鉢合わせてしまうかもしれない。
その事を考えればこっちの道を使う方が正解か。
僕は前を進む女子高生へと目を向ける。
身長は自分よりも少し小さい。
僕の腕を掴むその手も華奢な女の子のものだと感覚で分かる。
しばらく走ったところで細道を抜け、開かれた路地へと出た。
「……ここは」
あまり通った事はないが、見た事のある住宅がいくつか目に入る。
家から少し離れた場所にある赤い屋根のお家。
その周辺を囲むように設置してある電柱の街灯がその特徴を教えてくれた。
あれは何年か前に空き家になったお家だ。
この角度から見るのは初めてだが、塀の奥に見える窓は灯りもついておらず人の気配も無い。
つまり、ここが自宅の近所である事は間違いなかった。
おそらく、今通って来た道の出口から左に行けば大通りに出られるし、右に行けば家に近付くはずだ。
「……はぁ、はぁ」
ここまで連れてきた当の本人は、僕の目の前で膝に手をついて肩で息をする。
僕自身も久しぶりにこんなにも走って呼吸が乱れた状態だ。
それを落ち着かせるように、一度深く深呼吸する。
「あの……」
「……っ!」
僕が後ろから声を掛けると、彼女はバッと上半身をあげる。
まだ呼吸が整ってなかったのかな。それなら悪い事をした。
「大丈夫ですか?」
さっき男子に絡まれていたのもそうだが、現状も踏まえて僕は言葉を続けた。
「…………」
彼女は無言のまま塀の方を見て動こうとしない。
もしかして、元々喋るのが好きじゃないのかもしれない。
僕をここに連れてこようとした時に掛けてきた声もかなり小さかったし端的だった。
会ったばかりの人だから憶測で考えるのも良くないかもしれないけど、そんな事を頭の中で考える。
「……がと」
「えっ?」
言葉を待っていると微かな声が耳に入った。
しかし、よく聞こえなかったため聞き返すような声をあげる。
すると、彼女は僕の方へと振り返りもう一度小さな声で言う。
「助けてくれて、ありがとう」
「それは、どういたしまし……て?」
お礼を言われた事に対して答える途中、声が途切れた。
予想だにしない光景。戸惑ってしまう状況になる相手が僕の前には立っていた。
「
路地を照らす街灯の下で、僕と同じ高校の制服を着た少女。
その上には黒いオーバーサイズのパーカーを着用し、丈の短いスカートからは黒いストッキングが目に入った。
明るさで姿がはっきりと見える今は、上から下。表情までもはっきりと見えているのだ。
ミディアムヘアくらいの長さの黒髪をポニーテールで結った目の前の女子高生を僕は知っていた。
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