☆第30話 慟哭
公園で小夜子が倒れた直後、女性の甲高い大きな悲鳴が聞こえてきた。
「小夜子っ!」
驚いて大賀と明博が声のした方向へと振り返る。
すると、肩まである長い赤色のポニーテールの髪を振り乱しながら、一人の若い女性が小夜子の側へと駆け寄って来た。
その女性は倒れた小夜子に急いで近付くと、小夜子の身体を何度も揺さぶりながら、彼女の名前をずっと叫び続けた。
余りの激しい女性の慟哭に、大賀と明博は思わず息を飲んだ。
大賀と明博は女性に何度も声をかけようと試みるが、身体は硬直し、思うように口は動かない。
時間が経つにつれ、女性の動揺は益々酷くなっていった。
そんな女性の姿に驚いて二人が呆然としていると、女性の後ろから、黒い傘を差した背の高い華奢な男性が姿を現した。
公園にやって来た、その男性こそが若菜だったのである。
小夜子を抱きかかえ、泣き叫ぶ女性に「落ち着くんだ」と若菜は声をかけると、肩でぜぇぜぇと息をする小夜子のおでこに手をやった。
しばらくじっとして、若菜は自身の右手で小夜子の体温を測る。
小夜子のおでこは驚くほど、とても熱かった。
恐らく彼女は発熱しているのだろうと若菜は思った。
そして小夜子のおでこからゆっくりと手を離すと、若菜は大賀と明博の方を振り返ってこう言った。
「……私は立花を病院へ連れて行く。君達はここで帰るんだ」
突然の事で困惑する大賀と明博を尻目に、若菜は小夜子の身体に何度も触れようとする。
だがそんな若菜の様子に気が付かない女性は、小夜子にずっとしがみついたままで、中々小夜子の身体から離れようとはしない。
少し状況を思案した若菜は、女性の目の位置に自身の目の高さを合わせると、ゆっくりと女性の目を見ながらこう言った。
「……夏季、一度立花から離れるんだ。そうしないと立花の具合はもっと悪くなってしまう」
「夏季、分かるな?」と若菜は一言声をかけると、ようやく泣き止んだ女性から、一気に小夜子の身体を引き離した。
そして若菜は女性に「夏季、私に一緒に付いて来ることは出来るか?」と尋ねた。
『夏季』と呼ばれた女性が黙って頷く。
次の瞬間、若菜は小夜子の身体を優しく抱きかかえると、女性と共に急いで公園を後にした。
そして公園に残された大賀と明博は、呆然と三人が去って行った方向を見つめていた。
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