☆第5話 若菜先生
いつも無愛想で、授業では学問に関する知識以外はほとんど話さない。
表情を変えることも全くしないので、この学校では生徒達の間で『
小夜子はこの高校の普通科の文系コースの一年生なので、若菜と直接の関わり合いは無い。
だが小夜子は若菜のことを、「苦手なタイプの先生だなぁ」と思っていた。
そんな若菜を目の前にして、小夜子はすっかり怯えていた。
これからどんな叱責を受けるのかと思うと、小夜子の身体は硬直して動かない。
そんな小夜子を尻目に、黒いプラスチックフレームの眼鏡のツルを左手でぐいっと上げると、若菜は小夜子を見下ろしながら、こう言った。
「……そこの一年生。早く鞄を上げてくれないか?」
その言葉に反応した小夜子は、慌てて自身の学生鞄を若菜の足の上からどかした。
そしてビクビクしながら、恐る恐る、小夜子は若菜に話しかける。
「ほ、本当にすみませんでした!あ、あの、お怪我はないですか?」
腰を曲げ、自身の左の足の甲の状態を確認する若菜に目をやる。
するといつもと同じで、表情を一切変えずに淡々と若菜は話をした。
「……君に心配されるほど、柔な身体ではない」
「で、でも……」
「学生の君に何が出来るというのだね。損害賠償を請求したら、支払いに応じてくれるとでも?」
「そ、損害賠償!?」
「……冗談だ」
そう言うと若菜は、すねに付いたズボンの埃をパンパンと払う。
先程小夜子の鞄にぶつかった勢いで乱れた服装をさっと整えると、若菜は何事も無かったかのように、颯爽とその場を後にした。
その状況を理解する事が出来ずに、ぼうっと小夜子は廊下に立ち尽くす。そしてドキドキする心臓を右手で押さえた。
胸の鼓動が落ち着きを取り戻し、呼吸が整うようになると、小夜子は再度、靴箱の方へと向かって歩いて行った。
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