第21話 錬金先輩、大規模コラボをする②
後輩の計らいでよりカオスとなった画面内。
けれど非常に不愉快な本人達は他所に番組進行は粛々と行われる。
「ウサギ博士のアイテムは粘着糸ですか」
『瞬間接着剤のような物だよ。強い衝撃を与えるとくっつき、無理に引き離そうとすると肉離れを起こす感じだね』
「いやーエグいですね〜」
『君のトラップアメーバ君に比べたら可愛いもんじゃよ』
<コメント>
:かわいいの定義とは?
:もしかして、殺傷力
:それは草
「実際に現場で使ってもらいましょう。今回ダンジョンアタックを仕掛けてもらってるパーティにそれぞれ職人のアイテムを渡し、その場で使ってもらってレビューをしてもらう。評価点はパーティ単位で5点。3パーティで最大15点取れるのは誰かな〜?」
『ぐぉおおおおおお!』
『うぬわあああああ!』
<コメント>
:無視された(´;ω;`)
:いまだにダメージ引きずってる二人が放置なのどうなの?
:リスナーにも流れ弾当たってるぞ
「利用規約を読まなかったのがいけないですね〜」
利用規約。
今回ゲストに来てもらう際、それぞれに交わした契約書がある。
その内訳は主に学会で発表した転送陣の個人利用許可証。
一年間、と制限はつくが、まだ誰国以外で誰も手に入れられないサービスの先行利用許可。
それの対価を番組への参加とした。詳しい詳細については番組内で教えるとして、後出しジャンケンし放題の場に持って行った。
後輩の独壇場だ。
動物の3Dキャラを作ってた時点で美少女まで紐付けして作ってたんだろうな。
だがこれだけで終えるとは思わない。
特に今回はポイント制。
僕に向ける罰ゲームを全員を巻き込む形で行使するはずだ。
画面はダンジョンアタックに切り替わる。
画面の端っこに僕(猫耳癖っ毛短髪ロリ)、ガンドルフ(垂れ耳犬型長髪ロリ)、コーディ(癖っ毛アヒル型ロリ)、ローディック師(ウサ耳銀髪ストレートロリ)、剣を振り回してるデフォルメアメリアさん(猫耳付き)がいる。
<コメント>
:画面内がかわいいで溢れてる
:これポイントつけて勝敗つけるの何で?
「負けた人にはキャラクターグッズを抱き合わせで販売していただきます。最初は先輩だけで考えてましたが……これを機にグループでも作ってもいいかな、と」
<コメント>
:グループ?
:被害者友の会で草
:事前に教えてないのかよ
:これ本名じゃないからワンチャン恥ずかしくないまであるな
:二つ名って会社の看板みたいなとこあるから
:信用問題ズタズタに引き裂いてるのよ!
:キャラグッズと抱き合わせで売るってどこに?
「バザー♡」
<コメント>
:鬼かよぉ!
:これ、風評被害待ったなしだぞ?
「言っても、買える人なんてSランクぐらいでしょ」
<コメント>
:何で?
:集まってるメンツがメンツだしな
:因みに先輩のアイテム、制作難易度いくつなんですか?
「180♡」
<コメント>
:WWWW!
:こいつ、しれっとエグいアイテム世に放りやがって!
:制作難易度3の炸裂弾も十分にやばい代物なんですよ
:他のもそれくらいかそれ以上ってことか
:まぁ確かに目にした事ないもんな
:表で見なくてもゲームに実装されるかもしれないってのか
:最終的にゲームの方で先に知るパターンか
:買えばいくらになるんだろうな?
「こちとら遊びでやってんだよ! 金・金・金! 研究者として恥ずかしくないのか!」
<コメント>
:俺ら研究者じゃないんで
:逆、逆www
:そこは遊びじゃないんだよって叫ぶところでしょ
:実際、BW実装用だしな
:遊びであってる
:普通は逆なんですよ
:現実での検証はまぁ大事
:手順が逆なんだよなぁ
これだからロマンのわからないリスナーが多くて困る。
アメリアさんチームはいい感じにグレーターセンチピードを討伐してるみたいだ。
まずは普通に。次はそれぞれの武器、アイテムを用いて効率を図ってもらった。
それぞれの評価が出る。
「まずは僕からだな、評価はどうだ?」
『先輩のこれ、威力強すぎ。もうちょっと狙った場所を焼き切る感じにできたらいいかも。でも相手の動きを止めるのに十分。アタシのパーティは3点だ』
5点中3点とは手厳しい。アメリアさんは剣で振り回す攻撃スタイルだから、足止めみたいに使いたかったが効果範囲と威力が高すぎて自分の出番がなかったと拗ねてるみたいだ。かわいいね。
『次に俺だな。守りが中心で攻撃手段に乏しいウチにとっては救いの神みたいなアイテムだ。だがアメリアの嬢ちゃんが言うように出力が強すぎる。もっと液状じゃなく固形に圧縮できたら用途は広がると思う。ウチは4点だな』
キングからは意外と高評価だった。
しかし満点が出ないのは悔しい。次はトールパーティだ。頼むぞ!
『じゃ、最後にウチっすね。アイテム単体としてはやはりテクニックを要するっす。けどこれをバレットタイプに変換するんなら、ウチは5点出すっす。バレット以外なら0点っすね』
「仕方ないにゃあ、じゃあそれぞれの要望に合わせて作りかえるね!」
<コメント>
:後出しでアイテム作り変えるのアリなのかよ!
:錬金術師あるある
:鍛治師も調整させてもらえるんだろうな?
「そりゃそうだよ。結局ポイント云々より、現場の声を聞いて改良できる機会を得られるのがこの企画のいいところだしな」
「それはそれとして罰ゲームもご用意しました!」
<コメント>
:後輩ちゃん、壁に埋め込まれてるのにめちゃくちゃいい笑顔してそう
:天の声、イッキイキしてんのよ
:もう全キャラ分作られてそう
:それは……あり得るな
:じゃなきゃ罰ゲームになんないでしょ
:3Dキャラを事前に用意するくらいだしな
:ケモ耳ロリまで用意してるんだ、ノリノリで用意してるぞ
:後輩ちゃん、推しが増えてイキイキしてる
そもそもが自分ですら用途不明のボツレシピを実際に使ってもらう企画だからね、これ。
コスト的に実現不可だとか、生産ラインに乗せたら赤字まっしぐら。
採算が取れないとかそういう現実味にわかないものを現場はどう活用するか、またはどういうのを求めてるかで臨機応変するのが主旨だ。
で、個人的に気に入ってもらったら個人契約する、またはゲームに登場させる感じ。特に今回のアメーバ君は素材の代用が出来ない手抜きレシピだから量産に向かないのだ。全部Aランクダンジョン素材だしね、それも不人気素材だから誰も好き好んで集めないっていう。
「とりあえずアメリアさんのところは剣全体に馴染ませてみた。これで切りつけた箇所を溶かす効果が出ると思う」
『こういうのが欲しかった! さんきゅーセンパイ! アタシ命中率悪いからさ、動き回って切りつけるのは得意なんだけど!』
<コメント>
:あの抽象的な評価でよくやる
:先輩引き出し多すぎない?
:いったいどれほどの引き出し持ってるんだ?
「で、次にキングはこれ。投擲型のアイテムに変えてみた。当たった場所に染み渡って徐々に溶かすので防御力を落とす効果を持つ。範囲は絞ったが、威力は落ちたので納得はいきかねるだろう。それともブレード型とバレット型を別に用意させてもいい」
『助かる。正直その二つも魅力的だが、攻撃が通りやすくなるならそっちがありがたい。うちのメンツはそこそこ動けるやつはいるが、アメリア嬢ほど動けず、トール以上に命中率が高いやつがいるかって聞かれたら首を横に振る自信がある』
「そうやって二流みたいに言うなよ。キングのチームは盾役だ。味方の命を守るのが目的だろ? 倒すのは他の二組に任せればいいのさ」
『ボマーには言われたくないな』
<コメント>
:あれ、先輩……
:キングに同情してる?
:んなわけ
:実際アイテムのことしか考えてなさそう
:評価高いから無碍に出れないだけだぞ
:そう言えば一番高かったもんな
:でも当のキングが辛辣なのな
:そりゃそうだろ
:誰のせいで背負いたくもない大楯背負ってると思ってるんだ
:でもそのお陰でランキング上位にのめり込めてるんだぞ?
:看板に大きな傷はつけたけどな
:それは今回のゲスト二人に比べたら浅い方だろ
:たし蟹
うるせー。トールは高評価してくれたもんね!
改造しないと0点だとも言ったけど。
「じゃあ最後にトールはバレットタイプ。中身は劇的に減ったが、散布する量が限定的だからそもそも命中させなきゃ意味がないからな?」
『誰に物いってるんすか? まぁ点数アップは使用感を確かめてからっすね』
その結果、アメリアチーム4、キングチーム5、トールチーム5の評価を貰った。
アメリアさんから5点満点を貰えなかったのは不服だが、単純に剣に纏わせる量が少なく、活動限界が早かったと言うクレームが入ったためだ。
でも切れ味は良かったので4点くれた。5点もらえるようにするにはもっと長期間使えるといいらしい。
じゃあ鞘に補充できる仕掛けを作るとするか。それだったら5点! と言われたが、改良は一回までなので僕の点数は14点となった。解せぬ。
改良は許されてるが、たった一回の評価から相手の求めてるグレードのものを提供できるかが僕たち生産職の常だから仕方ないっちゃ仕方ない。
本当だったら配送の手間がかかるし、現場に届いたら届いたで職人がすぐに評価を貰えるなんて機会はないからな。だからこの試みに乗る職人は多いのだ。
僕が「4・5・5」で納めた第一回。
ガンドルフは「1・1・0」の計2点だった。哀れ!
『重い上に切れない、論外』
『メンツに対抗心を燃やしすぎたな。これはこれでいい物だが、ガイウスクラスだろ、これ扱えるの』
『今日のメンツ見て何でこれ出して来たんスか? バカなんすか?』
使用者からは散々な言われよう。アメリアさんは辛口でも一応一点はつけてくれる優しさを持っている。キングも同様。しかしトールに至っては評価が激辛だ。
こいつが今回の企画の最後の難関言っても過言ではない。
優れた職人は持ち主を見て武器を作ると言うが、なまじこいつのチームが生産を齧ってる分タチが悪くなっていた。
「改良案は、改良案をくれ!」
半ば叫び出しそうなガンドルフ。このままでは今のキャラグッズ一直線が目に見えてるのでそりゃもう必死だ。もしこれがおままごとみたいにポイント差をつけず、罰ゲームもなしだったらきっとここまで必死にならなかっただろう。
そう言う意味ではいい起爆剤となってくれた。
やり方は外道そのものだけど。まぁ後輩は昔からこんなだし。僕の言うことなんて聞くわけないからな。クレームは後輩に直接いってくれ。
『いや、切れないからそもそも改良案も何も』
『そうだな、取り敢えずこの重さを何とかしたら、それでも解体用には使えるかもしれないぞ?』
『いっそドリルバレットでも作ってくれた方がマシっす』
使用者からは非難轟々。特にトールからの酷評が主だ。
アメリアさんも自分が扱えないのが分かりきってるから評価は変えたくないと言う。
「いっそ僕のアメーバ君とコラボしてみるか? 鋏そのものを軽くして、挟んで切る! とかどう?」
「それはアリなのか?」
「ポイントの加点は出来ませんが、現場でどのように扱われるか気になるのは確かです。結局、自分の腕やアイディアを広げる交流が今回の試みですので、それは許可しますよ」
<コメント>
:加点は許可しねーのにすげーいい顔して言ってそう
:後輩ちゃんの面の皮の厚さは見習いたいな
:加点もしてよ
:殺傷力を先輩のアイテムに頼ってる時点でダメ
:そりゃそうよ
:先輩のアメーバ君強すぎなんだよな
:そりゃ片手剣なのにあの規模のモンスターの甲殻バッサバッサ切り落とすもん
:あー、取り回しずらい部分をアメーバ君の許容量で満たせば軽くなるのか
:あんまり軽すぎても武器として扱いづらそう
:そこら辺は調整するでしょ
と、言うわけで僕の研究所にガンドルフの巨大蟹バサミがやってきたわけだけど……まじかでみると馬鹿でかいのがよくわかる。
その上でクソ重い且つ取り回しが最悪だ。よくこんなのに一点をくれてやった物だ。こうなってくると案外トールの評価は的外れでも何でもないのか?
<コメント>
:実際に見るとクソでかいな
:先輩が小さい定期
「誰が豆粒どチビじゃい! それはともかく、こいつを消化液へポイッと」
「おまっ、俺の生産物に何してくれとんじゃ!」
「何って? 不純物を取り除いてるんだが?」
<コメント>
:極悪非道で草
:そりゃ自分の努力の結晶を目の前でゴミクズに変えられたら誰だってキレる
:鉄塊なんだよなぁ
:武器ですら無くなったんだが?
:それはそう
「まずはー金属塊にしてから再調整。ここで取り出しますは〜“テッテレー”浮遊液〜」
<コメント>
:なんか怪しいもん取り出したぞ?
:コラボとは一体? ウゴゴ……
:もうガンドルフの武器が変形留めてないんですが
「こいつを垂らせばアダマンタイトすら鉄の重さになる! 制作難易度200のアイテムさぁ! これを満遍なく染み込ませて〜ここに形状再現液を一滴たらしまーす。するとどうでしょう、頑丈さが加わった状態で軽く、取りまわしやすい大型の蟹バサミができたではありませんか!」
<コメント>
:本当だ、元に戻った!
:中身が別もんなんだよなぁ
:先輩による魔改造がすぎる!
:もう見た目だけじゃね、ガンドルフが関わってんの
「ここにー、僕のアメーバ君を注入する前に、周囲をカチカチスライム君でコーティング! これやらないと使用者が大惨事になるからね、必須。なのでこいつをそぉい!」
<コメント>
:真っ二つに叩き割った!
:アメーバソード斬れすぎ
:中に入れるにしたって、大胆がすぎる
:もうこれ99%先輩の作品でしょ
「やめろ、やめてくれ! 人の心とかないのか!」
「嫌でーす。これ見て勉強してね! さぁアメーバ君を注入してくよ!」
「ぐわあああああ!」
<コメント>
:ガンドルフちゃん、泣いちゃった
:側が可愛いから脳がバグるが中身いい年したオッサンだからな?
:先輩もおっさんなんだよなぁ
:先輩いつも以上にウッキウキで草
:こりゃ孤立しても仕方ないですわ
「完成! こいつを分裂液を垂らして三つに分裂! 現場に送るねー」
<コメント>
:会話の中にサラッとやばい代物が出てきてるけど突っ込んだら負けか?
:普段からやばい物のオンパレードだったから気づかなかった
:え、なんかやばそうなやつあった?
:先輩ちゃんの可愛さにしか興味ないです
:↑通報しました
それはそれとして現場からのコメントは。
『これは軽くていいな! 大きいから盾に使えるし、開閉をレバーアクションで制御できるから両手を使わない! これだったら5点あげる! と言うかこれ欲しい! 後でオファー出すね!』
『これならば確かにアメリア嬢の言ったように盾と兼用できそうだ。取り回しもよく、殺傷力も申し分ない。何と言っても毛根にダメージを与えないのが最高だ。俺も高く評価する、5点だ』
『この軽さなら、前衛に持たせてもよさそうっすね。それとは別にワイヤーをつけてアンカーみたいに射出できたら最高っすね』
「採用! その案もらった!」
早速発射台と蟹バサミをくっつけて発射できるようにした。
その分重くして、台は転がせるように車を取り付ける。転送するのが楽だけど、位置を調整するのに動かすだろうからね。ワイヤーを回収するボタンもくっつけて、トールに送り返す。
「最高! 20点!」
「ここで高評価が出ましたが、先輩のアイディアなのでガンドルフさんは2点です! お次はコーディさんですね」
「ガンドルフですらこれなのか? 俺はなんてところに足を踏み入れちまったんだ!」
「まぁまぁ、ここではおもいっきりハメを外した作品が評価されやすい。自分の限界を越える機会をもらえると思って」
「ローディック師も、らしからぬ作品を出してきたと思ったら、そう言う意図があったのか」
「彼の突飛さは実際にあってみないとわからないもんじゃよ。皆スタンディングオベーションしたぐらいだ」
「実際に会うのが楽しみだ」
「もうあっとるんじゃがのう?」
「あれは代理だったのでは?」
僕がコーディさんと出会った時、咄嗟に代理ですと嘘を言ったのをいまだに引きずってるらしい。
まぁあの姿で32歳の男性だと認める方が脳がバグるからな。
だから嘘を信じてくれてた方が助かるのだ。
ちなみに学会の名簿にも僕の顔で(代理)として乗った。
もっとビシッとしてる時のを載せたいが、無理だろうなぁ。
そのうちガンドルフとコーディさん、ローディック師の代理を乗ると思えばまぁいいか。旅は道連れって言うし。
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