第三十八話

 文月さんに会った日から二日が過ぎたのだが、まったく草案がまとまっていなかった。


 提出期限まで五日はあるのだが出来上がる気が全くしない。


 そもそも妹がリアルにいるせいか、俺自身は全く妹萌が理解できなのだ。


 今書いてる漫画の妹も和音がキャラデザを描いてくれなければ、ここまで書けなかっただろう。


 メインに妹という呪縛に頭を悩ませながら、書いては消してを繰り返していく。


 気が付けば朝日が昇っていた。


 え? ヤバい。何時だ? 六時……。


 俺は急いで部屋を飛び出してリビングに向かう。


 早く朝ごはんと弁当の準備をしないと。


 そう思いながらリビングの前に行くと味噌汁の良い匂いが、漂ってくる。


「七緒か?」


 そう言いながらドアを開けると鼻歌を歌い、料理をしている七緒がいた。


「あ、先輩。おはようございます」


「ああ、おはよう。どうしたんだこんなに早くに」


「それは、依頼があったんですよ」


「依頼? 誰から?」


「寝ぼけてますね~。和音に決まってるじゃないですか」


「そりゃそうか、でもどうして和音が?」


「大好きなお兄ちゃんが頑張って夜更かししてるから、朝ごはんの用意をお願いできますか? って、電話が来たんですよ」


「いや、流石にそれは少し嘘だろ。俺が起きないかもしれないから、朝食を手配しただけだろ」


 和音の予想どうり、朝食の準備は遅れてしまっていて、情けない限りなんだが。


「はぁ、もうどうしてこんなに鈍いんだろう」


「ん? 何か言ったか?」


「いえ、何でもないですよ。もうすぐできますので和音を呼んできてください」


「ああ、分かった。朝からありがとな、七緒」


 今はとにかく少しでもご飯を食べて、また現行に取り掛からないとな。


 俺は言われた通りに和音を起こしに向かうのだった。


 ・・・・・・・・・・


「で、兄さん。お話はどこまで進みましたか?」


 夜、パソコンの前で腕を組んでいると和音が部屋にやって来たので、部屋にいれるとそう聞いてきた。


「いや、全然ダメだ。どうにも筆が進まない」


「そうなんですね……。それって、妹がヒロインはありえないってことですか?」


 俺の横に立った和音が少し覚悟した様子でそう聞いてくる。


「いや、このキャラは凄い魅力的なんだがどうにも妹とラブコメが結びつかないだよ」


「つまり、それってわた、私のせいですか?」


「いや、和音が悪いんじゃなくて俺が変に意識しすぎてるんだ」


 和音が悪いわけじゃないんだぞと精一杯に伝えた。


「意識ですか?」


「ああ、キモい話なんだけど、どうにも妹と意識してしまうからか和音の顔がちらつくんだよ……」


「私がちらつく……。もう、兄さんのエッチ」


 顔を真っ赤にして、ビシビシと叩いてくる。


「悪い、ちゃんと意識を変えるから、だからもう少し待ってくれ」


「いえ、これはあれです。チャンスなので変える必要はないです」


「チャンス? どういうことだ?」


「いえ、気にしないでください。それよりも、私から話を作るための良い提案があります」


 どこか興奮した様子で顔を近づけてそう言ってくる。


「いい提案? それはぜひとも聞きたいな」


 椅子を少し引いて、距離を取ってからお願いする。


「明日の放課後、私と商店街に行きましょう。何も妹ラブではなく、家族的なやり取りの中に萌えは見つかるかもしれませんよ?」


 そう言われて、目からうろこが落ちた。


 確かにそうだ。何でもかんでも恋愛に結び付ける必要なんてないんだ。


 もともとこのキャラはそう言う展開は想定にないわけだし。


「ありがとう、和音。そうだな、何気ないやり取りも作品の面白さの一つだな。そうと決まれば明日は取材だな」


「はい、頑張って面白い作品を作りましょう」


 今日の所はゆっくりと眠れそうだな。


 俺は和音に改めてお礼を言って、早く寝るのだった。


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