第048話 カイコン、シテクダサーイ

 開墾作業なんて、本来沢山の人や重機を使ってやるような大仕事。特に木の根っこを掘り起こす作業なんて重機を使ってもかなり大変だ。


 しかし、俺たちには人を超えた身体能力やスキルがある。


「それじゃあ、始めるぞ。ヨル、木の根っこの周りの土を柔らかくできるか?」

「きゅっ」


 ヨルに頼んで土の状態を変えてもらった。


「亜理紗、ちょっとやってみてくれ」

「了解」


 その後で亜理紗に木を引っこ抜けるかどうか試してもらう。


 ――ズズズズズズッ


 亜理紗が木を手で挟んで力を入れると、徐々に地面に埋まっていた部分が姿を現わしていく。


 ――スポンッ


「あっ。意外に簡単に抜けたよ」

「お、おお、そうか」


 ある程度根っこが顔を出すと、まるで大根を引っこ抜くように木が抜けて、根っこがその全容を見せた。


 根っこは物凄く長くて、これだけの根が地中に広がってれば、そりゃあ開墾作業は大変だよなと思う。


 ただそれ以上に、女子高生が一人で木を持ち上げているという光景はとてもシュールだった。見た目とのギャップがあり過ぎて違和感しかない。


「俺もやってみるか」


 亜理紗とはレベル差があるものの俺もそれなりにレベルが上がっている。ステータスポイントは良く分からないが、各パラメータに万遍なく振っているので、力も上がっているはずだ。


「おっ。ホントだな」


 再びヨルに地面を柔らかくしてもらい、今度は俺が持ち上げてみると、思ったよりも簡単に抜けたし、木もそれほど重さを感じなかった。


 モンスターを倒した時には分からなかったが、こういうことに力を使うと自分がプレイヤーになったという実感が湧く。


「きゅっ!!」


 俺達の様子に触発されたマヒルも同じように挑戦しようと木を掴んだ。


 ――スポッ


 すると、俺や亜理紗以上に簡単に木を引きぬき、片手で木を持ち上げていた。その手元は明らかに木に食い込んでいる。


 マヒルたちの力って俺たちを超えているんじゃないか、これ。


 幼女が片手で持った木を振り回すという亜理紗以上に異質な光景を見て、俺はそんな風に思った。


「ピッ」

「ピィッ」


 さらにワラビモチやカシワモチも参戦。彼らも体を変形させて木の幹を包み込んで持ち上げると、簡単に引き抜いてしまった。


 俺の仲間たちは皆優秀だな。


「ただ、木はこのままだと枝とか、根っこが邪魔だな」

「きゅっ!! きゅうっ!!」


 俺の呟きを聞いていたマヒルが手を上げて、ワラビモチたちが持っている木に向けて手をかざす。


 ――スパパパパッ


 すると、枝や根っこが切り落とされ、操り人形のように宙を舞って離れた場所に積み重なっていく。


 それはとても不思議な光景だった。


「あれは風魔法かな」

「なるほど」


 亜理紗によれば、風の刃で切り落とし、それを風の力で一か所に運んでいるらしい。魔法が便利すぎるので、可能なら俺もいつか覚えたいところだ。


 木は幹を残してスッキリ。とても持ち運びしやすい形になった。


 俺達は木材を一か所に集めて積み重ねていく。


 ワラビモチとカシワモチが頭の上に木を乗せて、飛び跳ねながら運ぶ姿は非常に可愛らしい。


「うほぉ、これは良い動画が撮れそうだねぇ、ぐへへっ」


 その様子を見ながら木を運ぶ亜理紗が怪しい笑みを浮かべて涎を垂らしているが、見て見ぬふりをした。




「滅茶苦茶さっぱりしたな」

「そうだね」


 数時間後、ざっと五百メートル四方くらいの木々を伐採というか引っこ抜き、ヨルの土壌操作によって地面に整えると、森にぽっかりと開いた平地が出来上がった。


 これくらいの土地の畑があれば、自給自足もいけるだろう。


 まぁ足りなければ、もっと切り開けばいいだけだ。今のところはこの広さで問題ないだろう。


 気づけば日が傾き、辺りがオレンジ色に染まってきていた。


「よし、今日はこのくらいで作業は終わりにしてご飯にしよう。昼食べるのも忘れてたしな」

「そういえば、お腹空いてたよ」

 

 作業に夢中になっていた俺たち。落ち着いた所でようやく腹が減っていることを体が思い出す。


「それじゃあ、風呂に入ったら集合してくれ」

「さんせーい!!」

「「きゅっ」」

「「ピッ」」


 俺達は一斉に風呂に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る