第039話 ハッピーおじさん、土地を買う

 六人では食べ切れない程の量があった食事も、マヒルたちがペロっと平らげてしまった。


「あーん、可愛すぎぃ!!」

「キュンキュンッ!!」

「キュウ」


 しばらく歓談した後、亜理紗が狐に戻ったマヒルとヨルと戯れている。


「とても素晴らしい光景だとは思わないか?」

「ピッ」

「ピィッ」


 俺がその様子を微笑ましく眺めながら、膝の上に乗せている二人に問いかけると、 ワラビモチ、カシワモチが同意するように体を縦に動かした。


 ワラビモチたちにも姪っ子とモフモフの戯れの尊さが分かるらしい。


「お前たちのぷにぷにも負けてないから安心しろよ?」

「「ピッ」」


 二人の何とも言えないモチモチとした感触もまたとても素晴らしいものだ。


「っと、そろそろ帰らないと」


 我に返った亜理紗が時計を見て呟き、マヒルたちを解放して帰り支度を始める。


 確かにもう結構いい時間だ。


「送ってくぞ?」

「平気だよ」


 女性の一人歩きは危険だと思い、準備をする亜理紗に声を掛けるが、彼女は遠慮する。


「本当に送って行かなくていいのか?」

「大丈夫だって。私は高レベルのプレイヤーなんだよ? それにカシワモチもいるんだから安心してよ」

「ピッ」

「そうだな。分かったよ。気を付けてな」

「はぁい。じゃあね」


 玄関で再度尋ねるが、亜理紗は呆れたような顔で返事をした。


 それはそうかもしれないが、俺にとっては可愛い姪っ子。心配になってしまうのはどうしようもないんだ。


 しかし、彼女の言うことも一理あるので、それ以上言うのを止めて大人しく見送った。


 精神的に疲れた俺はベッドで横になる。ようやく落ち着いてきて宝くじの当選という現実を受け止められるようになってきた。


 それと同時に先日考えていたことが現実味を帯びてくる。


 人に化けることはできるが、この子たちは狐型の召喚獣だ。


 彼女たちが暮らすには都会は窮屈だろうし、この子たちの容姿は人目に付く。悪いことをしているわけでもないのに、コソコソと暮らなければならないのは嫌だし、かわいそうだ。


 それなら人の目を気にしないでいい場所で、のびのびと暮らさせてやりたい。


「あの辺りの土地は買えないんだろうか」


 その候補として思い浮かんだのは、マジックシルクシープたちが生息していた土地。程よい自然環境が整っていて、都市へのアクセスもそう悪くない。


 モンスターが出る区域なので周りには何もない。だから、ちょっとやそっとうるさくしたところで何も問題ないし、広いのでマヒルたちも存分に遊び回れる。


 あそこならマヒルたちのスキルを活かして農業ができるし、鍛冶や服飾などの装備を作ったり、ポーションや便利な道具などを作ってもいいだろう。


 そのアトリエや家も自作してみるもいいかもしれない。


「明日、ちょっと相談してみるか」


 俺は不動産関係の仕事をしている知人に電話することにした。


「キュウンッ?」

「キュキュウ?」


 俺が呟いたのを聞いていた二人が左右から不思議そうに顔を覗き込んでいる。


「はははは、何でもない。もう寝ような。おやすみ」

「キュウッ」

「キュ」

「ピッ」


 今日も結局皆で一緒に眠ることになった。夏だから少し暑かったが、モフモフプニプニに囲まれ、幸せな気分で俺の意識はゆっくりと闇に呑まれていった。




「ふぁ~、良く寝た」


 時計を見ると、すでに10時を回っていた。


 かなり寝たおかげか、とてもスッキリしている。


「マジか」


 のんびりブランチをとった後、予定通り知り合いに電話してみると、あの土地はちょうど売りに出されているということだった、しかも格安で。


 なんだか運命のようなものを感じる。


「買っちゃおうかな」

 

 俺は銀行で当選金を受け取りと、詳しい話を聞きに行くことにした。


「楽しみだな?」

「キュンッ」

「キュッ」

「ピッ」


 銀行を目指して歩きながら三人にこれからの予定を話すと、皆嬉しそうに鳴いて俺に体を擦り付ける。


「キャー!! 誰か!!」


 しかし突然、どこかから女性の悲鳴が聞こえてきた。


「どっちだ!?」

「キュンッ」


 俺の叫びにマヒルが肩から飛び降りて俺を先導する。すぐにその後を追って走る。


「あれは!?」


 しばらくついていくと、視線の先に刃物を持った男に襲われている女性が見えた。恐らく通り魔か何かだろう。


「うぉおおおおおっ!!」


 ただ、男は叫び声を上げながらすでに女性の間近に迫っていて、プレイヤーの身体能力をもってしても間に合いそうにない。


「止めろ!!」


 俺が少しでも怯めばいいと思って思いきり叫んだ。


「あっ」

「えっ?」


 その瞬間、男は何かに躓いたように体勢を崩して地面に顔面から突っ込んで引き摺りながら滑った。余りの急展開に女性は呆然としている。


 しめたっ!!


 俺たちはすぐに男を取り押さえ、警察に引き渡すことに成功した。

 

 その後、事情聴取などで時間がズレてしまったものの、特に何事もなくスムーズに当選金を受け取り、シルクシープが生息する地域の土地を買い上げてしまった。

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