第030話 変態の企み

「改めて紹介するね。ルウっていうの。この店の職人よ」

「よろしく~」


 ルウの興奮が落ち着いたところでようやく中々個性的な女性を紹介された。


 改めてみるルウは、ふるふわウェーブのボブカットの女の子で、見た目は亜理紗よりも少し年上の大学生くらい。


 微妙にずれた眼鏡とよれよれの白衣を着ている。職人というより研究者のような雰囲気を出していた。


「俺は関内巫光。こっちはマヒル、ヨル、ワラビモチだ」

「私の頭の上にいるのがカシワモチね」

「キュッ」

「キュンッ」

「ピッ!!」

「ピピッ!!」


 俺の言葉に応じてマヒルたちも挨拶をする仕草をして返事をする。


「ぐへへ~、かわいいでちゅね~、ぐほっ」


 挨拶を聞いていたルウが、人に見せてはいけないような笑みを浮かべてこっちに迫ってこようとするが、再び亜理紗の叩き込まれた。


「いいから。話を進めてよ」

「ご、ごめん、つい興奮してしまって。それでマヒルちんとヨルちんの服が欲しいんだっけ?」


 亜理紗が殴って正気を取り戻させることで、ようやく本題に入ることができた。


「ワラビちゃんとカシワにも何か付けられるなら欲しいけど」


 そうだな。マヒルとヨルだけっていうのも可哀そうだ。でも、ワラビモチとカシワモチって何か装備できるんだろうか。見た目はただの大きなグミだぞ?


「そうだねぇ。他のグミーと同じなら飾りみたいな物を体の表面に固定して付けられるはずだよ?」

「二人とも、そうなの?」

「「ピッ」」

「いけるみたい」


 グミーでも装備できる物があるんだな。これもゲームのモンスターだからだろうか。


「そしたら、ワラビちんとカシワちんには飾りを作ってあげるよ」

「分かった」

「ただ、変身個体用の服の生地の材料が切れていてね。取ってきてくれない?」

「ルウは忙しいもんね。いいよ、そのくらい。その代わりお代は勉強してよね」

 

 亜理紗はちょっと考える仕草をしながらルウの依頼を引き受ける。


 店をやっているのならそりゃあ忙しいよな。こんなところに店を開けるくらい稼いでいるんだろうし。


「んーん、お代はいらないよ」

「何を企んでるの?」


 ルウの返事に亜理紗が訝し気な表情を向ける。

 俺も同じ気持ちだ。無料ただよりも高い物はない。


「いや、別に何も企んでないって」

「嘘つかないでよ。白状しなさい!!」


 ヘタな口笛を吹いて誤魔化そうとするルウに、亜理紗がヘッドロックする。


「ぐぇええええっ……ギブギブッ」

「それで?」


 腕をタップして解放されたルウに、亜理紗が再度尋ねた。


「服を作るついでにモフモフしたいなぁって……あわよくば写真も撮ろうかなって……」

「まったく……そんなことだと思ったよ」


 ルウの白状に呆れた顔をする亜理紗。


 まさか裏でそんなことを考えていたとは。でも、思ったよりも大したことがなくて安心した。もっとヤバいことを企んでいるんじゃないかと思っていたからな。


 マヒルたちを監禁するとか。


「おじさん、どうする?」

「俺はマヒルたちが嫌じゃなければ、モフるのも写真を撮るのも構わないが……」


 亜理紗に話を振られた俺は、マヒルたちに顔を向ける。害はなさそうだったので、マヒルたちの判断に任せることにした。


 モフりたくなるのも、思わず写真を撮りたくなるのも、とてもよく分かるからな。俺の召喚獣や従魔はそれくらい可愛い。


「「キュンッ」」

「「ピッ」」

「痛くしたり、変なことをしなければいいみたいだぞ」

「当たり前だけど、写真も勝手に公開しないでよね」

「しません、しませんとも!!」


 二人の返事を代弁すると、ルウは眼鏡の奥を輝かせてブンブンと首を縦に振る。


「交渉成立ね。それで、なんの素材をとってくればいいの?」

「マジックシルクシープの糸を二十個くらいかなぁ~」

「分かった。上位種の糸でも構わない?」

「勿論良いよ」


 あっけなく話は纏まった。


「オッケー。それじゃあ、おじさん、いきましょ」

「了解」

「え、もう、いっちゃうのぉ~? もう少しここにいようよぉ~」


 店を出ようとすると、ルウが俺たちに縋りついてくる。


「自重しなさい!!」

「ぐへっ」


 亜理紗が足蹴にすると、ルウは壁にぶつかって地面にずり落ちた。


「い、いいのか?」

「大丈夫だよ。あれくらいで死んだりしないから」


 ルウがぐったりしている様子を見ると心配になるが、亜理紗がそういうのでそのまま店を後にした。


 俺たちはマジックシルクシープが生息している地域に急行する。幸いまだ朝早い時間だったので、目的地までスムーズに移動できた。

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