第14話 完結
エルシーはヴァルから、ロビンが数日前に王都に到着したと聞かされていた。
ロビンはロージーとヴァルよりも3歳年上で商売人だった。
彼はロージーに育児の責任能力が無いとしてシャリーの保護責任者となり、承認書にさっさとサインをした。
なのでシャリーは目を取り出された。
そう聞くと残酷に聞こえるが『これで安全になったから良かった、他国でシャリーのために義眼を作る』とロビンは言ったそうだ。
それからまた何日かが過ぎた今日、ロビンがシャリーを連れて他国に戻るというので、別れを告げに二人で教会を訪れた。
あのロージーのお兄さんと聞いて、エルシーは不安だった。
それに教会にはロージーもいる、ヴァルがシャリーの為にまた離婚すると言い出しそうでエルシーは怖かった。
だから早く抱いて欲しいのに、ヴァルはその気が無さそうだ。
マーサからいろいろ教えて貰って覚悟はできている。
ベッドで手を繋いでこっちがドキドキしているのに、平気でぐっすり眠っている。
と言って、自分から誘惑するのも恥ずかしい。
ロビンと挨拶を交わすと、彼はエルシーに握手を求めた。
ヴァル以外の男性に触れるのはまだ躊躇したが、ロビンの手をそっと握った。
「こんな美しい奥さんがいるのではロージーは適わなかったな」
「ロージーは俺に頼りたかっただけだ。これからはシャリーを頼むよ」
「勿論だ。長いあいだ妹達の面倒見てくれて有難う」
ロビンは迷惑料も払うと言ったがヴァルは断って、ロージーにかかった生活費だけ貰っておいた。
話していると神官がシャリーを抱いて現れて、ヴァルはシャリーを抱かせて貰えた。
甘いミルクの匂いがして、もう会えないと思うとヴァルは切なくなった。
「可愛い、私にも抱かせて」
エルシーにシャリーを渡すとロージーが現れた。
「ヴァル! やっと会えたわ。淋しかった」
化粧をしてて遅くなったロージーはヴァルに駆け寄ると当り前のように抱き着いた。
きっと毎日こうだったんだなと、エルシーは怒りが沸いた。
「私ね、今度こそヴァルの子どもを産みたいわ」
ロージーは態とエルシーを無視である。
彼女がこういう非常識な人で良かった、素敵な人だったら夫は本当に浮気したかもしれないとエルシーは密かに思った。
「離してくれ、俺はもうロージーとは赤の他人だ。いや、最初から他人だった」
「酷い!私を愛してるって言ってくれたよね? 私はずっとヴァルと一緒にいる!」
「俺が大切だったのはシャリーだ。君を愛してなんかいない」
「ヴァル、シャリーの父親になってお願いよ!」
「やめてくれ!」
これはまずい。一緒に来て正解だったとエルシーは思った。
ヴァルはきっと押しに弱い、人が良いから面倒事も断れないのだ。
その上まだシャリーを溺愛している。
シャリーをロビンに渡して、エルシーは息を吸った。
「ロージーさん、お断りします! ヴァルは私の夫です!」
「上辺だけでしょう?妹みたいな存在だっていつも言ってたわよ」
「いいえ、もう本当の夫婦です。子どもだって直ぐに出来ます」
教会で嘘をつくのは心苦しいがロージーの未練を夫に残したくなかった。
「嘘、嘘でしょうヴァル?」
「本当だ。エルシーは俺の愛する妻だ。エルシーに似た可愛い子が生まれると嬉しい」
以心伝心、ヴァルはエルシーの肩を抱き寄せた。
「何よ!もういいわ。もっといい男見つけるから、ヴァルなんかいらないわ!」
「フレッドみたいな屑はもう御免だぞ。今度はもう誰もお前を助けてくれないからな」
ロビンは、こちらに向かって黙礼し、シャリーを大事そうに抱えて教会を出た。
ロージーはまだ文句を言いながら兄の後を付いていく。
「ロビンはこれから妹に手を焼くだろうな。実家との確執もあるだろうが、もうロージーが頼れるのはロビンだけだから。ただ、シャリーには幸せになって欲しい」
ロージーが癇癪を起こしても、シャリーは泣かなかった。
きっとこれからはロビンの元で幸せになれる。
ヴァルの安堵した顔にエルシーもこれで洗脳は解けて、全て終わったと思った。
「ロビンさんは良い人でしたね」
「ああ、俺を弟のように可愛がってくれた。だから彼の妹を放っておけなかった」
「分かってます。私、教会で嘘をついてしまったので懺悔しないと」
「嘘にしなければ大丈夫だ。早く帰ろう」
「はい!」
レノには申し訳なかったが、エルシーは思い切って王都に出てきて良かったと、今は思えた。
村に隠れたままだとヴァルはロージー達と他国に行ったかもしれない。
いや、溺愛しているシャリーと共に行ったに違いない。
私は村で後悔して泣いていただろう。
(誰にも夫は渡さないわ。妻は私なんだもの)
幸せいっぱいの笑顔でヴァルの腕に縋るエルシー。
愛しいエルシーに腕に縋られて、幸せいっぱいなヴァル。
シャリーに魅了のような洗脳を受けていたが、今日抱っこしてそれも解けたと確信した。
無気力な気持ちも消えて、王宮騎士団に入った当初のようなやる気が満ちていた。
最後まで信じてくれたレノや愚かだった俺を許してくれた妻のエルシー、そして支えてくれた人たちの恩に報いるためにも、家族を大切にして主だと認められる男になろう!と改めてヴァルは決意した。
エルシーが歩きながら嬉しそうに話しかけてくれる。
「子どもはねレノみたいな男の子が欲しいの」
「そうだなレノは良い子だ。俺はエルシーみたいな可愛い女の子も欲しいよ」
ヴァルは女性経験が全くない童貞だ。
(どうかエルシーに嫌われませんように)
祈る気持ちで歩いていたなんて、エルシーは知らない。
そんな二人は数年後には王都に屋敷を購入して、可愛い子どもに恵まれて幸福な家庭を築いていた。
最後まで読んでいただいて有難うございました(*’∀’人)♥*+感謝!
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