オーク三匹衆との戦い

「もしオマエたちが今後一生人類に危害を加えないことを誓うなら、命を見逃してやろう」


 俺は騎士団のルールに乗っ取り、全速力で走って息切れしているオーク3匹に情けをかけた。


 


 意思疎通ができる魔物に対しては駆除する前に必ず最低1回は情けをかけることが騎士団のルールとして定められている。


 ただし、この情けに応じる魔物は全体の一割にも満たないが。

 

 情けをかけられた3匹のオークは息切れする中、なぜか組体操の扇のポーズをとって自己紹介を始めた。


「オデ、ナミスケ!」


「わたくしの名前はキンスケですわ!」


「拙者の名はギンスケでござる!」


「三匹!」


「合わせまして!」


「オーク三匹衆でござる!」


 見事な自己紹介を決めたオーク三匹衆は扇のポーズを崩し、三匹とも頭の鎧を外して俺達をにらみつける。


「オデ、誓ワナイ!」


 普通のオークと同じ茶色の毛並みのナミスケが片言ながら堂々と情けを破棄する。


「わたくし、醜悪な人間なんかの言うことなんて聞く気はありませんわ」


 名前通り金色の毛並みのキンスケが人間をけなしつつ情けを破棄する。


「拙者に情けなどいらぬ!」


 名前通り銀色の毛並みのギンスケが簡潔に情けを破棄する。

 

 こうして、俺達とオーク三匹衆の戦いが始まった。




「オデノ鎧、トッテモ堅イ!絶対ニ、斬ラレナイ!」


 ナミスケ着ているワラの鎧を高く評価しながら俺を殴ろうとする。

 

 俺はキンスケやギンスケの位置を考慮しつつ、身長の3倍ほど高く跳んで避けた。


 そして、その隙にナミスケはワラの鎧ごとアンドロのトライデントに斬られた。


「ナ、ナンデ!?柔ヨク剛ヲ制スハズ?!ワラノ鎧ハ柔ノ極ミ、ナゼ一撃デ斬ラレタ?!」


 ナミスケが胴体から血を流しつつ困惑している。


「鎧の場合は硬くないとダメなんですよ!」


 アンドロがナミスケに正論を突き付ける。

 

「まあ、なんてこと!ナミスケ様がお血を流されていますわ!人間、許すまじですわ!」


 キンスケがお嬢様のような独特な口調で仲間の負傷に怒りをあらわにする。


 なお、全員渋いオッサンのような声質であることからほぼ確実に三匹ともオスである。


「人類、許すまじですわ~!」


 着地した俺に向かって木の鎧を着たキンスケが襲い掛かってくる。


 なお、キンスケも武器を持っていない。


「わたくしの鎧はナミスケ様の鎧よりも堅いのですわ!」


 確かに、ワラの鎧よりも木の鎧の方が堅いのは確かだ。


「だが、木の伐採は斧の得意分野だ!」


 俺の鉄斧がキンスケの鎧を本体ごと砕く。


「ズルいですわ!木の鎧に対して斧なんて勝てて当然ですわ!」


「だったらシャベルでとどめを刺す」


 キンスケの主張に応じてベガがシャベルでキンスケの頭を潰した。


 どうやらベガはその前にナミスケにもとどめを刺したらしく、ワラの鎧の残骸がオークのキバと共に近くに転がっていた。




「ナミスケ殿、キンスケ殿……仇は必ずとるでござる」


 一人残ったギンスケが決意を新たに俺達をにらむ。


 ギンスケの鎧はレンガで出来ていたため、他二人と違って先ほどの乱闘で致命傷を受けなかったようだ。


「拙者はキンスケ殿と同様に特異な生まれを持つ者……拙者最大の技、受けてみるでござる!」


 鎧で守っていない頭を使い、ベガに頭突きをしようとするギンスケ。


 ベガはペガサスのときと同様にシャベルの柄でそれを受け止める。


『ピキッ』


 金のシャベルの柄に若干のヒビが入る。


 ベガと俺はそれを見て困惑の表情を浮かべた。


 しかし、次の瞬間にはベガの表情は戦闘中のデネブさんのような険しいものになり、馬鹿力を使って金のシャベルの刃先でギンスケの頭を一瞬で残骸が残らないほど粉々に潰した。


 ギンスケは即死し、レンガの鎧のみが残った。




「おかしい……ただの突然変異にしては何かがおかしい……」


 再び大森林へと向かう中、俺と催眠を解いたベガは金のシャベルについたヒビを思い出しながらあの銀色のオークについて考察していた。


「あの……金銀武器って基本破損しないのでしょうか?」


 アンドロが自分が持っている金の武器を見ながら、俺達に素朴な疑問を投げかける。


「ああ、金銀武器はとある武器の攻撃でしか破損させることはできないんだ」


「え⁈そうなんですか!そんなに金銀武器って堅いんですか⁈」


「うん、金の武器は銀の武器の攻撃でのみ壊せて銀の武器は金の武器の攻撃でのみ壊せるんだ……」


 ベガの言うとおり、金銀武器はその武器とは違う色の金銀武器でしか破壊できない。


 もちろん、同じ色の金銀武器同士で叩きあっても破壊することは不可能なのだ。


「じゃあ、どうして金のシャベルは銀色のオークの頭突きでヒビが入ったんでしょうね……」


 3匹衆は外見の滑稽さとは裏腹に謎の多い敵であった。

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