アルタイルの騎士~金の斧と銀の斧と金の魔王~

四百四十五郎

妹を名乗る謎の不審者

「お兄ちゃん、私を助けてください!」


 妹を名乗る不審者少女が首都にある俺の家を訪ねてきたのは希少な魔物ペガサスを駆除した翌朝のことであった。


「すまない。多分人違いだと思う」


「いや、私の兄はデネブという方に育てられたアルタイルさんだって恩人さんが言っていました!」


 なるほど、どうやら人違いで俺の家を訪れたわけでははないようだ。


 俺の名はアルタイル。

 

 2歳のときに魔王のせいで両親が死んで以来、父親の友人だった国家騎士団のデネブさんの家で育ち現在は国家騎士団員として活動している。


 最近はデネブさんの娘で幼馴染兼婚約者のベガと共に小さな家で暮らしている。


「……キミは何歳だ?」


「だいたい15歳くらいかな?」


 今の答えで生き別れの姉妹の可能性はかなり薄くなった。


 両親の死亡年齢的に計算があわない。


 しかし、不審者少女の顔と桃色のカールした髪は他人と断定できないほどに記憶の中にわずかにある俺の母親の面影とよく似ていた。


「いったいどういうことなんだ……?」


 俺は謎解きが壊滅的に苦手だ。


「今からキミを助けてくれそうな人を呼んでくるからちょっとだけ待っててほしい」


 そう言ってから俺は家の中に入り、まだ寝ていたベガを起こして今起きている出来事を伝えた。




 俺は小さい頃から自分の頭では解決できないほどの難問にぶち当たるたび、賢い幼馴染の助けを借りている。


「……ひとまず、その娘の正体を推理するには証拠不足だから、今から私がもう少し話を聞きいてみるね」


「ベガ、俺以外の人間との会話苦手なのに無理させちゃってごめんな」


「大丈夫だよアル君。いざというときは自分に催眠術かけてなんとかするから。それに……そろそろ人見知り直さないといけないし」


 そう言ってからベガは目が隠れるほど長い前髪を揺らしつつ、玄関へと足を運んでいった。


 俺もベガについていって再び玄関に立つ。


「あっ、あの、先ほど同居人に『助けて』と言っていたそうなんですが、どんな魔物から助けていだたきたいのでしょうか……」


 ベガが不審者に探りを入れる。


 確かに、自称する肩書を考えなければ彼女の目的で一番ありえそうなのは俺に魔物を駆除してもらうことだろう。


 たまに騎士個人に魔物退治を依頼する者もいるという話は聞いたことがある。


 なるほど、それなら話が早い。


 もしそうなら、討伐対象を手早く倒して細かいことを考えずにさっさと事を終わらせられる。


 さあ、どんな魔物の駆除でも依頼してくれ。


 強力な種族でも単体ならギリ倒せるこの俺に。


「魔王から助けて欲しいんです!」


 どうやら自称妹はとんでもないビッグネームに狙われていたようだ。


 魔王、この世界で一番強いとされる魔物。


 激しい憎悪を抱いた人間が人類全体に罰を与えるために変化したとされる魔物。


 人類が文明を手に入れて以来、何度もあらわれては倒された魔物。


 16年前に俺の父が相討ちで倒して以来、現時点まで発見報告がない魔物。


「……やっぱり魔王はすで生まれていたんだ」


 ベガは急に意味深な発言をする。


「これは混乱を避けるためにまだ一部の魔物学者にしか共有されてない情報なんだけど、最近になって信憑性の高い魔王の目撃情報が数件寄せられていて……」


「わかった。キミを魔王の魔の手から助けよう」


「ありがとうございます!お兄ちゃん!」


 正直、今の俺の実力で魔王を倒せるかどうかはわからない。


 でも、ここで逃げるのは騎士として情けない。


 たとえどんな強敵でも仲間の力も借りつつ確実に駆除する。


 それが騎士としてのプライドなのだ。


「ところでキミ、あとで魔物駆除の報告書を書く都合で名前を教えてくれないか」


「私の名前はアンドロです!」


「よろしくな、アンドロ」


「あっ、よろしくお願いします。あと私はベガです」


これが俺と幼馴染と自称妹による魔王駆除のための旅の始まりであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る