第31話 パリで物件探し
夕方に深井さんの家に行くことになった。バス停で落ちあうことになり、向かったが、バス停の名前ではなくて、バス停が駅から7個目とかそういう教えられ方をしたので、何度か間違えてしまった。
ようやく会えた深井さんは友達と私を待っていてくれて、(私が変な人かどうかやはり心配したのかもしれない)暖かく家を招き入れてくれた。
広めのワンルームで、とても素敵な部屋だった。
「オーナーが日本人女性で、フランスのブランドショップで働いていて、ここの部屋と自分の部屋も買ったみたいで…」と聞いた。
二部屋も異国で頑張って働いていて購入するなんて、すごいと尊敬した。その方はシングルマザーで子どももいるらしく、フランスで頑張っている日本女性がいることに感動した。
そして翌日、智子がやってくる日。
ようやく冒頭のオペラ座での再会になった。
まずはオペラ座近くにある日本人街に日本人向けの不動産屋さんがある。そこに相談することにした。
「今、賃貸が本当になくて…。いっそ購入物件ならあるんだけどね。安いよ? ワンルームだと一千万円くらいで買えるから」
(あの時はなぜかお手頃だった。とは言え買えないけど)
こちらの不動産屋さんは日本人経営なので、安心なのだが、補償金が結構高いのがネックだった。補償金が百万円くらいかかったような気がする。とは言え、一度見せてもらうことにした。
一つは左岸にあるとってもかわいいイギリス調の緑の壁紙が貼られた部屋だった。綺麗で素敵だったが、ベッドは一つでそれを二人で寝ることになる。確か十三万円くらいしたと思う。
小さいのに高い。さすがパリ。もう一つはエッフェル塔に近い近代的アパートで、まだ人が使っているらしく荷物が置かれていた。
どうやらブランド品の仕入れをしているらしく、高級ブランド店のショッパーがそこらへんに置かれていた。
ここも綺麗だが、部屋数は少ない上に、いかんせん値段が高かった。十四万円くらいだったと思う。
「賃貸は今はこれだけで…」と言われた。
後、今はないけれど、日本の本屋さんが二軒あって、掲示板があった。アナログだけれど、電話番号が書かれた張り紙がされていて、帰国する人がものを売ったり、アパートの次の借主を探したりすることができた。上には条件が書かれて、下は細かく分かれた紙に、電話番号が書かれている。それをちぎって、公衆電話から電話をかける。
大抵「もう決まった」と言われることが多い。
私も智子もがっかりしながら、ダメだったらまた本屋に向かう。
一件、パリ市外のところに電話してみると「是非見にきてください」と言われた。
「行ってみるか」と出かけることにした。
パリは街を出ると、すぐに風景が変わる。本当はパリ市内がよかったけど、物件が良ければ…ここも視野に入れるしかないな、と二人で話しながら向かった。
駅からも十五分ほど歩いて、そこは一軒家だった。
日本人とフランス人カップルのオーナーだった。一軒家とはいえ、一階部分はドアもなく、ガレージでもない空間があった。
「ここは?」と聞くと
「馬小屋なの」と答えられた。
確かに、馬はいないけれど馬小屋だった。
「何かに使えるでしょ?」と言われたが、多分使わない。
馬小屋のインパクトが大きすぎて、部屋の印象は何も残らなかった。パリ郊外だし、駅からもまぁまぁ遠く、使わない馬小屋がある…。申し訳ないけれど、その場で決めることはできなかった。
「やめておこう」と帰りの電車で言った。
お金も持ち合わせがない割に、私たちは妥協しなかった。せっかくパリで暮らすチャンスがあるのだから、妥協はしたくない。
二人で留学サポートセンターに出向いた。ここは今は違うかもしれないけれど、当時、本当に緊急の時にしかお助けしないという前提だった。お部屋探しは手伝いません、と書かれていた。
それでも「どこかそう言う話はないですか?」と聞いてみることにしたのだ。去っていく人いるだろうし、そう言うことで何か知っているかもしれない。
日本だと「●●はできかねます」となると絶対それは不可能だ。でもフランスはたまに「できかねます」も「仕方がないなぁ」となってできたりする。もちろん「できます」が「できません」になることもある。
まぁ、できなくてもいいから、何か情報がないかと聞くことにした。ちゃんと電話で行くことを伝えて、オフィスに向かう。
日本人スタッフだけど、フランスに長いせいか、やっぱり目の前で「部屋がない」と困った顔をすると受話器をあげてどこかに電話してくれた。
「目の前に来てるの。部屋を見せてあげて」と。
友達のマダムがいるから、その人が部屋を貸していて、部屋が開くかもしれないから、と言われた。
そして言われた住所に向かった。フランスではまだ人が住んでいる状態で部屋を勝手に見せたりする。だからその部屋の住人がいなくても、お構いなしで部屋に人が入ることがある。
優しそうなマダムが見せてくれた部屋は住んでいる人がいて、その人が外出している時だった。私たちも突撃したものだから、住人の許可は取っていない。だからまぁまぁ、散らかっていた。でも場所はパリ市内。部屋は一つ。値段は一番お手頃の六万円くらいだった。
「ここで二人で暮らす…のは難しいなぁ」と言って、とりあえず部屋を出た。
まだ住人がいるので、空き家ではない。だからこっちが決めるも何もないのだった。
「多分、来月出ていくって言ってたと思うの。出て行ったら、連絡するわね」とマダムが言ってくれた。
(まぁ、この多分は絶対じゃないのだ。実際、来月出ていかなった。)
ここは未定でありながらも、パリに居場所が見つかったと思えばいいか、と今回の部屋探しはこれで終わることになった。
深井さんは本当にいい人で、智子もうちで止まったらいいと言ってくれて、全く知らない人同士三人で夜を迎えた。ワインとパン、スーパーでおかずを買って、今日の話を聞いてもらいながら、夜は更けていった。
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