第7話 フランス人の家庭生活
ホームステイ先の家族はマダムとムッシューだったが、結婚して家にいない娘さんがたまに帰って来ていた。
朝、誰かの話声で目が覚めた。部屋とダイニングが近かったからかもしれないが、ボソボソとした会話が続いている。
起きる時間だったのもあって、少し躊躇したが、用意をしてダイニングに出た。
マダムとその娘さんがいて、
「正直に言って、私たちの結婚についてどう思う?」と娘さんが聞いた。
(うわぁ。タイミング悪い。しかし学校には行かな…いと)と思っていると、マダムが
「ねぇ、私たちの会話理解できないよね?」と聞いてきた。
「ノン」
(今、聞き取れたことは内緒にしておいた)
娘の方は全く気にしないようで「初心者だし、わからないでしょ?」という感じだった。
でも私はフランス人も意外と世間体を気にするんだ、という驚きだった。なんとなく、そう言うのを気にする人が少ないかと思っていた。しかも私は外国人だし、そんなことを誰に言いふらすのだ? とも思ったけれど。
さっさとご飯を頂いて、家を出ることにした。きっとまた親子で話し合いをしていることだろう。
マダムは短髪でいつもタンクトップを着て、日焼けをしていた。図書館で働いていると言うムッシューはちょっと学者みたいな雰囲気があって、よくパソコンでゲームをしている。
そしてマダムのシャワーがものすごく短時間だ。犬の水浴び? と思うくらい早い。フランスでは水が大切だからシャワーの時間は短時間で終わらせるべしと本に書かれていたので、私も十五分で終わらせることにしていたが、マダムは多分、5分位内で終わっている。
私が日本人と言うこともあって、魚をよく夕飯に作ってくれたし、ご飯も炊いてくれた。ご飯にももちろんパンがつく。
マダムのご飯は美味しかったが、ご飯はバターライスで、そして箸を出してくれる。平たい皿に乗ったバターライスを箸で食べるのはなかなかの苦行だったが、なぜか日本代表を気取った私はスプーンをくださいと言い出せずに箸で最後まできちんと食べた。
そしてちゃんと前菜、メイン、チーズの順番で出てくる。前菜と言っても家庭料理なので、簡単なものだが、前菜を食べないとメインが出てこないし、メインが終わらないとチーズが出てこない。なので、夕飯にどんなに早くても一時間半から二時間もかかってしまうのだ。
ただ、その時間はフランス語会話の練習にもなるので、それはそれで良かったのだが、毎回話題に困る。
「週末に一人でエクサンプロバンスに行こうと思います。日曜の夜に帰ってきます。晩ご飯は必要です」みたいなことを伝えた。
そうしたら、どうやって行くのだ? とか、あれこれ聞いてくれる。
フランス人は世話好きだと思う。バスに乗ろうと思うと言うと、バスはどこどこから出ているとか教えてくれた。
「バスで何時間くらいで着きますか?」と聞いたら、わざわざ地図を持ってきてくれて、距離を教えてくれた。
(いや、だからバスで何時間…)
フランス人ってすごく数字が好きで「あなたの街の人口は?」とかよく聞かれる。
人口何万人と言われても、あんまりピンとこないから私は自分の街が何人住んでいるのか記憶になかった。
距離は変わらない数字だ。でも移動時間は状況によって変わる。日本は割と時間通りに電車もバスも走るから「何時間で着く」と言うのが現実的だし、予定も立て易い。
フランスの列車は時間通りにまぁまぁ来るが、遅れることもままある。だから時間じゃないのかもしれないけれど…。結局、地図を広げられて、距離を教えてもらって、エクサンプロバンスに行くことになった。
(で、何時間後にエクサンプロバンスに着くのだろう…)
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