第138話 団欒

「さあさあ、食事の用意が出来ましたよ」

「みんな、できたでー」


 テーブルに食事が並べられている。


「やっちゃ、はりゃへったじょ」

「ハルちゃん、いっぱい食べてやー」

「今日は何ら?」

「今日はスネ肉のブラウンシチューですよ」

「おー!」


 ハルはもう座ってスプーンを手に持っている。ミーレがハルの首元にナフキンをつける。

 汚しちゃうかもしれないからね。今日はブラウンシチューだし。

 ルシカ特製のスネ肉のブラウンシチュー。スプーンでも切り分けられる位に柔らかく煮込まれたスネ肉に、デミグラスソースとトマトピューレのハーモニーだ。

 ちびっ子ハルも食べるので、ワインを少なくしてほんの少しだけ甘めになっている。


「いたらきぃ」

「いっぱいあるからなー、いっぱい食べてやー」

「このポテトサラダはカエデが作ったんですよ」

「おぉー!」


 ハルのお口の中はもうシチューでいっぱいだ。


「ちょーうめー!」

「ハル、お口の周りが大変な事になっていますよ」

「ん、しゃーねーんら。いっぱいお口にいれてーんら」

「ハルちゃんは、いつもお口いっぱいに入れるもんなー」

「しょれがうめーんら」

「でも、少し拭きましょう」

「ん」


 ルシカに素直に拭かれるハル。


「かえれ、さらだうめーじょ」

「ほんまに!? ありがとー! いっぱい食べてやー」

「おう」

「お肉がとっても柔らかいわ。ルシカ、流石だわ」

「アヴィー先生、有難うございます」

「本当に美味いぞ」

「美味しいわ」

「おう、美味い」


 みんな、大満足らしい。

 相変わらず賑やかな食事を終えると、ハルは直ぐにコクリコクリとし出した。


「ハル、ベッドにいこうか」

「ん、じーちゃん」


 長老がそっとハルを抱っこする。可愛くて仕方がないのだろう。長老の目尻が垂れている。

 ふんわりと大事そうにハルを抱っこする長老。

 ハルも安心して長老の腕の中で体を預けてトロンとしている。


「おやしゅみ~」

「おう、おやすみ」


 ヒラヒラと手を振りながら、もう瞼が閉じてきている。

 長老の後を、シュシュが付いて行く。また添い寝する気だ。シュシュでベッドが一杯になっていまうというのに。

 シュシュはいつもハルを大事そうに抱えて眠る。長い尻尾まで、絡ませている時もある。シュシュなりにハルが大事なのだろう。


「長老はハルが可愛くて仕方ないんだな」

「あら、なあに? リヒト」

「いや、だって長老のあんな顔は、ハルが来るまで見た事がなかったぞ」

「そりゃそうよ。可愛いもの」

「アハハハ、アヴィー先生もか」

「当たり前じゃない。曾孫なのよ。それも、居るとは思わなかったのですもの。だから、保護してくれたリヒトには感謝しているわ」


 おや、珍しい。アヴィー先生がリヒトに優しい。


「ハルが前に言ってた言葉があるんだ。『神の粋な計らい』ってな。ハルとの出会いが、そうじゃないかと思うんだ」

「リヒトでもそんな事を思うのね」

「アヴィー先生、俺達だってハルが可愛いんだ。ハルはもう俺の弟だ」

「ふふふ、有難う」


 平和で優しい時間が流れている。

 翌日はやっと2層へと向かう。もう少しだ。もう少しでこの国の精霊樹を全部回る事になる。

 次はどこに行くのだろう。


 翌朝、ハルがシュシュに乗って起きてきた。


「りゅしか、はりゃへったじょ」

「はいはい、朝ごはんを食べましょうね」


 折角、宿に宿泊しているというのに、ずっとルシカが食事を作っている。


「りゅしかの飯はうめーからな」

「そうですか? 有難う」


 ルシカの料理が美味しすぎるらしい。

 皆一緒に朝食を食べる。


「ハルちゃ〜ん、卵サンド食べてやー。自分が作ってん!」

「おぉー! かえれの卵さんろはしゅきら」

「ありがとう〜!」


 カエデの卵サンド。カエデが仲間になって、初めて作った朝食もこの卵サンドだった。

 フワフワで厚めの卵焼きを、表面を軽く炙ったパンで挟んである。

 大きなお口を開けて、齧り付くハル。

 それを蕩けそうな表情で見ている長老とアヴィー先生。可愛くて仕方がないのだろう。


「ハル、お口からはみ出てますよ」

「ん……んめー!」


 ルシカに口の周りを拭かれながら、美味しいと言っている。これは、カエデは嬉しいだろう。


「ハルちゃ〜ん、ありがとー!」

「ハル、スープもありますよ」

「ん、りゅしか、ありがちょ」


 今朝のスープはルシカ特製のジャガイモとベーコンのミルクスープだ。

 よく煮込まれたジャガイモがほっこりと優しいスープだ。


「んめー! りゅしかの飯はじぇっぴんらな!」

「アハハハ、有難う。ハル、ほっぺを拭きましょう」

「ん、またちゅくけろな」


 いつも通りの、賑やかで温かい時間だ。


「食べたら2層へ移動しよう」

「おう。長老、次はどこら辺なんだ?」

「そうだな。ハル、見られるか?」

「じーちゃん、今はたべてんら。お手々がちゅかえねー」

「ハハハハ、そうか。なら食べ終わったら見てみなさい」

「わかったじょ」


 ワールドマップを確認するのに、手は必要ないんだ。なのに、ハルはいつも両手を胸に当て目を閉じる。それがデフォになってしまっている。

 昨日は、ワールドマップが真っ白だとハルは言っていた。

 長老は分かっている様だが、ハルも練習しよう。

 2層に行った事がない訳ではないのだ。周辺の表示されている場所を考慮すると大体の場所は分かる筈だ。

 長老だって、隅から隅まで行った訳ではないのだから。




 ◇◇◇


お読み頂きありがとうございます!

書いていて、スネ肉のシチューが食べたくなりました。^^;

毎回綱渡りで投稿してますが、頑張りますよ〜!

いつも有難うございます!

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