第56話 ルシカ先生の魔法講座

 ハルがお昼寝の間に、ルシカ先生の魔法講座が開講されていた。


「わっかんねーなぁー」

「お腹の下辺りに温かいものがありませんか?」

「全然ねーな」


 胡坐のように足を組んで座り、お腹に両手を当てながら目を瞑っているトーマスさん。魔力を感じましょう。という初歩の初歩なのだが、それが分からないらしい。

 同じ獣人のカエデが横から口を出す。


「おっちゃん、深呼吸してみ? ゆっくり感じるんや」

「おう」

「ルシカ兄さん、1度魔力を流してみてやったらどうなん? ほら、自分にしてくれたみたいにや」

「そうですね。トーマスさん、お手を」

「お、おう」


 ルシカが出した手に自分の手を乗せるトーマスおじさん。何故だか照れている。どうした? ちょっとほっぺが赤いぞ。


「いや、エルフさんはべっぴんさんだからなぁ。男だと分かっていても照れちまうぜ」


 意味不明だ。男だと分かっているのに照れるのか。そんな事を考えているから集中できないんじゃないのか?


「私の魔力を流しますよ」

「おう! ドンとこい!」


 意味不明だ。そんなに構えることでもないだろう。


「おっちゃん、力を抜くんや。手からルシカ兄さんの魔力が流れてくるからな。それを意識するんやで」

「お、おう」


 ルシカ自分の手から魔力を流す……が。


「わっかんねーなー。ちょいポカポカする位か?」

「なんでやねーん! そのポカポカが流れてくるのが分かるんやろ?」

「そんな事言うけどな、手がポカポカするだけでだな」

「あかーん! おっちゃん魔力量はあるんやんな?」

「ん? 俺がもっとちゃんと見てみようか?」


 と、リヒトだ。それは、最初に確認するところじゃないだろうか。

 とにかく、リヒトが鑑定眼でトーマスさんを見た。


「あー……ちょっと無理かもな。少ねーわ」


 さっき長老がみて少ないと言っていたじゃないか。


「マジか!? 兄ちゃんもそんな事ができんのか!?」

「リヒト様とハルちゃんはできるねん。おっちゃん残念やったな」

「なんだ、ちびっ子もか!? ネコちゃんはそのクリーンはできんのか?」

「当たり前やん。クリーン位楽勝やわ」

「マジか!? まだちびっ子なのにスゲーな!」

「だからちびっ子とちゃうっちゅうねん!」

「アハハハ。カエデも最初はできなかったんだ。クリーンは消費魔力量も微々たるもんだから、魔力を感じる訓練を毎日続けたら出来るようになるだろうよ」

「そうか? 本当にか?」

「ああ。でも毎日根気よくしないといけねーぞ」

「お、おう」


 自信が無さげにトーマスさんが返事をする。


「あー、これは続けへんわ」

「そんな事ねーぞ!」

「リヒト様、獣人ってこんなもんなん?」

「まあ、其々だよ。俺達エルフにだってバラつきがあるのと一緒だ。偶々カエデは知らず知らずのうちに身体強化を使っていたりしただろう? いつも警戒するような状況で索敵を覚えていた。それが良かったんだろうな。だから、スムーズだったんだ」

「なんだそれ!? し、し、なんだって!?」

「おっちゃん、身体強化や。身体の能力が上がるんや。すっごい早く動けたり、高くジャンプできたり走れたりするんやで」

「ネコちゃんはそれが出来んのか!?」

「できるで。教えてもらう前から知らんと使ってたんや」

「スゲーなッ!」


 トーマスさん、感心ばかりしているが全く魔法は使えない様だ。


「ま、気長にやるぜ」

「そうやな、直ぐには無理でも毎日コツコツ続けるんや。継続は力なりって言うしな」

「アハハハ! 難しい事を知ってるな!」


 賑やかな魔法講座だ。ルシカはさっきから一言も喋っていない。


「でも、トーマスさんも流石獣人だぜ。身体能力が高いな」

「おう、そうかッ!」

「泳ぎが得意なんだな」

「そんな事まで分かるのかッ!?」

「リヒト様と長老はなんでも分かるんやで。ハルちゃんもやけどな」


 カエデが自慢気だ。自分の事ではないのに。


「やっぱエルフさんは違うんだな、スゲーな」

「そりゃ、あの大森林を守っているんだ。国は大森林の最奥だしな」

「そうか、そうだな」


 そのエルフ族の中でもリヒトは最強の5戦士の1人だ。どれだけ強いのか、まだ本領発揮までは見た事がないぞ。


「ハルが真っ先に突っ込んで行くからな。いつも心臓に悪いんだ」

「あのちびっ子がかッ!? あんなにポヤポヤしてんのにかッ!?」

「アハハハ。ワシの曾孫は強いぞ」

「そうなのか!?」


 最強のちびっ子だろうね。きっと。

 そして、コハルとのコンビは最強のちびっ子コンビだね。


「シュシュだって一緒に戦うぞ」

「聖獣様が強いのは分かってんだ。あの小さな子リスでも強いんだろう?」

「ああ、強いな」


 そこにシュシュも加わると超最強だ。

 機動力が高くなるからな。ハルはなんせちびっ子だ。まだ走るのも歩くのだって遅い。

 

「カエデ、ハルが寝ている内におやつを作っておきましょう」

「はいな、ルシカ兄さん」


 ルシカとカエデはキッチンへと入っていった。今日のおやつは何だろう。

 ハルはまだ夢の中だ。シュシュにくっついて小さく丸くなって寝ている。まるで、シュシュの子供の様だ。シュシュが大事そうにハルを抱えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る