25話 普通のおじさん、奇跡を目の当たりにする。

「あははっ、エヴァちゃんやったなぁ!」

「えへへっ」


 可愛い声が、二人分聞こえてくる。

 テント内で目を覚ます。よいしょと腰を上げて外に出ると、川辺で天使たちが戯れていた。


 釜の飯ではないが、やはりご飯を囲むと仲良くなれるのは、この世界でも変わらないな。


「あ、シガ様! おはようございます! すいません、起こしてしまいましたか?」

「あ……」


 ククリが私を見つけ、エヴァは急いで後ろに隠れる。

 昨日話していてわかったが、エヴァは護衛任務の事を申し訳なく思っていた。

 それなのに遊んでいるなんて、と思ったのだろう。お


「いや、気持ちのいい目覚ましだったよ」

 

 私はゆっくりエヴァ近づいて、しゃがみ込み、頭を撫でる。


「何も気にしないでいい。護衛任務なのは間違いないが、私たちは今は仲間だ」

「……仲間?」

「ああ、同じだよ。エヴァも、私も」

「……わかった!」


 うむ、いい笑顔だ。


 それから朝ご飯を食べた。

 パンが良かったのでそうしたが、エヴァは大満足だったらしい。

 鮭おにぎりを食べながらククリが悔しそうにしていた。

 勝ち負けではないはずだが……。その後、空間魔法でテントを収納していると、エヴァが声をかけてきた。


「それは、魔法なの?」

「ああ、私の魔法だ。とてもめずらしいものらしい。エヴァと一緒だな」

「やっぱり……怖い?」


 ……怖い、か。

 彼女の魔法は非常に珍しい。

 戦争のきっかけをミハエル王から聞いたが、その事も関係しているらしい。

 エヴァ自身は知らないはずだが、何か感づいてはいるんだろう。


 いや、ここはハッキリと言うべきだ。


「……めずらしい魔法は悪い人に狙われるかもしれない。だが、反対に良い人もいっぱい助けることができる。私には出来た。エヴァ、君も必ずできるはずだ」

「……そうかな」

「ああ、約束する」


 彼女の魔法はどの国も喉から手が出るほど欲しいだろう。

 怖くなるのは当然だ。


 護衛任務、最後まで必ず守り通す――「きゃああぁっっ」


 その時――悲鳴が聞こえた。


 女性の声だ。


 私は、急いでククリを顔を見合わせた。

 いつもならすぐに向かうが、今はエヴァがいる。


「……ここで待っていてくれ」

「いえ、シガ様だけに行かせるわけには行きません! 私も――」

「私も行く」


 そのやり取りの途中、エヴァが言った。

 ダメだと声をかけようとしたが、目をみてわかった。


 覚悟の目だ。

 

「なら、三人で行くぞ!」


 ▽


「ギュルル? ギュルル?」

「や、やめて……」


 道の端に追いやられたのか、若い女性がゴブリンに襲われている。

 そして、頭を殴られそうになっていた。

 

 まずい、急がねば――。


「火よ、燃え尽くせ!」


 その時、私の横でククリが炎を放った。

 手の平から威力の高い魔法が、飛んでいく。


 それがゴブリンに直撃すると、悲鳴を漏らす。


 私は真っ直ぐ駆け、炎で叫び暴れているゴブリンの首に剣を振りかぶり、首を落とした。

 ゴロゴロと赤い炎の頭部が落ちると、サッカーボールのように転がっていく。

 このむごい戦いにも、随分と慣れてしまったな……。


「大丈夫か?」


 倒れている女性に顔を向けるが、腕から血を流している。

 鈍器で強く殴られたのだろう。間違いなく骨折、いやそれ以上……。


「ううぅ……ありがと……ございま……す」

「すまない、悲鳴を聞いてきたんだが」

「い、いえ。助かり……ました」


 よく見ると、肉が裂け、骨が……みえてしまっている。

 血が止めどなく溢れていた。


 これは……まずい。


「――エヴァ」


 私は、彼女を呼びよせる。

 ゴブリンの死体を見て震えていたが、名を呼ばれたことで振り返る。

 ゆっくりと近づいて、彼女の腕を見た。


「どうだ? 治せるか?・・・・

「……できる」


 咄嗟に訊ねてみたが、エヴァが答える。

 すると彼女は、両手をゆっくりと腕に翳した。

 温かい光が放たれ、見たこともないほど輝く。


 すると突然、裂けていた肉が閉じていく。

 同時に骨が再構築され、傷口が――塞がっていく。

 魔法の詠唱も必要ないというのか。


「すごい……」


 思わず感嘆の声を漏らす。


 私はレベルアップ時に自然治癒(弱)を習得した。

 その大きな理由は、回復魔法を覚えなかったからだ。

 国を移動し、ククリにも訊ねてみたが、ポーションはあるが、今まで魔法で扱える人は見たことがないとのことだった。



 初めは理由がわからなかったが、徐々に理解した。

 魔法はイメージの世界だ。


 火魔法を放つなら、火を知っていなければならない。

 それは水も、風も同じだ。


 つまり回復魔法に必要なのは、人体の構造であったり、血の流れ、身体の仕組みだ。

 医者が転生したら習得できるのかもしれないが――


「はい、お姉ちゃん治ったよ」

「あ、ありがとう……これ、魔法……なの?」

 

 しかし彼女は、エヴァ・ストーンは、この世界で唯一、回復魔法が使える女の子だ。


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