第44話 ホワイトクリスマス

鳳凰院家のクリパ参加が決まってからは割とバタバタであった。

帰宅して親父と青ねぇに鳳凰院からの招待を伝えると親父は完全に固まっていた。

青ねぇは『ほうほう、白雪さんを選んだのね』などとニヤニヤしていた。


そして翌週の放課後は白雪さんと色んな洋服店を回り、

俺が着る礼服を選ぶ事になった。

クリパにはソフィアと晴も招かれており、

2人も俺の礼服選びに参加する!と言って聞かず、

4人でデパートを回ることになった。


「蒼汰くんにはやはりダークグレイのものが似合うと思うんですよ」

「えー!そーくんにはもっとシックなブラックで良くない?」

「ソータ!燕尾服とかどう?

 あと蝶ネクタイも赤でいいよね!」

「いえ、ネクタイは名を表す蒼が良いと思います」

「ボクはネクタイの色は緑がいいって思うなぁ」


3人の意見に振り回され、着せ替え人形状態である。

ていうか3人ちょっと遊んでないか?


2時間ほど色々試した結果、

ダークグレイの礼服にクリスマスを意識して赤と緑のネクタイとなった。

結局俺の意見が入る余地はなく女性3人の意見で決まってしまった。

まぁ服にそこまで拘りないからいいけどさ。

裾直しの為に服は店舗に預けて数日後に取りに来ることに会った。

服を持って帰るだけだし、白雪さんが習い事の木曜でいいかな?と計画する。


「服選んでくれたお陰に何か軽食でも奢るよ」

そう返した俺に白雪さんが意外な提案をしてきた。

「それならサリーズコーヒーに行きたいです!」

てっきりデパートのレストラン街にある高級喫茶店を御所望かと思いきや、

全国チェーンのカフェを提案されたのだった。


「サリーズでいいの?」

「はい!サリーズがいいんです!

 以前みんなでカラオケ行ったり、

 ハンバーガーショップに行ったのも楽しかったですし、

 学生らしい放課後をもっと味わってみたいのです!」

そう言われて断るメンツは居なかった。


デパート1Fにあるサリーズコーヒーに入り、

3人にケーキセットを振る舞い、

夕方遅くまで楽しく話した。

来人も来れればよかったのになぁと家の用事で不在の親友を思い出す。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


そしてあっという間にクリスマスイブがやってきた。

我が家の前に高級外車でお出迎えが来た時に親父は

『本当に鳳凰院なんだな……』

とガチガチで呟いた。

大丈夫だよ、取って食われたりしねぇよ。


鳳凰院本宅のエントランスに着くと入り口の横にモミの木が生えていた。

いやいやいや前回来た時あんなの無かったじゃん。

本格的すぎるよ……


入り口では初めて見るメイドさんが迎えてくれた。

「亜栖瑠様でございますね。お嬢様が首を長くしてお待ちです」

妙齢の女性はそう笑いながら案内してくれた。


そこは以前招待された巨大リビングよりも広いホールだった。

何でもあるなこの屋敷。


「ソータ!やっと来たね!」

「そーくん、ヤッホー」

「お!蒼太も来たか」

いつもの3人がやってくる。

ソフィアは真っ赤なフレアドレス。

晴はエメラルドの露出控えめのドレス。

来人はなんかちょっとブカブカ気味な礼服だった。

「ソフィアも晴も凄い似合ってるよ!

 そころで来人は何だソレ?」

「俺ごときに礼服新調はまだ早いとか言われて親父の礼服押し付けられたんだよ!

 メタボ腹の親父サイズだから全然俺に合わねぇ」

「ははは、そりゃお気の毒」

「そういうお前は似合ってるじゃん」

「センスある3人が選んでくれたからな」

そういってソフィアと晴に視線を送る。

「そーちゃん、お姉ちゃんのことは褒めてくれないのかな?」

俺の背中に青ねぇがしだれかかってくる。

「ごめんごめん、青ねぇも凄く大人って感じで似合ってる」

青ねぇはマーメイドドレスとでもいうのだろうか

かなり背中のラインがピッチリ見えちゃうセクシーなドレスを着ている。

「んふふ~、よし!」

俺の言葉に満足したのか青ねぇは満面の笑みだ。


さて立食式だし何か食べ物でも取ろうかな?

そう思った時だった。

「蒼太くん!」

ホールに綺麗な声が響く。

振り返るとそこには天使が居た。


真っ白なドレスに身を包んだ白雪さんは

美しいなどという言葉では言い表せない神々しい存在に見えた。


「蒼太くん?どうかしましたか?」

思わず見とれて固まってしまった俺に不審がった白雪さんが近付く。

「いや、何でもないから!

 ちょっと、いやかなり白雪さんが美しすぎて見惚れたというか……」

思わず反射的に出てしまった本音に白雪さんも赤面する。


「おーいバカップル。

 鳳凰院家の挨拶がないとパーティー始まらないぞ」

ソフィアの冷静なツッコミが入る。

「し、失礼しました。

 それでは行って参ります!」

そう言うと白雪さんは後から来たご両親と一緒に壇上に上がる。


「本日は鳳凰院主催のクリスマスパーティーに

 お越し頂き誠にありがとうございます。

 ほんの僅かな時間ではありますが、

 友人としての親睦を深める良い機会になればと思います。

 それでは……」

白蓮さんの合図と同時にメイドさんたちがテキパキと参加者に飲み物を配っていく。

「皆さんのお手元にグラスはいきわたった様ですね。

 それでは改めて乾杯!」

「「「「乾杯」」」」

白蓮さんの乾杯の挨拶が終わるとゆったりと音楽が流れ始める。

オーディオ放送ではなく音楽団の生演奏である。

世界が違う!!!


壇上から降りてくる白蓮さん達にワっと人だかりが出来る。

まぁ天下の鳳凰院だし当然の反応だわな。

しかし3人はそれらの人たちに断りを入れながら

真っすぐに俺達のところに歩いてくる。


「やぁ蒼太くん、よく来てくれたね!」

「蒼太さん、そして蒼太さんのお父様、お姉さま、よくぞお越し下さいました」

「えっと、他の色んな方がお待ちしているみたいですが大丈夫でしょうか?」

思わず敬語で聞いてしまう。

「問題ない、それにまずは亜栖瑠雄大ゆうだいさんに挨拶すると決めていたからね」

「わ、私ですか!?」

親父が急な指名に固まる。

「ええ、我が娘白雪とご子息が交際していることはご存じですね?」

「はい!存じております!」

存じておりますって……親父、仕事の報告じゃないんだから……

てか周囲がザワついてる。

そりゃ鳳凰院のお嬢様が名前も知られてない一般家庭の男と

付き合ってるという事実に驚かない人はいないか。


「うむ、よかった。

 そして先日ご子息を招き、2人の将来についてどう考えているか聞きました。

 すると嬉しいことにご子息は将来の結婚まで真剣に考えた交際だと言ってくれた。

 我が娘もそのつもりでいる。

 雄大さんがこの2人を認めて下さるなら今日を以て正式に婚約という事にしたい」

「こ、婚約ですか!?」

親父の顔の色が凄いことになっている。

周囲のざわつきも益々大きくなる。

先日の件からこうなると分かっていた俺と白雪さん以外はみんな驚いている。


「そーちゃんが婚約?」

「嘘!そーくんが婚約!?早くない!?」

「チッ、シラユキめ。早速手を打ってきたわね!」

「うわ……蒼太マジで白雪さんと結婚すんの。

 これ新学期のクラス荒れるわ」

うむ、クラスが荒れるのは怖いので黙っていて欲しい。


「どうですかな?」

白蓮さんの問いに今まで狼狽えていた親父がスッと表情を引き締まる。

「ウチの息子は世間的な趣味で言うと

 オタク的な趣味をしていて後ろ指を指されることもある男です。

 しかし、そういう趣味とは関係なく人間としての部分は

 何一つ恥ずかしくない男に育てたつもりです。

 当人たちが強く将来を願っているなら

 父親としてそれを祝福する以外の道はありません」

さっきまでの狼狽えっぷりとは別人のように覚悟を決めた親父は格好良かった。

「覚悟を決めた時の顔立ちが蒼太くんにそっくりですね」

白雪さんが耳打ちする。

血の繋がらない親父。

それでも似ている部分があると言われると

俺はこの親父の背中を見て育ったんだな……と少し誇らしい気持ちになった。


「皆さん聞いてください!我が娘白雪が本日正式に婚約することと相成りました。

 このような幸せな日はないでしょう!」

白蓮さんがそう言うと大きな拍手が上がった。

しかしよく見ると一部渋い顔をしている連中もいる。


「白夜さんほど強引ではないけどこういうパーティーで白雪を口説いて、

 いずれは自分が鳳凰院の一員に、という人は少なくないのですよ」

不思議がっていた俺に由利さんが教えてくれる。

ああ、なるほど。

さっき群がっていた人達の中には確かに大学生や20代と見られる若者もいる。

彼らは白雪さん狙いな訳だ。

そして、白蓮さんは彼らを牽制する為に真っ先に俺たちのところにきて、

婚約を確定させることにしたのか。


「そーちゃん、今日はずっと白雪ちゃんをエスコートしないとダメよ」

「うん、わかった」

青ねぇに言われて俺の今日の役目を改めて認識する。

俺は常に彼女の隣に立ち。

俺こそが白雪さんの婚約者なんだというのを見せつけねばならないのだ。


俺は白雪さんの前に立ち、そっと手を差し出す。

「お手を、よろしいですか?」

まるで絵本の中の王子様だ。

正直滅茶苦茶恥ずかしい。

でも白雪さんを他の男に渡す気はない。


「はい、よろしくお願いします」

白雪さんが俺の手を取る。

嬉しくてたまらない。

でも決して他の男たちを見ない。

これは見せつける行為だがそう思われてはならない。

あくまで俺達の関係は自然とこういうものであり、

改めて周囲の反応なんて伺う必要はないという態度で挑まねば意味がないのだ。


「うん、やっぱりお似合いの2人だ」

満足気に青ねぇが呟く。


その日1日俺は慣れないというか初体験のワルツなどに四苦八苦しながらも

白雪さんの婚約者としての責務をしっかり果たしたのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


大変だったクリスマスパーティーの翌日。

俺は上野駅の前に居た。


イブは家族でのパーティーだが

クリスマス当日はフリーな白雪さんとクリスマスデートである。

白雪さんと相談し、動物園と美術館を回ることにしている。

普段カドショの時は30分前に来る俺だが、

今日は気合を入れ過ぎて1時間前についていた。

服は完全に店員さんにお任せコーディネートの内容だが、

黒のスキニーパンツ、白のニットセーター、黒のパーカーと滅茶苦茶無難である。

ただ、学生にはちょっとお高めのハイブランドで揃えたので、

中身に伴っているかはともかく、ぱっと見でダサいということはないと思いたい。


待ち始めて10分くらいした頃だろうか、

男女の揉める声が聞こえてきた。

「ねぇ、いいじゃん。ちょっと遊びに行こうよ」

「人と待ち合わせなので失礼します」

「まぁまぁそう言わず。すっげー楽しい店知ってるんだ」

「結構です」

声の方向に視線を向けるとそこには

いかにもなチャラ男に絡まれている白雪さんの姿があった。


「白雪さん!」

思わず駆け寄る。

「蒼太くん!」

俺の存在に気付き、白雪さんも駆け寄ってくる。

そんな白雪さんを抱きとめる。


「何?君?ウけるー。 

 全然その子と釣り合ってないんだけど」

「悪いけどこれからデートなんで消えてくれ」

「はぁ?マジで彼氏なの?

 キミ男見る目ないよ。

 今から俺に乗り換えよ?」

「結構です」

「はい、白雪さんもこう言ってるしお兄さんもそろそろ引き際見極めよ」

「あん?キモオタが王子様気取りかよ」

「王子様というか婚約者なんで、そら良いところ見せるさ」

「ガキのくせに婚約者ぁ!?」

まぁ驚くわな。

「おい君たち何をしてる」

そりゃ駅前なのに大声で騒いでりゃ警備員も来てくれるか。

「チッ……」

警備員の姿を見て男は逃げ去っていった。


「ありがとうございました」

警備員にお礼を言って改めて白雪さんに注目する。

グレーのワンピースに、白いモコモコアウター、ピンクのマフラー。

アカン!

可愛すぎますよ!

いかにも冬の清純派少女という外見にクラクラきそうになる。

「白雪さん、今日の服装凄く似合ってる。滅茶苦茶可愛い!」

語彙力0の誉め言葉である。

「そう言って貰えると嬉しいです。

 蒼太くんも普段と違って凄く格好いいです」

「はは、俺は服に着られてる感じだけどありがとう。

 それじゃあまずは動物園行こうか」

「はい」

自然と手を繋ぎ歩き出す。

ここ1か月弱のデートの成果か恋人繋ぎにはやっと慣れてきた。

いや嘘。

本当は照れてるけど何とか平静を保っているように見せれるようになっただけだ。


チケットを購入して、入園する。

流石クリスマス。

家族連れも居なくもないが殆どカップルか夫婦である。


ただ、そんな中においても白雪さんの美しさは群を抜いている。

事実デート中の彼氏が白雪さんに見とれて

彼女から怒られるというシーンに何度か遭遇した。

それ以上に俺を見て怪訝な目線を向けられることの方が多かったが。

うるせぇ!釣り合いが取れてないのは俺が世界一分かってるよ!


しかしそんな俺の苛立ちは一瞬で消え去る。

「蒼太くん!モルモット可愛いです!もふもふです!」

動物ふれあいコーナーで無垢な笑顔を見せてくれる白雪さん。

この癒しの波動にはきっとどんなストレスも消し去る効果がある。


十分にふれあいを楽しんだ後は上野ならではのパンダコーナーへ向かう。

しかしパンダの人気は凄まじくかなりギュウギュウになっていた。

すると白雪さんは繋いでいた手を離し、スルッと俺の腕に抱きついてきた。

白雪さんの思わぬ行動に俺は思わずビクンと跳ねそうになる。

落ち着け、落ち着くんだ俺。

彼氏彼女なんだからこんなの普通普通。

きっと白雪さんだってあんなに自然に抱きついてきたんだし……

そう思って白雪さんの顔を見たら見た事もないほど真っ赤であった。


結局パンダのことはよく覚えていない。


パンダコーナーを抜けた後も白雪さんは腕に抱きついたままだ。

「……」

「……」

思わず無言になってしまう。

幕張の浜辺でハグもキスも済ませたというのに何だこの気恥ずかしさは!?


「あのさ、白雪さん。

 こういうのは焦らずにじっくりやっていこうよ」

そう言って俺は腕をほどくと恋人繋ぎに戻した。

「はい……」

俯きながらも同意してくれた。

「じゃあ動物園の続きを楽しもうか」

「はい!」

そのまま肉食獣の迫力やらゾウの大きさなど

久々にやってきた動物園を堪能した。


そしてそろそろお昼という時間になってきた。

「白雪さんお腹すいてる?

 動物園を出て、美術館までの間で良さそうなランチのお店入る?」

「いえ……その……ですね……」

 またも白雪さんがうつむきがちにモジモジし始めた。

「実はお弁当を作って来たんです……」

彼女の手作り弁当!

なんという甘美な響きだろうか。

そういえば白雪さんの今日のリュックは何か大きめだった。

まさかお弁当が入っているとは!

「本当に!?嬉しいよ!!」

「半分は料理長が作ったようなものなので……」

「そんなの関係ない!本当に嬉しい!

 それじゃあ上野公園で頂こうか」

そう提案し、俺達は動物園を後にした。


上野公園の一角にあるベンチに座り、お弁当を広げる。

「おお!美しい!そして王道だ!」

そこにあったのは決してお上品なお重などではなく

本当にお弁当箱に詰め込まれた定番のお弁当であった。

ミニハンバーグ、だし巻き卵、唐揚げ、ほうれん草のお浸しetc

更にご飯は白米ではなくおにぎりであった。

「凄く美味しそう。

 こういういかにもお弁当って感じのは食欲そそるよね!」

「お口に合うとよいのですが……」

「合うにきまってるよ!

 それじゃあ頂きます!」

そういって俺は最初に明らかに焦げ目がついているだし巻き卵に食いついた。

「蒼太くんそれは!?」

「うん、すっげー旨い。

 これ白雪さんが焼いてくれたんでしょ?」

「はい……、恥ずかしながら少し焦げてしまっていて不格好なのですが……」

「俺が卵料理好きなの知ってて作ってくれたの?」

「はい、蒼太くんは学食で親子丼や天津飯をよく選ぶのでそうなのかな、と」

直接言った訳でもない好物を覚えててくれて、それを手作りしてくれる彼女。

正直俺にはもったいないくらい最高の彼女である。


ちょっと形の崩れているおにぎりなんかもご愛敬で、

彼女のお手製弁当を心ゆくまで堪能した昼の一時は

人生で最高のランチかもしれない。


「御馳走様でした!」

「お粗末様です」

「いやー、本当に美味しかったよ。

 また食べたいくらいだ」

「そこまで褒めて貰うと調子にのってまた作っちゃいますよ?」

「白雪さんが大変じゃない範囲でならまたお願いしたいかな」

「では次の機会を考えておきますね」

食後の会話すら幸せに満ちている。


昼食後は美術館で絵画鑑賞。

正直こういう方面の教養ゼロの俺には凄さが分からんのだが。

白雪さんが色々と補足説明をしてくれたお陰で

絵画の世界の凄さが多少なりとも分かった気がする。

美術館を出るともう夕日が傾いていて日没間近であった。


「今日は1日楽しかったな」

「はい、とても充実していました」

駅への道を歩きながら色々と話す。

今日見た動物の事。

お弁当のどれがおいしかったという話。

美術の授業を頑張ろうと自覚したこと。


そしてあっという間に駅が近付く。

白雪のご両親は今までよりは門限に優しくなったが

それでも冬の夜に遅くまで連れまわす気はない。

駅に着いたらデートは終わりだ。


ふと白雪さんが立ち止まり、ぎゅっと手を掴む。

「白雪さん……?」

「実は朝からずっと言いたいことがあったのです。

 だけど蒼太くんに嫌って言われたらどうしようと思って今まで言えなかった」

ただならぬ雰囲気に俺は白雪さんに向き直り、真剣に彼女を見つめる。

話したい事とは何だろう?

昨日婚約して今日別れたいなんてコトはないと思いたいが……

「何でも言ってよ。

 俺に出来ることなら何でもするからさ」

なるべく明るく振舞う。

「では……

 年が明けたら学校でも婚約者らしく振舞いたいです……」

そ、そうきたかー!

11月末に付き合い始めた俺達だが2学期中は学校では友達のままで振舞っていた。

それを今の距離感で、ってことか。

正直クラスメイトや学校中の男子の嫉妬が怖い。

でも白蓮さんに将来のことまで話しておいて、

今更そんなの恐れてる場合じゃないんだよな。

むしろ乗り越えるくらいじゃないと彼女の隣には居られない。

「分かったよ。

 新学期からは学校でも恋人で婚約者だ」

俺がそう答えるとパァっと花が咲いたような笑みを浮かべる。


「あともう一つだけお願いしてもいいですか?」

「おう!何個でもドンとこい!」

「では私の事は白雪と呼び捨てにして下さい。

 私たちは婚約者なのですから!」

おおう……これは別の意味でハードルたけぇぞ……

しかしニコニコして明らかに呼び捨てを待っている白雪さんを前に

今更Noなんて言えない。


「分かったよ……し、白雪……」

「はい!蒼太様!」

様!?

「あの、白雪……様って……?」

「蒼太様は未来の旦那様なのですからそうお呼びするのが当然です」

ニッコリと言い切る白雪。

無理だ。

この子に様付けやめてとは言い辛い!

てか白蓮さんと由利さんってそういう感じで呼び合ってなかったよね!?

これって誰の入れ知恵!?


「蒼太様……今日最後のお願いです」

そう言うと白雪はそっと目を閉じて、顎を上げた。


ここ駅前で滅茶苦茶人の目あるんですけど!?


しかし惚れた弱み。

俺には彼女のお願いを断れない。


チュッ


人目を気にして本当に一瞬触れるだけのキス。


「ありがとうございます。

 本当に素晴らしい1日になりました」

「こちらこそ人生最高のクリスマスだよ。

 そしてこれは俺からのクリスマスプレゼント!」

サプライズで用意していたプレゼントを渡す。

「嬉しい!これ開けてもいいですか?」

「勿論」

小箱から出てくるのは雪の結晶をモチーフにしたネックレス。

「綺麗……あの……付けて貰っていいですか?」

「うん、後ろ向いて」

彼女の背後からネックレスを受け取りカチリとはめる。

「凄く綺麗です……」

胸元に光る雪の結晶をうっとりと見つめている。

「喜んで貰えてよかったよ」

「実は私もプレゼント用意してて……」

「マジで嬉しい!?」

白雪が取り出したのは俺が渡したのと同じくらいの小箱だった。

「開けていい?」

「どうぞ」

小さな小箱を開けるとキーケースが入っていた。

本革のいい奴だ……あれ?なんか付いてる?

キーケースの中には板のようなものが入っていた。

薄いプラスチックの板?

「白雪、この板は?」

「それは鳳凰院本邸用のICキーです。

 お父様が蒼太様に渡しておくようにと」

おいおいおい、あっさりと俺の命より重いものプレゼントにしないでくれよ……

「私が不在の時でも実家と思って自由に遊びに来て欲しいとおっしゃっていました」

行けるか―!!!

「そ、そっか。ありがたく頂いておくよ」

早急に金庫を買う算段を頭の中で練る事になった。



「それじゃあ帰ろうか。最寄り駅まで送るね」

「ありがとうございます!」

そう言って俺達は再び手を繋ぎ、駅へと向かうのだった。


そんな俺達を祝福するように白い雪が空に舞い始めていた。


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白雪の『蒼太様』呼びおよび『白雪』と呼び捨てにして欲しがったのは

ずっと憧れていた大好きな祖父祖母が夫婦間でこう呼び合っていたからです。

なお祖父祖母は残念ながら早逝して故人です。

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