第20話 あおの休息

ミーンミンミンミン。

自宅では最近聞くことの少なくなったセミの声が響く。

お盆になり亜栖瑠家の実家に里帰りしていた。

長野の山奥のド田舎である。

親父には兄妹がいないので実家に帰っても叔父伯母や従姉妹もいない。

いるのは爺ちゃんと婆ちゃんだけだ。

そんな山間の集落でのんびりと俺は過ごしていた。

「ねーねーそーちゃん暇じゃない?」

そんな俺に青ねぇが話しかけてくる。

「まぁ3日目となると流石に暇だね……」

移動のあった初日はそれなりに忙しく、

2日目は骨休みとして十分だらけた。

しかし3日目ともなると元気の有り余っている高校生には暇なのだ。

「確かに暇かも。しかしここまできてスマホで動画見るのもなぁ」

「だろうと思った!そんなそーちゃんに朗報です!」

「朗報?」

「うん、おばーちゃんに何かいいとこないか聞いたら近くに泳げる川があるってさ」

「川かぁ・・・でも何もしないよりマシだな」

「だよね!じゃあ2人で泳ぎに行こう!」

「え?青ねぇも一緒なの?」

「私だって暇だもん!それに暑いし涼みたいよ。

 そーちゃんはそんなに私と一緒なの嫌?」

「別に嫌とかじゃないよ。

 ただ、青ねぇと一緒に泳ぎに行くのとかもう10年くらいしてなかったからさ。

 まさか一緒に行くって言うとは思ってなかっただけ」

俺の記憶にある青ねぇの水着姿はスクール水着を来た小学生の頃の姿だ。

「ならいいや、準備して早速行こう!」

「そういや準備って言われても水着ないんじゃ?」

ここは海無し県の長野である。

「ふふふ、こんなこともあろうかと二人の水着は荷物に紛れ込ませてあります」

「何でこんなこともあろうかと思ったのか分からないけどありがとう」

そう言うと俺たちは水着の他にタオルや着替えなどを準備し川へと向かった。


集落の真ん中を川が流れているが少し上流に上り、支流に分かれたところへ向かう。

するとそこには小さな滝があり、泳ぐの丁度いい滝つぼが存在していた。

森林の少し奥まったところなので周囲に人家などもなく人の目を気にする必要もない。

たしかに暇つぶしとして泳ぐのにはちょうどいいかもしれない。

俺と青ねぇはそれぞれ滝つぼの反対側の藪に入り水着に着替える。


藪から出て水着姿で準備運動をしていると着替えを終えた青ねぇが出てきた。

青と白のストライプ柄のビキニ、しかもハイレグカットと言ってもいい際どいものだった。

余りにも刺激的な姿に思わず赤面し、顔をそらしてしまう。

「むふふ、そーちゃんどうしたのかな?」

ニヤニヤと笑いながら青ねぇが近づいてくる。

ふよんと青ねぇの胸が俺の身体に触れる。

「っっっ!!!」

必死に視線を逸らしていても青ねぇの体温を感じてしまう。

「ねぇそーちゃんどうしたの?

 せっかくそーちゃんに見て貰う為に買った水着なのに見てくれないの?」

「は、はぁ!?俺に見せる為ってどういう意味だよ」

「そのままの意味だよ、そーちゃんに見て貰う為に買ったんだよ?

 他の男になって絶対に見せないよ」

青ねぇは押し付けていた身体を一旦放し、俺に全身が見えるように目の前に立った。

白雪さんやソフィアとはまた違うスラっとしながらも

出るところは出ているモデル体型の美女が目の前にいる。


「そーちゃんがウチに引き取られた日の事覚えてる?」

不意に青ねぇはそんな昔話を始めた。

「いや、流石に覚えてないよ。確か3歳とかだったし」

「そうだね、でも私は覚えてる。ずっと望んでた弟が出来て本当に嬉しかった。

 そしてお姉ちゃんとして絶対に守ってあげるんだって心に決めた」

「あの時の青ねぇって6歳でしょ。そこまで思い込んでたの?」

「うん、だってそーちゃんは弟で私の初恋の人だもん」

「は、初恋!?」

「そうよ?一目見た瞬間分かったもの。

 私はこの子と出会う為に生まれてきたんだって本能で分かっちゃった」

青ねぇの顔はマジだった。普段の俺を揶揄う表情じゃない。

「その後お母さんが死んじゃって号泣するそーちゃんを見てますます思ったの。

 私が一生この子を守るんだって……。

 だからね、私の知らないところでそーちゃんが

 苦しんでたのを後で知った時本当に私も苦しかった」

アイツのことで青ねぇがそこまで傷ついていたとは知らず思わず顔を伏せてしまう。

「でもね、後悔してても何も始まらない。

 だからこれからの未来はそーちゃんを癒すために使おうって思ってたんだ。

 だけど私の力は要らなかったみたいかな?

 今のそーちゃんは以前のそーちゃんよりも凄く元気になってる。

 きっと素敵な人が見つかったのね」

青ねぇの言葉でふと3人の事を思い浮かべた。

きっと少し前までならアイツの事を思い出していただろう。

でも今は何故か違っていた。


「ん~、せっかくそーちゃんに尽くしてあげようと思ってたのになぁ」

「姉弟で尽くすとか何言ってんの!?」

「だって初恋の運命の人だもん。尽くしてあげたくなっちゃうよ。

 まぁでも姉と弟の関係は一生続くからね。

 もし恋人や奥さんとの関係がギクシャクしたらお姉ちゃんを頼っていいよ♪」

「青ねぇ……凄く重いこと言ってるの分かってる……?」

「重いとか分からないけどこれが私だし…

 あ、あと次は彼女が出来たらちゃんとウチに連れてくること!

 お姉ちゃんが認めない子とはお付き合いさせません!」

完全に小姑のようなことを言い始めた。

でもこれはあの時ボロボロだった俺を思って言ってくれてる事なんだと思う。

「分かった。

 次の彼女がいつ出来るか分からないけど出来た時はちゃんと青ねぇに紹介するね」

「よろしい!じゃあ泳ごうか!」

それから俺たちはひんやりとした滝つぼでの遊泳を楽しんだ。


しかしこの時の俺は思ってもみなかった。

青ねぇへのお披露目があんなにも早くやってくるなんて。

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