第3話 いとしいとし蛇のみ
蛇、蛇。と名前を呼ばれる。
私は『蛇』だなんて名前ではありませんよ。と伝えても人間は楽しそうな顔で私のことを『蛇』と呼んだ。
私と人間の男がなんの拍子か夫婦となってから一季節が経った頃、わたくしは腹に子を宿した。
「楽しみだね」
そう言って笑う人の子の顔に、私も微笑んだ。
この幸せが狂ってしまったのはいつからなのか。
けれどもある時、飢饉が村を襲った。
そうして私は神でありながら人柱にされると分かった時、すべてを覚悟したのだ。
人間は何も悪くはないのです。悪いのはすべてこの村に襲った災いなのだから、と。
だから――
「何故、そんな血塗れなのですか?」
分かっていて聞いた。夫は笑って言った。
「僕はお前だけが大事なんだよ。村なんてどうでも良い」
夫の血塗れの身体を抱き締めてやりたかった。なのに縛られた私のこの身体では出来ない。
――血で穢れた夫の身体には、神である私からはもう触れられない。
「蛇、もう怖いことはないからね? 泣かないで」
はらはらと流した涙の、その真意はきっと。
夫にはもう届かないのだろう。
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