第8話(1)トラップ (敵視点)
雲井時恵58才。結婚歴8回。死別8回。後妻業の女。
今にも死にそうな高齢者を狙うこともあれば、女を知らない中年男を落として奴隷のようにこき使いながら徐々に毒をもって殺すこともある。
そうやって遺産を手に入れ生きてきたが、さすがに8度も繰り返せば、警察も動く。
足を洗わなければいけなくなったころ、知人の男にダンジョンを紹介された。
ダンジョン内には特殊なスキンケア用品やメイクアップアイテムがある。それを使うと、外見を大きくかえられる。
つまり、醜い中年女性でも若い美女のように見せることができる。
メイクアップしてハニートラップを張り、油断させたところで、毒殺する。
そんな戦法をしばらくはとっていたが、時恵はある日偶然、トラップ製造機というアイテムを拾った。それは存在すらよく知られていない、非常にレアな武器の一種だった。
時恵はダンジョンでトラップを造った。
トラップにはモンスターも人間もかかる。
トラップにかかって身動きできなくなったモンスターを殺してステータスをあげる。
トラップにかかって身動きできなくなった探索者をなぶり殺し、良い装備を手に入れる。
そうやって時恵はひそかにダンジョンで成り上がっていった。
そしていつの間にか時恵は人知れず埼玉ダンジョンの100階層に到達していた。
だが、誰も時恵を知らない。ひとつには、埼玉ダンジョンの中層から下層辺りに到達した探索者は、そこで時恵に殺され消えるから。
そしてもう一つには、時恵は「身隠し」という特殊な特性がついたレア装備、透明マントを入手していたためだ。
透明マントを装備して姿を消し、罠を設置してじっと待つ。
その戦法をとる時恵は、探索者に発見されることすらなかった。
だが、時恵はやりすぎた。
埼玉ダンジョンの死亡率が異様に高いという噂は探索者の間で知れ渡り、埼玉ダンジョンに入るものがほとんどいなくなった。
いるのは上層を徘徊してすぐに出ていく高齢探索者たちくらいだ。……どんなによぼよぼの老人でもダンジョン内では元気に動けるので、埼玉ダンジョンの1階層は高齢者に人気のスポットになっていた。
そもそも、ダンジョンは人口密集地帯に多く出現したため、首都圏にはいくつものダンジョンがある。
そのため、埼玉県の探索者は危険な埼玉ダンジョンを避けて、東京に行ってしまった。
こうして、時恵の獲物は、モンスター以外にいなくなった。
普通の探索者なら、それで不満はないはずだ。下層の貴重な宝物を独り占めできるのだから、高収入が保障される。
だが、時恵は不満だった。
トラップにかかり身動きできなくなった状態で、各種の毒と時恵の遠距離攻撃で徐々に弱り苦悶の表情で死んでいく探索者を見ることこそが、時恵のこの上ない喜びだったのだ。
獲物が来ないことへの欲求不満で悶えていたある日、時恵は新宿ダンジョン100階層の先に上位ダンジョンへとつながる扉が出現したと言う話を聞いた。
時恵は100階層のボスを倒した。そして、その先にある扉を開いた。
その先には見たことのないダンジョンがあった。
ここなら、きっと新しい獲物がみつかるだろう。
時恵は興奮しながら、ダンジョンの通路が狭くなっている場所にトラップを設置していった。
トラップを避けて通ることができないように、隅々までいっぱいにトラップを設置した。
それから、トラップ製造機で「蜘蛛の糸」という頑丈なねばつく糸を張っていった。この糸は人間やモンスターをからみつけ身動きとれなくする。地面に設置したトラップとあわせて使用することで、トラップの成功率を大きく上げる。
さぁ、準備はできた。
後は、獲物がかかるのを待つだけだ。
透明マントで身を隠した時恵は、蜘蛛の糸で自らの体を天井にはり付け、トラップの向こう側で息をひそめて待っていた。
そして、間もなく、獲物がやってきた。
忍者みたいな格好をした小さな男だ。まだ子どもかもしれない。ゴーグルとマスクで顔は見えない。
時恵は舌打ちをした。
苦悶の表情が見えないのは残念だ。
おまけにあの手のマスクは毒ガスを無効にする。
それでも、他のトラップは効くだろう。
久々の獲物。
どうやっていたぶってやろうか。
時恵は笑いがとまらなかった。
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