第2話(1)筑地礼奈

 俺は学校では存在感のない陰キャで通している。

 基本、いつもひとり。その方がいい。

 女子とは話があわない。女子は何を考えているかわからない。

 男子は、考えていることはわかるけど、誰も俺を男扱いしない。

 だから、誰と話をしていたって俺は苦痛を感じる。女扱いされると、まるで唾吐かれて足で頭を踏みつけられているような気分になる。


 学校では、とにかく早く放課後にならないかとばかり考えている。

 本当は学校をやめて、家を出て、一日中ダンジョンに潜って暮らしたい。

 俺は別にダンジョンの無法地帯っぷりが好きなわけじゃない。騙し合い殺し合いを見るのは、正直、うんざりだ。

 でも、ダンジョン内では俺は普通に男だ。それだけで、ダンジョンは最高の場所だった。


 だけど、残念なことにダンジョンには滞在時間に制限がある。

 しかも、ダンジョン内で入手したアイテムを俺はまだ売ることができないから、金がない。

 親の同意なしに家を借りることもできない。

 未成年はつらい。大人は保護とかいって生きる邪魔ばかりする。


 とにかく18才になったら、俺は独り立ちする。

 それまでにダンジョンでダンジョン外でも性別をかえられる金印アイテムをゲット出来たらラッキー。そんなアイテムがなくても、18才になったら家を出てひっそり生きていく。

 それまで、我慢だ。


 さて、昼休みは、弁当を食べて、寝る。……だけでいたいけど、いつもからんでくる女子がいる。


「ねぇ、キョーチン聞いてる? ダンジョン配信!」


 俺は聞いていなかったけど、筑地礼奈にうなずいた。

 筑地は、存在感のある黒縁眼鏡に黒髪おさげ、ありえないくらいにいかにも陰キャな見た目で、特に陽キャと接するときはやたらとキョドキョドしている、ザ・陰キャ女子だ。

 だけど、実は胸が大きくてスタイルがよくて、なんかいい匂いがして、陰キャのくせに妙な色気がある。 

 たまに体育の着替えの時にブラのホックをとめてとか言ってくるのが迷惑だ。

 俺は自分が男だと言っていないので断ることができなくて、言われたままやるけど、それに罪悪感を感じる。


 筑地は最近、動画サイトのダンジョン配信をよく見ているらしい。

 ダンジョン配信といっても、今のところダンジョン内からのライブ配信はない。

 ダンジョン内にスマホやビデオの持ち込みはできない、というか、ダンジョン内には何も持ちこめない。

 だけど、ダンジョン内でたまにでるレアアイテムの中に写真をとれるカメラ、通称「ダンジョンカメラ」があって、そのカメラで撮った写真のデータはスマホに転送できるらしい。

 配信者たちは、そのダンジョンカメラを使ってとった写真や、ダンジョンから持ちかえった金印アイテムを見せながら、動画配信をしている。


 だけど、筑地は今、興奮した様子でこう言っていた。


「ついにビデオ録画ができる超レアアイテムが渋谷ダンジョンの91階層で見つかったんだって!」


 聞いた瞬間、俺が思ったのは、(録画? 迷惑だな)ってことだった。

 正直、写真だけでも、迷惑だ。ダンジョン外で顔をさらされるなんてまっぴらだ。

 身バレ防止のために俺はいつもゴーグルとマスクで完全に顔を隠すようにしているけど。

 それでも、録画なんてされたら、とられる情報が増える。

 もし俺の闇ダンジョンにそんな配信者がでたら、速攻排除しねーと。


 俺が心の中で物騒なことを考えていることに気が付かず、筑地はうれしそうにひとりでしゃべっていた。


「これからはダンジョン配信の時代になるかもね。むむぅ。大ダンジョン時代の始まりだぁ!」


 俺がいつものように無言で何の反応も示さないでいると、筑地は勝手に話題を変えた。

 いつもこんな感じで筑地は勝手にしゃべっている。俺は基本的に学校ではほぼまったくしゃべらない。

 

「そういえば、海外から入ってきた重大な新情報。ダンジョン同士がつながっていることがあるんだって」


「つながってる?」


 それは初耳だった。思わず俺は今日初めて言葉を発してしまった。


「そうなのだよ! あるダンジョンの100階層が、違うダンジョンにつながっているケースがアメリカで発見されたんだって。ダンジョンは100階層までしか知られていないから、100階層は別の上位ダンジョンにつながってるのかも? クリア後ダンジョン的な?」


 俺が潜ってる闇ダンジョンも、他のダンジョンとつながってるのか? 

 まだ30階層までしか行けてないから、どうでもいいけど。

 

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