第16話 勅命

 その日は突然訪れた。


 ダイナの出現から4ヶ月経ったとある日にエルシュ、シュミナール、ラウルの3人が皇帝ラドギウスに呼ばれたのだ。


「お前たちには調査をしてもらいたい」


 帝都よりはるか東にあるギャスパー渓谷から突然膨大な魔力量が検知されたという。渓谷には洞窟があり、どうやらその洞窟から膨大な魔力が漏れ出ているらしい。


「膨大な魔力となればジャノスが関係している可能性がある。渓谷は帝国領土内でもあり放置するわけにもいかない。中途半端な魔導師を送り込んだ場合、そのまま帰って来なくなることも考えられる」


 皇帝ラドギウスは苦々しい面持ちで告げる。


「お前たちを行かせることについては何度も会議を重ねて吟味した。そして出た結果がやはり適任はお前たちしかいないということだ」


 その言葉を聞いてシュミナールが口を開く。


「膨大な魔力の調査ともなれば魔導師であるエルシュやラウルが向かうのはわかります。ですが魔法を使えない私が行く意味はあるのでしょうか」


 シュミナールの発言は自らを卑下してのことではなく、あくまでも騎士団団長としての確認だ。


「もちろん意味はある。ギャスパー渓谷へ向かう途中にあるザウナ国の領地ベルシエという街に、隣国ゼダルの兵士が向かっているとの報告があった」


 恐らくは領土の拡大を狙ってのことだろうが、帝国内での国同士の争いは条約により固く禁じられている。


「条約に反する行いを続けるようであれば帝国全体として大きな制裁を加える必要もあるが、まずはお前が騎士団を引き連れ赴くことによって警告となるであろう」


 帝国騎士団団長のシュミナールの功績は帝国内に広く知れわたっている。魔法を使わない剣術だけでのその強さに、名前を聞いただけで震え上がる者もいるらしい。


「仰せのままに」


 握りしめた片腕を胸の前に添えて頭を下げるシュミナール。その姿を見てエルシュもラウルも一瞬目を合わせて嬉しそうに微笑んだ。


「連れていく魔導師や騎士団員の人選はお前たちに任せる。ただ、エルシュが不在になる上に特級魔導師がこれ以上帝都から離れられては困る。それだけは注意してくれ」


 帝都の魔導師にはその魔力によって階級が定められている。上から筆頭魔導師が一人、特級魔導師が4人、一級魔導師が7人。


 ジャノスが不在になってから筆頭魔導師の枠は空いたままだが、エルシュが正式に魔法省で働くようになってからは実質エルシュが筆頭魔導師としての役目を果たしている。


 ちなみにラウルは特級魔導師、ダイナも魔法省にいた頃は若くしてすでに一級魔導師でありエルシュと戦った4ヶ月前は特級魔導師並みの実力をもっていた。

 サニャはまだ階級を得られるほどの実力はない。




 謁見が終わりエルシュとラウルはそのまま魔法省の会議室へ向かった。


「人選だけど、どうします?」

「そうだなぁ、洞窟となると獣魔の出現も警戒しなくちゃならねぇしな。できれば感知魔法に特化した人間が一人いるとありがたいんだが」


「…感知魔法に特化してるとなるとサニャが適任になってしまいますけど」


 エルシュの言葉にラウルはグッと眉間に皺を寄せる。


「やはりそうなるか」


 サニャはまだ階級を得られるほどの実力はない。だが代々感知魔法に特化した家系の出で、サニャ自身も感知魔法については魔法省の中でも抜きん出ている。

 そのため人里離れた洞窟や渓谷など獣魔と呼ばれる魔力を持った獣、特に気配や魔力そのものを隠して出没する獣魔がいる場所の調査にはよく駆り出されていた。


「私たちが現地でお師さまや不明の人物に警戒している間はやはりもう一人くらい獣魔に警戒できる人間が欲しいですが…」


 エルシュはサニャを巻き込みたくなかった。そしてラウルもまたサニャを危ない場所に連れて行きたくはなかった。


 だからといって他の魔導師を連れていったところで、感知魔法に優れていなければ気配や魔力を隠す獣魔を見つけることは容易いことではない。かえって足手まといになる可能性だってある。


「俺たちだけでなんとかするしかないか」

「そうですね、なんとかしましょう!私とラウル先輩ならなんとかなりますって」


 ラウルとエルシュが自らを納得させるかのように笑いながら言っていると、バンッ!と勢いよく扉が開く。


「そんなのダメです!!」


 そこには怒りと悲しみいっぱいの顔をしたサニャが立っていた。







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