自由ユーフラシア共和国軍

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 ──自由ユーフラシア共和国軍



 連合軍には世界協定の全ての国が参加している。


 魔獣猟兵と交戦中の国はもちろんとして魔獣猟兵によって完全に征服されてしまった国も亡命政府が樹立され、敵に奪われた祖国から脱出した将兵たちが亡命先で軍を組織して戦っていた。


 彼らはいつか祖国を取り戻すのだと決意して戦っている。


「凄い大部隊が集結していますね……」


 アレステアたちはアンスヴァルトとともにソードブレイカー作戦に参加するために前線近くの空軍基地に進出。


 そこには友軍の飛行艇が集結し、さらには飛行艇によって輸送された様々な部隊が展開するために慌ただしく動いていた。


「まさに連合軍だね。人種、国籍が多種多様だ」


「ですね。今は一致団結してるんだって思えます」


 人種と国籍は多種多様ながら、装備は比較的統一されている。


 それは当然だろう。これまで世界協定の各国に兵器を輸出していたのはエスタシア帝国とアーケミア連合王国が主だったのだ。そして世界が危機に陥る中でも軍需品の生産力を誇っているのはこの2大国だ。


 兵士の多くは帝国製かアーケミア連合王国製の装備を有している。


 装甲兵員輸送車や戦車に至っては基本は帝国製のカラカル装甲兵員輸送車とピューマ中戦車ばかりであり、帝国が大量生産しているそれをほとんどの国が使っていた。


「ソードブレイカー作戦は本格的な反転攻勢です。連合軍は総力を挙げて戦うでしょう。我々も任務を達成しなければいけませんね」


「ええ。頑張りましょう」


 アレステアたちは暫く待機が命じられている。


 ソードブレイカー作戦を察知されないようにギリギリまで死霊術師ルイーザ・メイソンの暗殺は控えることになっていた。


 連合軍統合参謀本部は死霊術師が提供するデュラハンも脅威に思っているが、それ以上に恐れているのは旧神j戦争の英傑たちが作戦の阻止に乗り出すことだ。


 既に情報部はカーマーゼンの魔女のひとりヴァレンティーナ・マーヴェリックと“竜狩りの獣”の直系ネイサン・マクスウェル、そして真祖竜ハドリアヌスとアントニヌスを確認している。


 最悪彼らだけでも戦局はひっくり返されてしまう。


「皆さん。司令部から追加の任務が来ました」


「何でしょう?」


 アレステアたちが空軍基地に併設された兵舎で休んでいるのにシーラスヴオ大佐がやってきてそう告げて来た。


「皇帝陛下の護衛です。陛下がノルトラント近衛擲弾兵師団の部隊とここを訪れられます。連合軍の将兵を激励されるそうです」


「陛下が! 了解です!」


 ハインリヒが急遽この空軍基地を訪れることが決まった。


 要人の移動は魔獣猟兵のコマンドによる暗殺などを避けるために移動が友軍にも伏せられていることがある。今回も直前までスケジュールは明らかにされていなかった。


「陛下の今日の正午に訪れられます。すぐに準備を」


 アレステアたちはハインリヒを出迎えるために配置に就いた。


 そして、ハインリヒを乗せた帝国空軍の空中大型巡航艦が空軍基地に着陸。


「我が友。今回はよろしく頼むぞ」


「ええ。任せてください!」


 近衛兵を連れたハインリヒが笑みを浮かべて言い、アレステアも微笑んだ。


「陛下。こちらです」


「うむ」


 ハインリヒは侍従武官の空軍大佐の案内を受けて連合軍の閲兵を行う。


「敬礼!」


 閲兵を受ける部隊がハインリヒに敬礼を送る。


「陛下。彼らは自由ユーフラシア共和国軍の将兵です」


「ああ。今は祖国を占領されているユーフラシア共和国のものたちだな」


 連合軍の加盟国である自由ユーフラシア共和国は今や祖国を魔獣猟兵に占領され、帝国に亡命政府を樹立していた。同じく難民として帝国に逃げたものたちが自由ユーフラシア共和国軍という軍隊を組織している。


「第12自由ユーフラシア共和国歩兵旅団、敬礼!」


「あ!」


 その自由ユーフラシア共和国軍に所属するひとつの部隊を見てアレステアが思わず声を上げてしまう。


 第12自由ユーフラシア共和国歩兵旅団。そこにいたのは将校と下士官を除いた兵士たちはまだ18歳にならないだろう子供ばかりだったのだ。


「この部隊の兵士たちは若いな」


「はい、陛下。彼らは志願したものたちです」


 ハインリヒが呟く世に言うのに自由ユーフラシア共和国軍の将校が言った。


「しかし、これだけ若くても戦えるのか?」


「もちろんです。彼らは既に歴戦の勇者です。エスタシア帝国で、そしてアーケミア連合王国にていくつもの戦いを戦いました。彼らほど頼りになる兵士はいないでしょう」


「そうか」


 自由ユーフラシア共和国軍の将校の言葉にハインリヒが頷き、若い兵士の前に立つ。


「君はいくつだ?」


「15歳です!」


 まだあどけない顔立ちににきびを作った少年がハインリヒの問いに答える。


「戦うことに恐怖ないのだろうか?」


「あります、それ以上に勇気があります!」


「そうか。君は勇敢だな」


「いえ。あのゲヘナ様の眷属であるアレステア卿も12歳で戦っていると聞いて負けられないと思ったのです!」


 少年兵はそう言ってハインリヒの警護についているアレステアの方を向いた。


「アレステア。君の勇気は他のものを鼓舞しているようだ」


「あ。その、光栄です」


 アレステアはハインリヒの言葉に少しばかり微笑んだ。


「祖国のために戦います!」


「故郷を取り戻すまでは諦めません!」


 ハインリヒに閲兵を受けた第12自由ユーフラシア共和国歩兵旅団の兵士たちは次々に勇ましい言葉を述べた。彼らは既にその言葉に値する戦果を挙げており、ただの浮かれた妄言ではない。


「諸君の勇気に帝国を代表して感謝する」


 ハインリヒはそんな武勇ある少年たちを鼓舞した。


 それから閲兵を終えてハインリヒはアレステアとともに空軍基地の兵舎に入った。友軍が安全を確保するまでハインリヒは移動できないのだ。


「我が友。お前は戦うのはつらくはないか?」


 ハインリヒが兵舎でアレステアにそう尋ねた。


「決して楽しいことではありません。ですが、やらなければいけないことだと思うと耐えることはできます」


「そうか。厳しい時代で誰もが戦いに巻き込まれている。いつ終わるかも分からない。だが、もう少しで明るい勝利が得られるかもしれないな」


「ソードブレイカー作戦が上手くいけば、きっと」


「あの作戦が希望だな」


 アレステアの言葉にハインリヒが頷く。


「それから男爵位のことは考えてくれたか?」


「……あの、まだ考えています」


「そうか。答えは帝国に帰ってからでいい。私も答えを出さなければいけないからな」


「ご結婚の件ですか?」


「そうだ。私は受けるつもりだ。アン王女と話す機会があったが、とても良い人だった。断るのは心苦しい。それに国のためだ」


「皆が喜びますよ」


「そう願いたいな」


 アレステアの言葉にハインリヒは微笑んだのだった。


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