第2話 女を拉致《らち》する夢

 土曜日、朝九時に起きて近所の公園で森林浴。これも週間タイムテーブル化してる。

 ベンチに腰掛け、小鳥のさえずりに耳を傾け、ぼんやりと時を過ごす。

 単にブランチをおいしく感じたいと思って始めた行動だが、今ではこの時間に空腹より先に小さな幸せを感じる。


さとりを開いたかもな)


 高収入を得ている奴らには無いものを俺はたっぷりと持っている。

 自由な時間だ。

 価値観を変えれば俺だってそこそこ豊かなのでは。

 静かな空間を一人占めして悟りに磨きがかかる笑。

 目を閉じていると軽い眠気を催してきた。


「何がおかしいの」


 不意に女の声がする。

 どこか聴き覚えのある響き。

 確かゆうべ観たヤツだ。男はどう答えたか…夢うつつの中で口にしてみる。


「そのおびえた顔がさ」


「やっぱり」


 あれ? そんなセリフは無かった筈だが…

 俺はゆっくりと目を開けた。

 目の前に若い女がいた。

 これは…やっぱり夢の続きか? 香奈かな


「私としたい」

女は語尾を上げた。


 疑問形? 誘いか?

 俺の夢は良い所まで進むと目がめる。あまりに興奮しすぎるせいだ。できればこの夢は最後まで醒めないでくれ。


 俺は静かに答えた

「したい」と。


「良いよ」


 やっぱり夢は良いね。

 トントン拍子に運ぶ。

 でも、この後どうすれば良いのかが分らない。

 あの男優はいきなり女の手をつかみ、すぐそばに停めていたワゴン車に引きずり込んだっけ。

 残念ながら今の俺には車が無い。いや、車とは全く縁がない。

 俺の夢なんだからスポーツカー位用意しておいてくれ。

 黙っていると女はじれったそうな声を出した。


「あんたの部屋で良いよ、ホテルは高いし」


 おお、やっぱ思い通りに進んで行くぜ。

 気を良くした俺は立ち上がってみた。

 途端に、ん、何かが違うと感じた。

 注意深く周囲を見渡す。

 リアル過ぎる。


 これは夢でもバーチャルリアリティでもない、現実そのものだ。

 改めて女を見直してみる。

 知っている女は十八から十九、似てはいるが、目の前の女は二十代に入っているだろう。

 誰だ、この人は。


「あの、俺、ちょっと寝惚ねぼけてて、何か失礼なことを言ってしまったでしょうか」


「何よ、結構大胆な所があるじゃんと見直した所なのに。ヘタレか」


 何を言ってる、見直しただって?

 俺はお前なんか知らねえよ。

 ヘタレと言ったか。その言葉は俺にとって禁句だぜ!


「ヘタレかどうか試してみるか」


 女の手をいきなりつかみ、俺は歩き出した。

 振り返るとゆうべと同じ怯えた顔があった。


「香奈さん?」


「あんた、二重人格なの」


「え、どうして」

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