第23話機体のバーゲンセール

 草木も眠る丑三つアワー。とある都市ではゾンビ攻勢が激しく防壁が破られていたり人間がゾンビに喰い殺されたりと荒廃が進んでいた。武器弾薬の供給が間に合っていない事と一部の人間による暴徒化、盗賊なども劣勢の要因となっていた。


「この辺りでいいか」


 次元倉庫から取り出したのは十センチ程の黒い六面体。それを避難民が集落を気付いている道端に放り投げる。地面に落下した【マシンコア】は緑色の蛍光ラインが一瞬光ると周囲の物質を取り込みドンドン大きくなっていく。


 五メートル程の大きさにまで巨大化すると【機巧甲冑】と名付けた姿へとロボットへと変化した。初期装備として兵装データをプログラムをしていたが。基礎フレーム以外の兵装は換装可能である。


 後は、適性のある女性パイロットさえ登場すれば人類を守護する為の力となるだろう。初めての試みであるためにイデアフィールドを足場にのんびりと観察させてもらう。



 自衛隊が死守している防衛線にゾンビの大群が襲撃を仕掛けてきた。今宵は満月。人間も満月の夜には事故率が上昇するというデータも出ている。一説には月の引力が体内に影響していると言われているが、ゾンビの活発化を確認できると本当なのかもしれないな。


 【マシンコア】が生成した機巧甲冑は……自衛隊が調査をしているが起動させることはできない。搭乗者は女性のみ。しかも、思考調査に問題がない人格に操縦適性が無いと起動させることはできない。一定の才能……霊子にも関係してくる事なのだがなぜか美少女や美女に適正者が多い。――俺の、趣味嗜好を汲み取っているのか? まぁ、美少女×ロボットは大好物だが。


『いたぁ~いッでしゅ!! ばかちんろぼっとッ!! どこかにおいしいごはんはないないしてないでしゅか?』


 ――ん? 子供? しかも、死にかけている……。助けるか……? 


 子供の身体をスキャンして見ても無事な場所が探す方が難しいほど手遅れだ……メモリーキューブに記憶させるか? 今なら間に合うが。


『おとうしゃん。おかあしゃん。まいこは今からそっちにいくでしゅよ……』


 ――っち! 行くか―――ん? 適性アリ:適合数値が高いだと? あっ、やりやがった……身体が持つのか?


 子供の脊髄に複数の針からナノマシンが注入されていく。これで人類初めての適合者の誕生だ。どうにか瀕死の状態から持ち直したようだ。ちなみに、注入されるナノマシンと構成物質には俺の体細胞も含まれている。適合者はある意味、機巧の神の祝福を得られる。決して俺の変態趣味ではない。


 早速、あの機体のAIと交信して情報を取得していく。身体強化率が高すぎるな。内臓の殆んどが入れ替わっているぞ。名称・ピコット。幼い思考同士で気が合うのか一緒にゲームして遊んで入り。ふふふ。

 

 操縦シミュレーターの成績は特Aクラス、とんでもない才能を持った子供だな。――あっ、暴走している。


『…………まいこさん……ゲームの続きをしませんか? きっと……造物主は怒らないハズ……ですよ?』


『ふえ? いいでしゅよ! ピコットしゃんも大変でしゅね』


 怒るぞ? こいつの事はいつかエクシアさんに教育を任せる必要があるかもな。その後、子供を乗せた機巧甲冑は暴走。ゾンビの群れを殲滅する。防衛部隊に機体と共に子供――巡音マイコも回収された。まぁ、身体強化されているしAIのピコットも付いているから大丈夫だろう。


 搭乗者の操縦データを逐次送信するように“さっき”命令したからな。もちろん最初から最後まで監視していた旨も伝えてある。後日、研修期間という名の教育も受けるようにな。なに――現実世界では数分と経っていないだろうさ。


 機巧甲冑の起動試験は概ね良好。アホAIが遊び惚けて機体を暴走させたが……まぁ、AI生成は搭乗者の思考や求めるものに合わせて変化するからな。搭乗者の下限の年齢を設定してなかった俺が悪い。こういう計算に無いAIが生まれたり、幼い子供のとの出会いもどう変化し成長していくかが楽しみだな。



 それから日本中の北から南まで都市や街、村などに人口に応じて大体の数を決めて配置していく。次元跳躍で移動自体は簡単だが……。日本の市町村だけでも千八百近くあるんだぞ? 戦力も人口もかなりの幅があり一か所に五機平均でも……。ああ……配るなんて言い出した俺を殴りたい……。これから世界中でも配ると考えると……増産の指示を出しておくか。マシンコア自体の製造コストはそこまで高くない。入れ物も小さく製造したら基礎データを入れるだけだ。


 だが、うまく使いこなせば対ゾンビ兵器としてかなり有用だ。飛べはしないがそこらの戦車よりも破格の価値がある。頑張って日本を守ってくれ。


 ――次は、どこに配るとしようか……。米国は一度やり合ってるし英国辺りから回って行こう。



「お嬢様ッ!! 早くお逃げください!! ゾンビの群れを押し留める事が出来ません!」


 私の乳母である家に仕えてくれているオリヴィアが屋敷に侵入して来るゾンビに向けてアサルトライフルを乱射している。他の屋敷に仕えている執事やメイドたちも応戦している。


「なにをおっしゃいますの!? このキャサリン・グリフィス! 名家たるこの私が真っ先に逃げる事など絶対にありえませんわ!!」


 射撃訓練を少々嗜みはしましたがハンドガンは重く撃つたびに反動で腕が跳ね上がる。硝煙の匂いと肉の焦げた匂いが嘔吐感を抱かせる。屋敷に残っている武器弾薬の数は残り少ない。かなり長い期間立て籠もっていたがそろそろ限界かしら……? いえ、諦めてはなりませんわ……きっと、きっと、神は見ていらっしゃるの……。


「くッ! お嬢様っ!!」


 バリケードを破って来た大型のゾンビが私の方向へ走ってきます。ああ、もう。ダメなのですね……。


「このっこのっこのっこのっ!! 死ぃぃぃいいぃぃねぇぇぇえぇぇっ!!」


 はしたなくも叫んでしまいましたわ。死の間際ぐらいお下品でもいいでしょう? あら――?


 空から隕石の様なものが降って来るとゾンビを押しつぶし肉片へと変える。爆発するかのような音と衝撃に一瞬、屋敷の人間達が硬直するもすぐさま応戦を始めた。


 落ちてきた何かは周囲のレンガのや地面の土を吸収し大きくなっていく……。


「なんですの? なんですの? ――あれは……でっけーロボットですの!?」


 お父様とお母様にあんまり見ては駄目ですよ? と、叱られていたのですがこっそりオリヴィアにお願いして見させてもらったジャパニメーションのロボットアニメ。その映像でよく見た変形合体ロボット。これが一話目でOYAKUSOKUの主人公がロボットに選ばれ活躍するシーンですのッ!! ――いざッ! KAMAKURAですわっ!


 私を迎え入れるように搭乗口が開け放たれロボットは跪いています。高さは五メートルくらいかしら? うんしょっと。あ、オリヴィアが走ってきている。 だけど――私をとめられねーですわ!


 ロボットに乗り込みシート座りましたが操縦桿は……どこですの? ギッ――


 背中から何かを刺し込まれ体に何か入って来る……激痛で声が出ませんの……。きっとこれは試練……ロボットに試されているのですね……。


 そして、視界が暗くなると世界が広がった。目の前には騎士甲冑を着たなにか。


『ミス・キャサリン。お勉強の時間ですよ?』


 お勉強は……苦手ですの……。



「お嬢様ッ!!」


 空より飛来した何かがロボットの様なものに変化した。好奇心旺盛なお嬢様は進んで手に入れようとするだろう。だが、安全も確認せずに搭乗するとは何事ですかッ! これは、淑女教育をやり直すしか――ああぁっ……。お嬢様がシートに座られると血を吐いて蹲る。すぐにあれから引きずり降ろして――


「なん……なんですか……あれは? ――お嬢様……?」


 搭乗口はお嬢様を乗せたまま閉じるとロボットは起動する。無骨な掌を数度開閉すると腰元に現れた騎士剣……にしては凄く大きいが、それを引き抜くと中段に構えゾンビの群れと対峙した。――あの構えは……騎士ごっこをしたときにお嬢様がしたヘタクソな構え。


 ロボットが左足を強く踏みしめると次の右足のステップと共に騎士剣を横薙ぎに振るう。ゴォッ、と周囲の空気を巻きこんで風を起こしゾンビが十体ほどミンチになる。切り返すと薙ぎ、薙ぎ、薙ぎ。数秒の間にあれほど苦戦していたゾンビの群れが一掃された。――ついでに玄関口のである門も勢いあまって破壊していきましたが……あっ!? 向こう側の道路まで行ってしまわれた! ああ、お戻りください!!


 それからゾンビが一匹もいなくなるまでロボットは止まらなかった。この辺りに住まれてる方々は大きなお屋敷を持った名家の方が多く、ロボットの快進撃に大きな歓声を上げている。そして――


「私の勝ちですわぁっ!! このっ! キャサリン・グリフィスがっ! ゾンビを駆逐しましたの! オーッホッホッホッホッホッ!!」


 ロボットのハッチが開くと服を血で汚したお嬢様が宣言した。他家の人間達も興奮して歓声をあげた。


「「「グリフィスッ!! グリフィスッ!! グリフィスッ!!」」」


 お嬢様……帰ってきたら尻叩き百回ですね。



 パパもママもキョンシーに喰われてしまた。この集落もおわりね。まだ、恋人もできたことないのに酷い最後ね。だけど……生きるのを諦めたくは……ないね!


「シィッ! 潔くどくね、隣のおじさんキョンシー」


 集落の人間がキョンシーになってるね。パパとママのキョンシーには……会いたくないある。家の玄関を壊そうとしていたキョンシーの頭に巻き割斧を叩きつけると裏山へ走っていく。斧は頭部に食い込んで引き抜けなかったある……。


「はぁっはぁっはぁっ……」


 ここを生き延びても……生活ができないね……。いっそこのまま死んだ方が……。――ん? 何か大きな機械が落ちているね……。もしかしてこれは、近所のクソガキが大好物のろぼっとというやつね。入り口が空いているという事は動かせるか?


「ふぅん。私が生き残るために貰ってあげるね――でも、動いて欲しいある……」


 入り口によじ登ると柔らかそうな椅子があった。ここに座るのね? 


「――動かないね……。はぁ……漫画のようにうまくはいかな――あ゛っ……ぐぅ……」


 罠ね。クソ野郎。近所のクソガキの憎たらしい表情を百万回想像でボコボコにする。しばらくすると意識が暗闇の中へ落ちて――



 特殊兵器開発研究所内を歩く。研究者であるパパに呼ばれて来たんだけど……。


「こっちだ、こっち。シャルロット」


「パパッ!! 急にどうしたの? コミックの様な超兵器でも産み出したの?」


 パパのお仕事は米国にとって大事な兵器の研究職。現在、ゾンビとの戦いは拮抗しているけど新しい兵器が求められているの。私にとっても自慢のお仕事をしているパパは大好きっ!!


「見せたかったものはこれだ……」


「……え? これ、パパが作ったの? すっご~い!」


 目の前には斜めに座らされているロボット。顔が無いのが減点だけどあれって飾りなんでしょう?


「コレはどうやら女性しかパイロットになれないらしい。女性軍人や女性研究員も実験で搭乗したんだけど……起動しなくてね。ジャパンではすでに数百人ものパイロットが生まれているのに我が国は起動も解析すらも出来ていないと上層部にせっつかれているんだ……」


「――つまりパパは私に実験で搭乗して欲しいわけね? いいじゃない!! 我が国初めてのパイロット! ゾンビをなぎ倒し平和をもたらすスーパーウーマンッ!! とびっきりのパイロットに私がなってあげる!」


「シャルロット……その、言いずらいんだが……とても、そう、とても、痛いんだ。パイロットに選ばれた者は一人も漏れなく超人へと変化する。その際の激痛は死を選びたくなるほどと聞く。――それでも……乗るかい?」


 パパを心配させないように微笑む。本当は怖い。痛いのなんて大っ嫌い……でも、パパの期待に答えれないなんて耐えられない!!


「――もちろんよ!! すぐにでも乗せて!」


 ああ、やだなぁ……。


 そして、無事機体が起動する。言われた通りの激痛が走り身体が作り変えられていくのが分かる。この力はまさに超人と言って過言ではない。頭がスッキリしているし膂力も凄まじい。でも――痛いのはもういやだわ……。

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