第11話 罪と罰と


私はいつも車の中で相引きをしていた。高級ワンボックスの中は広く、サンシェードと濃いスモークを別注で施している車内では昼間であっても中は見えない。

毎週会いに行かなければ、そして私が予定より遅いと、こめかみに血管を浮き立たせて機嫌を悪くする。

そんな彼にいつも飲み物を買って持って行った。会社での愚痴と面白エピソードの会話をしてから後部座席に移って抱き合った。時間に余裕がない時は、すぐに抱き合ったりもした。

普通のデートもしたこともある。平日たまたま勤務先が休みの日は、白昼堂々と手を繋いで水族館や博物館にも行った。個室居酒屋に飲みに行って電車で帰ってきたこともある。そんな時、彼は椀飯振る舞いしてくれたが、軽自動車から高級ワンボックスになってから財布の紐は硬くなったように感じた。

それからも、普通のデートもしたいと言われたが、私は不思議と交わらない方が罪悪感に苛まれた為、あまりいい返事をしなかった。彼の弟に普通の彼女として紹介された夜は、最悪な気分になり、一人泣いた。


車内で行為に及んだ後は、ベトベトになって唾臭くなった口の周りや体をウエットシートで拭いてから化粧直しをしていた。シャワーを浴びることはできない。加えて、トイレにすぐに行かないと膀胱炎にもなりやすいと気づいた。


おそらく、そのせいで罰は生まれたのだろう。


5年にも及ぶ不倫関係に終止符をうち、私は気が楽になった。夫には気づかれていただろう。しかし、わざわざ夫はそれを持ち出して私にも相手にも責めるような事はしなかった。自分にも後ろめたいことは多々あったからだろう。また、私が子どもを溺愛しているから離婚されるとまでは心配していなかったようだった。とにかく、私は罪から解放され新たなライブ観賞という趣味を手に入れて気持ちが軽くなっていたのだった。これなら、もう罪に問われることはないのだ。


それから数年後、その5年間の罪は私の身に罰となって表れた。


私はアトピー性皮膚炎で、人一倍肌のバリア弱い。肌が荒れたらステロイドを塗るよう言われていた。しかし、何度も何度も口の周りの湿疹を繰り返していた。ついには毎日塗っても治らなくなっていた。

コロナ禍に入り、マスクを常時つけるようになると中で蒸されるのか湿疹は酷くなった。

ストレスで他の部位にも肌荒れが広がり、そこで初めて疑問を持ち、ただの湿疹ではなく、そういった皮膚病があるのを知った。

ステロイドを一度やめて抗菌剤で治すしかない、と専門の皮膚科で言われた。ブツブツになった肌を見ては落ち込み、自律神経までおかしくなりかけた。体も痩せ、1年間は全く外出もできなかった。すっぴんで会社に行き、休みの日は毎日鏡を見て病気を調べては、一喜一憂していた。その辺の皮膚科医より、その病気について詳しくなってしまっていた。


だから、完治前にあった好きなバンドのライブも断念していた。私は決して、そのバンドに興味がなくなったわけでもなく、コロナ前のライブに期待外れだと思っていたわけでもなかったのだ。

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