第53話 絶滅の氷界紀

 なんとかリリを落ち着かせるとミラは話を切り出した。


 「二人も戻ってきたことだしアオバくんの故郷『地球』について色々教えてくれるかい?」


 アオバは三人の質問に答えながら地球について話した、何を食べているのか、文明レベルはどの程度か、どんなエネルギー資源を使っているのか、どんな娯楽があるのか、など幅広いジャンルの質問にアオバの分かる範囲で答えていった。


 「高度な文明に空を飛ぶ金属製の乗り物、『石油』という古代の生物が元になった資源、動いて喋る絵、地球とは本当に不思議な星だね、是非行ってみたいよ」

 「魔法が使えないのなら魔物に襲われた時はどうしてるの?」

 「地球では魔物ではなく動物というのですが人よりも力のある動物には遠くから攻撃できる武器によって対抗していました」

 「地球の武器か、気になるねどんな武器なんだい?」


 アオバは悩む、ここで銃や爆弾といった人を簡単に殺すことができる兵器の知識を与えることで実際に兵器が開発されて戦争に使われて多くの人が死んだりするのは望むところではない。


 「…その武器については実際に開発されてしまうとそれによって多くの人が死んでしまう可能性がある程強力な武器です、絶対に他の人に話さない、そして作らないと約束してもらえるなら話します…」

 「最もな懸念だね、約束しよう、絶対に話さないし作らないよ」

 「僕等も絶対に話さない」

 「もちろん!」

 「分かりました、それでは…」


 アオバは銃や爆弾の説明をする、と言っても専門的な知識があるわけではないので、どういうものなのかという程度である、しかしその発想自体があれば試行錯誤の上、銃や爆弾を実際に完成させてしまうかもしれない、だからこそ事前に釘を刺したのだ。


 「銃に関してはリリさんの3属性複合の魔法と原理は似てますね、もしかしてもうそういう兵器がこの星にもあるんですか?」

 「無いと思うよ、あの魔法は私のオリジナルだし」


 流石は魔法の天才だ、自分で考えてその発想にたどり着いたということらしい。


 「…ふむ、確かにその兵器については慎重に取り扱った方が良いだろう、使い方さえ分かれば力のない子供が簡単に屈強な大人を殺すことができるというものみたいだからね…」

 「この話はここまでにしておきましょう、そろそろ私の方からもこの星について色々聞いても良いですか?」

 「構わないよ、何が聞きたいんだい?」

 「では何故この星で人間だけが食事を摂らなくて良くなったのですか?」

 「それに関しては僕が毎年生徒たちに教えている内容だ詳しく説明しよう」


 ミラは姿勢を正して咳払いをすると説明を始めた。


 「人の先祖は元々他の生物と同様に食事をしていた、しかし約1〜200万年前、この星全体の気温が急激に下がった、『絶滅の氷界紀』と呼ばれる時代だ、その原因は巨大な隕石か大規模な火山の噴火かというのは未だに議論されているところだね、その絶滅の氷界紀では名前の通りこの星の約8割の生物が絶滅したと言われているんだ、そんな厳しい環境で人間の祖先は多様な魔法を協力して駆使しながらなんとか生き残った、しかし殆どの生き物が死に絶えてしまったため食料の確保に相当苦労したんだろう、食事を摂る頻度が徐々に落ちていったんだ、満足に食事を摂れない環境に人間の祖先は徐々に適応していき、遂には空気中の魔素から栄養素を生成するという能力を手に入れたんだ」


 こういう進化ができたのは魔素と呼ばれる元素が相当特殊な性質を持っているためだろう、地球で同じような状況になっても同じ様な進化はたどれないはずだ。


 「ついでに言うと人間が人によって違う数種類の魔法の適性を持つのは絶滅の氷界紀を生き抜くのに有利だったからと言われているよ、1つの属性に絞るよりも群れで行動する人間には分担して様々なことができる方が都合が良かったということだね」

 「適性が1つしかない人もいると聞きました、一応私も水しか適性が無いです」

 「ほう珍しいね、1つの適性しかないということは消費する魔力の効率が良いだろう?それも1つの多様性の形だよ」


 絶滅の氷界紀によってこの星の生態系は大きく変わり人間の祖先は食事を必要としない進化を遂げた、更に多様な魔法適性を得ることで厳しい環境を生き残ったということのようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る