3話 パンツァー3
俺は、三人の美女と美少女に囲まれて、彼女達の足元で正座している。
ご褒美じゃん!って思う人もいると思うが、残念ながら俺はそのレベルまで達していない。
なぜ、こんな事になったかと言うと……
それは俺が、公共の場で美少女のスカートを力一杯めくったからだ。
それはもちろん、俺の個人的趣味ではないんだが… 。
まず最初に、美少女アイドルの月影シノブが俺を見下しながら、口をひらく。
問題のスカートは、彼女の両手により鉄壁ガードされている。
「顎をねらったパンチについては、やり過ぎだったと思います。
でも、とにかく、私のスカートをめくった理由が知りたいです。
あなたは、変態さんですよね?」
「理由が知りたい」と言いながら、俺のことを変態と決めつける彼女の発言は、なんて言うんだ?マッチポンプか?と考えながら、俺は答える。
「しかたが無かったんだ。
あの場は、君のスカートをめくるしか無かったんだ」
「どんな状況ですか!?」
それは俺だって知りたい。
哀れな俺の様子を見た美女1が、口を開く。
美女1は青髪超ロングストレートで和柄生地のスーツを着た、いかにも仕事が出来そうな美人だ。年齢は俺より若干下の、25〜28歳と言った感じか?
名前は”
彼女は、タイトスカートからスラッと伸びる美脚に黒タイツを履いている。
まったくの余談だが、俺は絶対領域も好きだが、黒タイツも引けをとらず好きだ。
そんな黒タイツの万錠ウメコは、言う。
「それにしても… いくら何でも可哀想じゃ無い?
確かにシノブのスカートをいきなりめくる人は、間違いなく変態だけれど……。
冷たい床に正座させるのは、さすがにちょっと……」
変態前提なのが、やや引っかかるが、彼女は同情的なのでホッとした。
そして、美女2が発言する。
彼女の名前は、”
「私は、良いと思いますよ?
うふふ」
黄泉川タマキは、ミニスカートの巫女服を着た、パッツン黒髪ロングの美人だ。
とくに、胸元は服より肌面積の方が大きいぐらいで、彼女の大きな胸が今にも飛び出てきそうに見えて困る。
誤解を恐れずに言うなら……”痴女”だ。
黄泉川タマキの年齢は不詳だ。20代にも見えるし、30代にも見える。”ミステリアスな痴女“と捉えてくれれば問題無い。
それと彼女は、なぜか常に発情しているようなセリフを吐いているが、他の二人の反応を見るに、日常的な事のようなので気にしてはいけない。
ここで俺は、この場の全員に説明する。
全員が同時に喋ると、収集がつかないからな。
「正直に言って、俺もよく分からないし、信じて貰えないと思うんだが…」
そして、俺は彼女達に説明する——
——死んでいる間に電脳を改造されてしまった事。
——時間を停止させる超感覚”パンツァー”の事。
——パンツを見たら”パンツァー”が発動する事。
俺の
「わかりました。
つまり、あなたは生粋の変態で、女の子のパンツが大好きってことですね!
ドロップキックの刑に処します!!!!」
「待て!!落ち着け!月影シノブ!
助走をつけようとするな!
それにドロップキックはマズイ!パンツが見える!!」
それを聞いた黄泉川タマキが、頬に手を当てながら話す。
「確かに……ドロップキックはパンツが見えますね。
じゃあ、そうなると――
ドロップキックしたシノブちゃんのパンツが見えた瞬間、時間停止しますが、
それが解除されても、シノブちゃんのパンツは見えたままですので、またしても時間停止が発動します。
――それって一体いつになったら、シノブちゃんのドロップキックがナユタさんの顔を捉えるのでしょうね?」
という感じで「何かのパラドックス」みたいな話になって来たところで、黒タイツの万錠ウメコが口を開く。
「あなたの名前は、確か……ナユタさんって言ったわよね?
あなたの今の仕事は?」
俺の仕事?何の関係が?と思ったが、俺は答える。
「自己啓発のホログラムを見ながら、自分探しの旅に出ようと思っていたところだ」
「なるほど。”無職”って意味ね」
こいつ俺の心の中を?と俺は思った。
しかし、万錠ウメコは続けて驚くべき発言をする。
「どうかしら?ナユタさん?……
私たちの”西奉行所アイドル事務所”で働かない?」
それを聞いた月影シノブが、ドロップキックをする為の準備体操をやめて驚く。
「えええええええ!!??
おねえちゃ……じゃなく、所長!?
まさか、この変態さん……じゃなく、ナユタさんを!?」
”所長”と呼ばれた黒タイツの万錠ウメコは、微笑む。
「ええ。良い人材だと思わない?
彼の戦闘能力は、シノブが目の当たりにしたでしょ?
1人でヒャッハーたちを殲滅できるなんて、凄いわ」
「でも、この人……
私のスカートを!パンツですよ!?」
「彼なりに説明はしていたじゃない?
本当かどうかは疑わしいけれど……ナユタさんの戦闘力は本物よ」
ここで、“巫女服痴女”の黄泉川タマキが、賛同する。
「私も、ナユタさんの入所に賛成します。
彼は、私のタイプの男性ですし……。
これからは私も、パンツを履いてくるようにしますね?」
その黄泉川タマキの話を聞いた瞬間、月影シノブは急に考え込む。
「え?……ちょっと待って下さい。
じゃあ、タマキさんって……
もしかして、今までパンツを……?」
ここで、万錠ウメコ所長が、月影シノブに向かって言う。
「問題になっている、彼の超感覚パンツァーのことだけれど……」
月影シノブが、万錠ウメコと向き合う。
「要はシノブの実力次第じゃないかしら?
そもそもシノブが、”ナノマシーン衣装”を使いこなせれば、ナユタさんが闘う必要もないのよ?
そうなれば、シノブのパンツは守られるし、あなたのアイドルとしての人気も上昇するし……良いことばっかりじゃない?」
月影シノブは、「うっ!」と言って胸に手を当てる。
「い、痛いところを……確かに、完全論破ですが。
おねえちゃ……じゃなかった、所長の『ブラック管理職マインド』が出てきました」
そんな月影シノブの、精いっぱいの”苦言”を無視し、万錠ウメコは俺に向き直り、話をまとめる。
「じゃあ、私たちの意見は決まりね。
ナユタさん?
あなたは、どうかしら?」
彼女達が話し合ってるあいだ、俺はまったく別の事を考えていた。
自堕落な生活を送っていた俺だったが、人生の中で一つだけ心残りがある。
――それは俺が軍にいた頃の、”ある出来事”に対してだ。
俺は、”ある人物”のせいで全てを失った。
——生きる気力も
——未来も
——そして、友人も
だから、俺は思った。
西奉行所に勤めることで、その――”ある人物”を見つけられるかもしれない。
そして、チャンスがあれば、そいつに”復讐”できるかもしれない。
そんなことを考えた俺は、万錠ウメコ所長の提案に答える。
「俺は旧幕府軍の元軍人だ……。
もし、それでいいのなら、あんた達と働いても良い」
俺のその言葉を聞いて、万錠ウメコ所長は笑顔になった。
そして彼女は、俺に向かって手を差し出しながら言う。
「あなたの過去の経歴は問わないわ。
だから安心して?
よろしくお願いするわ」
頷きながら俺は、正座で痺れた脚でなんとか立ち上がり、彼女の手を握り返し、握手した。
そんな俺に対して、”所長”は笑いながら告げる。
「ナユタ君には、シノブのプロデューサーになってもらうわ」
「え?」
「だから、
そう言いながら彼女は、満面の笑みで顔をかしげた。
俺は、後になって思い知らされたが……
彼女のその――女神のような美しい笑顔は、 あらゆる意味で「罠」だった。
だから俺はその時、何か取り返しがつかない事をしたような気がしたので、握手した手を離そうとした。
しかし彼女の握力が、それを許さなかった。
そして、万錠ウメコは言う。
「西奉行所アイドル事務所にようこそ。
ナユタ
こうして俺は、月影シノブのプロデューサーになった。
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