第44話

 早朝はゴブリンのハザマで自分を鍛える。

 まさか少し休んだだけでゴブリンのハザマは復活している!

 いや、でも、俺の調子が悪かっただけの可能性もある。

 今考えればたっぷり寝る以外は修行僧のような修行をしていた。


 でも、倒しすぎてもし、ゴウタさんのハザマが消えているとしたら……

 後で様子を聞くか、いや、直接見に行こう。

 雑念を1つ1つ潰していこう。

 ヒトミの胸の感触がよみがえる。


 く、雑念を消す!


 5つゴブリンのハザマを消滅させ、次のハザマでマイルームを発動させたところで異変に気付いた。


 ん?ゴブリンが1体だけマイルームに入らず、魔石を食べた?

 今までなら、魔石が落ちていてもスルーして俺を殺しに来ていた。

 明らかにいつもと違う行動だ。

 共食いか!?


 子供と同じ背丈だったゴブリンが光りを放ち、大きくなっていく。

 オーガに進化した!

 オーガは俺と同じくらいの大きさの赤い鬼だ。

 素早さと攻撃力が強く、進化前のゴブリンと特性が異なるらしい。


 オーガのハザマは中級冒険者が1人いないと入れない事になっている!

 俺が、初級レベル1の俺が倒せるのか!


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 オーガが金棒を持ち、走ってマイルームに入った。

 アローを受けながら俺の元に走って来る。


「ゴブリンより速い!」


 ゴブリンならアロー1撃で倒れる。

 だが、アローを受けながらも走って来る!


 オーガの怖さは速度よりも攻撃力らしい。

 ここに迫って来る!

 どうする?

 シャドーランサーを後ろに下げた。


 門を閉じたまま時間を稼ぐか?

 それとも門を開けてダブルとレッドオーラを一気に使って畳みかけるか!

 攻撃力の高いオーガなら、門の1つくらいすぐに壊して中に入って来るだろう! 

 ……門を開ける!


 門を開けたところでオーガが倒れ、魔石に変わった。


「……んんんんん?」


 あっけない。

 アローだけで倒せた?

 回廊陣を進む途中で?


 進化したばかりで本調子じゃなかったのか?

 いやそれにしても、弱くね?


 ……オーガのハザマを出して入ってみるか。

 あのスピードなら逃げられる!

 けど、モンスターが進化直後で調子が悪かっただけの可能性もある。


 俺は動画サイトでオーガを検索した。

 ……速さは、そこまでじゃない、ゴブリンよりは早いけど、逃げ切れる。

 オーガの魔石を見つめた。

 魔石が大きい、魔石を口に含むと甘みが口に広がりとろけて消えていく。


「オーガのハザマか、行ってみよう」


 次はオーガのハザマを出した。

 三角形の魔法陣が2つくるくると回り、赤い光を放っている。

 ハザマに入るとオーガ4体・スケルトン1体がマイルームの回廊陣を進む。


 前にいるオーガがアローで倒れ、次のオーガを攻撃する。

 マイルームが広くなった分到達距離が長くなった。

 オーガでもあれだけアローを浴びれば倒れるのか。


 試しにシャドーランサーを前に出してみる。

 シャドーランサーとアローの攻撃でオーガ4体は全滅するが攻撃を受ける事もあるか。

 スケルトンが後から迫って来た。

 スケルトンは大人と同じくらいの体格で、リトルスケルトンと同じように剣を持ている。

 防御力と攻撃力に優れていて、特に防御力が高い。


 だが、シャドーランサーが前に出てスケルトンとの戦闘が始まるとリーチ差を生かして後ろに下がりながら槍を突き出し、死角からアローの攻撃を受ける事で倒れた。


 オーガの魔石とスケルトンの魔石が手に入った。

 あの速度なら逃げられる。

 危なくなっても何とかなるだろう。


 少し、防衛スキルに頼りなさは感じるが、俺が戦わなくても倒せた。 

 行ける!

 拠点を潰す!


 モンスターの拠点に向かい、グレートオーガの金棒を振り回すとボスオーガは簡単に倒れた。


 中級向けのハザマは他にガーゴイルとゴーレムが出てくる場合がある。

 ガーゴイルは攻撃魔法と状態異常攻撃を仕掛けてくる。

 ゴーレムは防御力が高く、自爆攻撃の特殊スキルを持っている。

 ……ガーゴイルとゴーレムが問題無く倒せれば、余裕じゃね?


「おし!ガーゴイルとゴーレムを出して検証だ!」

 

 俺は何度もオーガのハザマを消した。



 ◇



「アローで消えろ!ガーゴイル!」

 

 ガーゴイルがアローであっけなく魔石に変わった。


「おっしゃああああ!行ける行ける!次はゴーレム出てこい!ひゃっほーい!」


 俺はゴーレムが出るまで連戦した。



「来た来た来た!ゴーレム来た!」


 ゴーレムはゆっくりと回廊陣を進み、やられそうになると爆発して魔石に変わった。

 

「あああ!壁がまずいか!」


 いや、壁が傷ついたが、壊れるほどではない。


「しゃああああああ!これでオーガのハザマに毎日通える!力アップだー!」


 オーガの魔石は力をアップさせる効果もある。


 でも待てよ?

 俺がオーガの、中級クラスの魔石を売りに行ったらどうなる?

 盗んだと思われるかもしれない。

 監視カメラを駆使して俺の施設での動きをチェックされたら中級ハザマ施設に入っていないことがバレる。

 そして、取り調べを受け、俺がハザマを出せる事がバレたらまずい。

 ダラダラと汗が流れる。


 ゴブリンの魔石は取っておいて換金の時はこっちを使う。


 他は……全部食べよう。

 防衛施設はオーガを倒せるけど、少し頼りなくも感じる。

 マイルームが強化されたばかりでしばらく強化されないだろう。

 それ以前に、これ以上強くなるのか?


 やっぱり、俺自身の強さを高めるべきか。

 

 俺の目標は初級レベル5になる事だ。

 力を高めておいて損はない。

 それに、俺のマイルームスキルは特殊過ぎて試験の際の手続きが面倒らしい。


 マイルームスキルを使った試験にすると動画を撮られたり色々あるらしい。

 高校が無料な代償としてスキル試験のついでにデータ提供の義務が発生する厄介案件だ。

 

 でもマイルーム無しで試験を受ければややこしいデータ提供は無しでいい。

 金棒とレッドオーラのみで初級レベル5を目指したい。

 多めに力を蓄える!


 毎日オーガを狩って魔石を食べる!

 これがベストだ!


 スマホが振動する。

 母さんからか。


『ヒトミちゃんのボディーガードはどうするの?もうすぐ学校に時間よ』


「あ!」


 俺は急いで家に戻った。

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