水車のある家

翌日。

ライラはブラムに連れられ、アイゼの西部へ向かった。

発明家の家はアイゼの西端で、北部中央寄りにあるライラの邸宅からは距離があった。



「……帰りは馬車を呼びますから」



運動不足のライラは、当然のように道の途中で倒れた。

呆れ顔のブラムが、仕方なしとライラを背負う。



「お前、これからも長く生きるんだからよ。マジでちったあ、体力付けろよ」


「……トレーニング、嫌い」


「何なら好きなんだよ」


「……楽すること」


「清々しいほどのダメ人間だな、お前は」


「……自覚してまーす」



ライラは悪びれもせず、ブラムの背に身を任せる。

ブラムが数度舌打ちしたが、聞こえないふりをした。

聞こえたところで、改善する気はないのだ。

色よい返事をしたふりをするなど、きっと余計に失礼なことだ。


開き直ったライラを背に、ブラムがアイゼの西部を歩く。

アイゼの西部は、北部や中央とはまったく違っていた。

同じ街だというのに、ひどく田舎臭い。

砂利道ばかりで、街の外に出てしまったのではないかと錯覚するほどである。



「あそこだ」



ブラムが田舎な風景を指差して言った。

そこには小さな家が建っていた。

家の傍には用水路が流れていて、水車が取り付けられていた。



「素敵な家ですね」


「だろう? 見た目はな」


「見た目は?」


「中に入りゃあ、分かる」



そう言ったブラムが、ライラを背から降ろす。

ライラはよろめきつつ、発明家の家を注意深く見た。

少なくとも、家の外観は小奇麗であった。

家の周りは除草されていて、屋根には苔の跡すらない。



「これだけ丁寧に生活していれば、家の中も綺麗だと思いますけど」


「あ? ああ、まあ。中も綺麗なもんだぜ」


「えええ? どういうことです?」



ライラは首を傾げる。

そんなライラを横目に、ブラムが家の木戸を叩いた。

間を置いて、中から声が聞こえる。



「コウラン、さっさと開けろ」


「……ブ、ブラムかい?」


「ああ? 俺の声が分からなくなっちまったのか?」


「……わ、分かるよ。ちょ、ちょっと待って。今、開けるから」



コウランと呼ばれた男の声が、慌てて木戸へ近付いてくる。

やがてガチャリと、木戸が開かれた。

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