第75話 現代人は確信犯

スターリングラードの冒険者ギルドへ行くと、アリエルの街よりも活気はあるしちょっとガラの悪い人が多くいる。だけどまあ、パーティの面子見て絡んで来るような人はいなさそうかな。


……ムーが怖いお面着て巨大な鎧を着ているからただの厳つい存在になっているんだよね。あとハルやアルも変化は出来ないしそのまま移動しているので、フェニックスの上位種やアルラウネの上位種が傍にいることになる。


いくらキューが可愛い子狐になってスーが真ん丸スライムになってももう誤魔化すの無理だよ。約一名の戦力外を除いて、滅茶苦茶強そうなパーティーになっているから絡んで来る人なんていない。


そんな状況で冒険者ギルドのカウンターまで行って、クイーンヴァンパイアを90階で討伐しましたと言ったら冒険者ギルド内の空気が死んだ。……誰かからは絡まれると思ったのに「あれ……マジか?」みたいな反応になるの何で?ちょっとこういう場では「そんなことあるわけないだろ」と嘲笑われたり、揶揄われてみたかったのに。


あと最下層は90階までということやそれまでの素材等の売却も始めると普通に信じられる模様。いや都合が良くて助かる。こりゃヒトラーさんに会えるのは時間の問題かな。


「あ、この街の活動拠点が欲しいので家を買いたいんですけどどの辺で売ってます?」

「3-5の角に不動産屋がありますよ。この街の地図が欲しいのであれば1つ1000円でお売りしますが」

「買います。……おお、区画整理がキッチリしているから地図も分かりやすいな」


宿屋に泊まるより、家買った方が色々と楽なので家を買うけど、流石に首都なだけあって中央の地域はかなり高いな。一方で碁盤の目の外側の地域だと安いのに大きい家が売っているのでとりあえず購入。


……とりあえずで購入するようなものじゃないけど、ちょっと高い深層装備を売ったらお釣りが来るレベルの買い物はどんどんしていこう。経済は回すもの。お金は無駄に貯まる一方だし、宿とは違って持ち家なら改造し放題だし。


「あらしのような転移者だな。名前は?」

「……いやここでレーニンとかチャーチルとかは名乗れないわ。

出来てサイトウやタナカだな」

「そうか。俺はレーニンだからお前はチャーチルだな」

「トーヤです」


で、家を買ったら案の定ヒトラーさんの側近のレーニンさんが家に来たけど結構なおっさんだった。……十数年前にレーニン名乗っちゃったら引けなくなったタイプかなこれ。姿は記憶のレーニン像とはかけ離れているし、背広を来たら普通のサラリーマンって感じ。


というか結構転移者多いな。ヒトラーさんも含めると今のところ、自分も含めて4人の転移者がいることになる。まだまだ会ってない転移者も多いだろうし、ケイトさんが会っていた転移者のことも考えると年1ぐらいのペースで来てそうだな。


「……何の目的でこの街に来た?」

「単に未踏破ダンジョンがあったからクリアしに来たのと、転移者チェッカーな国があったらとりあえず覗きに行くでしょ」

「随分と怖いもの知らずだな。90階まで到達したのが本当であれば、相当な強さであることは分かるが」


何というか、おっさんにしては話しやすいので精神年齢は低そう。まあレーニン名乗ってるし、顔が老け顔なだけで若いのかもしれない。


「あとはこの世界に『原作』があればその情報が欲しいなと」

「……ほう?

対価に何を払う?」

「あ、知っているなら話せ。話さないならこの国を更地にして帰る」


転移者が集まってそうだし、原作の情報も入るかなと思ったらこのおっさんが情報持ってそうだったので脅す。国家のNo2とかそういう立場は自分にとって関係ないことだし。交渉なんてさせるつもりはない。


「し、思慮が浅すぎる。何でそんなに短絡的なのにそこまでの強さを手に入れているんだ」


ルーが超高速で移動し、剣の平らになっている部分で全身をペチペチしていたら泣き出しそうになるレーニン。この人も鍛えてそうだけど、それ故にルーとの圧倒的な戦闘力の差は感じ取れた模様。まあ原作知らない人間にとって原作情報というものがあるなら、殺してでも奪い取るものでしょ。


やろうと思ったらネクロマンサーやリッチーの存在もあるから、死体だけ持って帰ってネクロマンサー育てて情報だけぶっこ抜く芸当も可能。だから原作があって、それを知っているならさっさと話せ。


「んー、まあヒトラーさんが一番詳しいならヒトラーさんに聞こうかな。というわけで連れて行って下さい」

「だが断rぎゃああああああ……ああ?」

「今腕を切ってくっつけましたけど違和感ありますか?」

「連れて行きます何でもします許して下さいお願いします」


何というか、レーニンさんはダンジョンの深くにはあまり潜ったことがないそうでヒトラーさんほどは強くもないらしい。あと自分の命の惜しさに上司を売れるタイプの人間だね。まあ人間の大半がそうだと思うけど。


ぶっちゃけ原作がどういうものか分からない状態というのは一刻も早く解消するべきだと思うし、無駄な会話をするつもりもないのでこういう面倒そうな人はさっさと畏怖させるのが一番手っ取り早い。……その度に人間らしさを失っている気はするけど「だが断る」とか調子に乗った発言は言わせたくないかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る