第67話 現代人は経営が苦手

レベリングも一段落したところで、サウイマ商会に行って深層装備が売れた分の代金を回収する。売れたら毎回連絡が入るけど、毎回行くのは面倒なので3回分ぐらいの代金を貯めてから回収をしている。往復するのに今のハルでも1時間はかかるからね。


「そう言えば売却手数料って適当に決めた5%で良かったの?」

「元値が高いから5%って結構な金額ですよ……?」


深層装備に関しては、売れるのに時間もかかるので売れた金額の5%をサウイマ商会が天引きすることになっている。大体1個数百万から数千万なので、まあ1回の取引で100万前後は引かれているわけだけど何か少ない気がした。


「その考え方だとトーヤさんは経営者向いてないですね。例えば月に5個、1個につき1000万円の利益が得られるダイヤの指輪を作る職人が居たとして、ダイヤを削る設備や指輪を作るまでの機材全てを雇い主側のトーヤさんが保有していた場合、加工費として職人に一月で幾ら払いますか?」

「……設備はどれぐらいの価格?」

「1億円にしておきましょうか。ダイヤの指輪の原材料費は100万円、加工後の指輪は1100万円で売れる設定にしておきましょう」

「じゃあ月に100万円ぐらいかなあ。いや、月に5000万円稼いでいると考えるともう少し高い?」


何か急にシチュエーションを問われて回答を求められたので素直に直感で答えるけど、この設定で月100万円の給与は多いらしい。この人にとっての正解は「生きるための最低額」だとか。余裕を持たせたら設備を買われて独立されるから給与を下げるとかえげつない考え方だわ。


「……生きるための最低金額が正解なら、例えば月10万円で生活できる場合は月10万円が正解ってこと?それって職人逃げ出さない?」

「人としてはともかく、経営者としては正解ですね。あと、生きるための最低金額への考え方は、時代や価値観によっても変わります。

まあダイヤの加工設備をどこも持っているとは限りませんし、仮に他にあったとしてもそこは他の経営者と話をして、極力安価で抑え込めるよう『どこも一緒』という状態に持って行くんですよ」

「……うわあ」

「トーヤさんも大金を持った以上、経営者側に行くことがこれから増えるでしょうし、そういう考え方があるということは知っておいた方が良いと思って教えました」


何というか、サウイマ商会が僅か5年でリトネコ王国でも有数の商会にまで成長した理由は分かった気がする。この人色々とえげつないし知識もあるからそりゃ商売レベルの低いこの世界では無双するわ。


というか今の考え方が過去にのさばっていたから小学生の頃は一切物の値段が上がらなかったんだろうな。まあいいや。経営とか自分がすることはないだろうし。


「個人的に気になっているんだけど、民主主義国家スターリンって知ってる?」

「知ってますがまだ行ったことはないですね。リャン帝国とマウリス教国の2か国を縦断しないと行けないので。

……名前で惹かれるのは分かりますけど行くつもりですか?」

「ヒトラーを名乗る人とか面白そうだし会ってみたいけど」

「国のトップ相手に会ってみたいで会えると思って片道1ヵ月はかかる遠方の国まで行こうとするのはトーヤさんらしいですね」


何度か会って分かってきたけど、ケイトさんは結構皮肉が出るし毒舌でもある。商会のトップがそれで良いのか。それにしても、ケイトさんも行ったことは無いとなると、自分で行ってみるしかないのか。


まあダンジョンはこの世界、至るところにあるみたいだし気分転換がてらに別のダンジョンへ潜るのも良い。未踏破=80階以上あるダンジョンも結構あるようだし、退屈はしないだろう。スターリンの首都にも未踏破ダンジョンがあるみたいだし。


となると、結構長くここからは離れることになる。お留守番にはキューの分身体を置いておくとするなら、キューだけ先に九尾へ進化させてしまうか。


……流石に今八尾だから、もう1段階進化するよな?そんなことを考えつつ、8人に分身したキューは1人を自宅に残し、後は109階の各リスポーン地点の近くで待機。ペアになっている他の魔物がギリギリまで削ってラスキルだけキューが掻っ攫うスタイルで経験値を荒稼ぎする。


実質8倍でラスキルレベリングが出来るからえげつない速度でレベルが上がって行くな。うわ、もうキューのレベルが10レべ到達した。キューの本格的なレベリングを開始してからまだ3日目だぞ。


そして進化後のキューは、九尾になり尻尾が九本に。進化直後の姿は流石に美人というか国を傾けそうなぐらいの美貌だった。なおすぐに今までののじゃロリ婆に変化してくれる模様。素の魅力値で魅了されそうだったから対応助かる。


「いや主様は美女より幼子の方が好きであろう?」

「それは語弊があるんだよなあ。純粋なロリは別に好きじゃないし性的対象でもないわ」


これで9体にまで分身が出来、1人を家に置いていても8人まで分身出来るとか都合の良い存在である。分身してても意識の共有は出来るので、戦闘面でも強いのがこの分身。あと諜報はえげつない。


例の照魔鏡は半径200㎞圏内を自由に見れるということで、分身にそれを見せておけば諜報活動はそれだけで事足りるようになる。戦争の状況とかも逐一分かるし、何がヤバイってこれ分身体も出せるから計9ヵ所を同時に監視できるんだよ。


魔法は相変わらずのバフデバフ特化。結界は多少硬くなったかな程度の強化だけど分身が1人増えるだけでも大幅な強化なので器用万能な狐である。加えて頭良い人が9人分いる状態になるので、今後面倒な仕事が発生した時に全部押し付けられそうなのは滅茶苦茶便利だ。

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