第64.5話 他者から見た現代人②

「おい、聞いたか!今年からこの一帯をアリエルのダンジョン狂いが統治するそうだが、税は納めなくて良いと言われたぞ!」

「しかも戦争になっても男手は要らないそうだし、魔物達は全員アリエルのダンジョン狂いの魔物になる予定だから領地にいる人は襲わなくなるそうだ」

「税を……納めなくて良い?それじゃあ、全部自分のものにして良いのかしら……?」

「ああ。土地も今までの住んでいる家や畑をそのまま所有することを認めて下さった。新しい土地の開墾は許可が出るまで禁止だと言われたがな」


アリエルのダンジョン狂いことトーヤが男爵位を貰い、領主となってから3日。その領地の中では最大の規模の村であるソオシ村は、税がないということに大いに沸く。


その上、トーヤの魔物達の戦闘力が異常だという噂は領内全ての村で認識済みのことだった。何せ、アリエルの街の壁の修復にはアリエルの街の周囲の村々の人間も関わっている。どれほどの威力だったかは、未だに壁の修復が終わってないことで理解は出来るだろう。


ちょっとした威嚇でリャン帝国軍の半分を消し飛ばし、そのまま延長線上にある家々や街の外壁まで破壊するような人間が領主となった。そのことに対して不安は残るものの、大半の人間にとっては戦争に駆り出されず、税も取られないというのは非常に都合の良い領主に見えた。


「あの……可能ならトーヤさんの領地の税が無いって話は広まらないようにしていただけませんか?」

「そんなこと出来るわけがないだろう。噂話というのは絶対に周囲に伝わる上に、防ぐ手段も少ない。そのうち、大規模な移住が何度も起こるだろうな。

……税の回収は貴族の務めだが、それすらもしないとなると村人にとってはもうただの楽園だな」

「……今からでも税の回収はお願いするべきなんでしょうね。出来ませんけど」

「そんな面倒くさいことを言った瞬間あの光線で全てが無に帰すぞ」


シュヴァリエの首都では、アリエルの街の冒険者ギルドのマスターが招かれて改めてトーヤについて話し合いが行われるが、これから先何百人何千人とトーヤの領地に人が移住することが目に見えているため、非常に厄介な状況になることが考えられた。


「押し掛ける国民を全員殺す、なんてことはしないでしょうが門前払い程度はするでしょうね」

「いや?あれはたぶん受け入れるぞ?

今回渡した領地はかなり広範囲であいつも人手が欲しくなる場面はあるだろうから……いや、魔物達が働くか」

「魔物達が働くので人手自体は要らないでしょう。ただトーヤさんは、目的のためなら手段を選ばない性格です。魔物の中には、人を食べることで進化先条件を満たす魔物も存在します。それを知っているなら、生贄程度は要求するでしょうね」

「おま、それ絶対あいつに言うなよ!?」


トーヤの魔物使いとしての才が異常だと判断していた冒険者ギルドのマスターは、トーヤに関わるテイマー達に対し、特定の情報を渡さないよう依頼をしていた。その中の1つは、進化先の条件に『人間を食べたことがある』などのような条件があることだった。


「いえもう知っているでしょう。属性毎のスライムからスライムガールに進化出来る時は、過去に人間を食べています。あれだけのスライムガールが居て、気付いてないということはないと思いますが」

「……あれはそこに関しては気付いてないと思うんだよな。別の方法があっただけで」

「別の方法?」

「ああ、すまん。そこに関しては勝手に言えないんだわ。ただまああいつが転移者と分かって、だからこそそんなことが出来たのだろうと思ったが」


シュヴァリエのライト、アリエルの街の冒険者ギルドのマスターは共に転移者ではない。この世界の住民であり、そして別の世界からの転移者がいるということを知っている数少ないの人間だ。


「……アリエルの街で数匹のスライムガールは見かけましたが、何十人が犠牲になっているんですかあれ?」

「今多分数百匹には増えているんじゃねえかな……?ただ犠牲者は1人もいないと思うぞ。いや、見方によれば1人は犠牲になっているか」

「そこまで言うなら言って欲しいんですけど言えないんですね……」

「ここまで監視の目があるとは思えないが天使すら狩る存在が過去の発言を調べられないとも思えないからな」


ファイヤースライムガールやダークスライムガールなど、スライム娘は最低でもCランク相当の魔物であり、単騎ではCランク冒険者だと苦戦する。それが数百匹はいるという言葉を聞き、頭を抱えたライトは、それらが全てあのトーヤの指揮下にあることを思い出し、圧倒的な戦力差に絶望した。


「一先ず、東のヴィランク帝国の残党を併合していきます。その間、後ろの守りはトーヤさんに祈ります」

「それが一番だろう。……で、マウリス教国に流して欲しい情報って何だ?」

「……本当にマウリス教国の教官という立場でないのであれば、マウリス教国へ定期的に送っている書簡の中にこれを交ぜて下さい」

「別に良いが、この中身は俺が見ても問題ないな?」


ライトは今後の方針を話した後、一通の手紙を冒険者ギルドのマスターへと渡す。その手紙の内容を見た冒険者ギルドのマスターは中身に目を通した後、マウリス教国へ送ると共に、今回の顛末をスターリンにいるヒトラーへ報告した。

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