第44話 現代人は暗殺されたくない

「えー、前に調査依頼があった件について報告があるんだが聞くか?」

「何の件です?」

「……命を狙われていた自覚はあるか?」

「それはまあ毎日ダンジョンで……ああ、前に襲撃来てましたね」


今日も今日とてダンジョンに行き、82階の巨大ゴキブリの群れを見てパニックになった自分はキューに幻覚をかけて貰いながらマッピングをした帰り。


冒険者ギルドのマスターに82階は獲得出来る素材がないですと報告しにいったら調査報告書を受け取る。中身を見ると前にハルが食べた侵入者について、大元が分かったらしい。


「マウリス教国ってどこです?」

「リャン帝国の南にある大国だ。リャン帝国の数倍は大きいらしいが、近隣に他の大国も多い。まあその大国群の中でも国としての力はかなり大きい方だ」

「……何で宗教国家から魔王認定されているんだ?」

「魔王になる可能性がある、らしいぞ。それで手始めに刺客を送り込んで来る辺りは聊か思慮が足りないな」


リャン帝国の南側にある、マウリス教を信仰する宗教国家。そこが自分について、世界を滅ぼす魔王の卵と予言したらしいので一部の過激派が刺客を送り込んだ模様。『アリエルの街で生まれしテイマー、世界を仇なす魔王となる』みたいな予言。まあ将来的にはもっと扱い辛い存在になるだろうし、現段階で一部からは「魔王だ」みたいなことを言われているから否定は出来ない。


というかその刺客を、使役する魔物が丸焼きにして食べちゃったしね。……向こうにも自分の強さとかは伝わっているのだろうか。ハルもキューもめっちゃ弱いと言ってたけど、密偵や刺客みたいな存在で戦闘が弱いってことはないだろう。少なくとも、マウリス教国では強い存在だった可能性は高い。


「やっぱり他国には100階より深いダンジョンとかあるんですか?」

「そもそも人類が80階を突破したのはお前が来るまで聞いたことがないから分からないな。遥か昔、この大陸を統一した聖帝が100階を突破した伝聞というかおとぎ話はあるが」

「……じゃあ片っ端から未踏破ダンジョン潜るしかないのか。

調査の方はありがとうございました」

「報酬は既に貰っていたから気にするな。

あとそうだ、大量の肉の消費先についてワイバーン運送に話をしておいたから明日の昼に時間あるか?」

「……夜、ダンジョン出てからになりません?」

「……それでも良いぞ。向こうにとってのありがたい話だしな」


とりあえず、自分を殺そうとしていた組織について、思っていたよりも大きそうだということが分かったことは良い事だ。マウリス教自体は魔法の各属性に対応する神がいて、それに感謝する宗教なのでその教義に悪い点はないんだけど……宗教なんて所詮集金装置だからなぁ。


ついでにマウリス教の普及具合は、リトネコ王国だと存在を知っている、程度で信仰している人は少ないらしい。まあ今まで自分も聞いたことなかったし、他国ではメジャーな宗教ではないのだろう。にしてもマウリス教国とその両隣にも国があるみたいだし、世界は広そうだ。……地図がないのはマジで不便。


「……キューとスーは街中でも交互に警戒しておいてくれ」

「わかったのじゃ」

「ますたーは命狙われてるのに攻撃しないの?」

「遠そうだしリャン帝国を縦断するの面倒だからとりあえずは追い払うだけかな」


暗殺しようとする人が街中でも襲って来る可能性を考え、常に傍にいるスーとキューには警戒をするようお願いする。キューは現状、本体が子狐状態になって一匹は頭に乗っており、狐形態の分身体2匹は地面をトコトコ歩いている。あとは女性形態の分身体が後ろを歩いているのと、自宅に2体、幼女形態と狐形態の分身体がいる。……自在に分身を出せるのって強いよなあ。


スーも一応分身を作れるけど、分身を作ったら別個体になってしまって弱体化するようなので真ん丸スライムになって肩に乗ったり地面を跳ねたり。女性形態だとトラブル発生するから仕方ない。きっちり人型になれば色白美人だし。この2人は、一見すると無害な存在に擬態出来るので身近に置く時重宝している。


スネーク君とかハルとか、見た目からして強そうだしね。特にスネーク君は蛇部分が長くなったので、全体的に大きく見えるし、炎の羽根が生えているハルは美人なのに絡んで来る人が皆無な辺りみんな自分の命が惜しいのだろう。


……そう言えばそろそろスネーク君は改名するか。子供のスネークと混同するし、本人嫌がってないけどちゃんとした名前の方が良いだろう。


「スネーク君の名前はこれからナージャな。子供はスネイチ、スネニにしていこう」

「え?……はい。わかりました」


特に改名という行為に驚かない辺り、名前が変わるのは特段変なことではないのかな。あとで冒険者ギルドのマスターにも伝えて、登録名を変えておこう。……ナーガからもし進化するなら、次はナーガラージャ辺りになると思うし、それを略してナージャなら丁度良い名前だろう。


スライチ、スラニみたいにナージャの子供はスネイチ、スネニと名付けていくことにする。将来的にはラミアの大軍になるのかなと思ったけどそう言えばラミアは進化時に特殊素材が必要だった。これはラミアを大量に狩っておいた方が良いかな。

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