エイプリールフール短編 犬シャルナ
※当時の文章まんま載せてます。2章本編終了後の話なのでネタバレ注意。
完全IF。こんな日でもなければ投稿できない尖った話。でもなぜか構想は前からあった話。4時1分に投稿。お祭りは結構好き。ちょっとえっちなハートフルストーリー。リハビリも兼ねてる。2通りの終わり方を書いたので2つとも載せてます。
4月1日が過ぎたら番外編に載せます。
「玄咲、私を飼って」
シャルナは玄咲に鎖付きの首輪を渡して唐突にそう言った。
「……」
玄咲は目を擦った。耳を疑った。そして状況確認をした。
(ここは俺の部屋、だよな)
いつものラグナロク・ネスト666号室。壁掛け時計の時刻は11時11分。玄咲の自室。部屋の内装に見覚えがある。そこで玄咲はベッドに腰かけ、シャルナは正面に立っている。互いに制服姿。だがシャルナは玄咲の制服を上に羽織っている。サイズの違いからスカートまで黒く覆っている。黒い革で覆われている。黒シャルナだ。久々のその姿を見て玄咲は思い出す。
(そういえばシャルナからもらった制服、タンスの奥底に紙包装して大事にしまったままだったなぁ……なにせ、劇物だからな。中々上手く扱えない。いや扱うってなんだよ)
「私を飼って!」
「2回言わなくていい」
「だよね。私たちは、何も言わずとも以心伝心、だもんね」
「……」
本当にこの状況は何なのか。現状は分かったが、そこに至る経緯が全く分からない。一体なぜこのような状況になっているのか。
「シャル、この状況は一体――」
「へっへっへっへっ!」
「!?」
シャルナが玄咲の膝に乗って舌を出して犬のように無邪気な笑顔を見せる。破壊的な可愛さだった。玄咲は一瞬で脳が蕩けた。
(あ、ああ……シャル、かわいい。犬みたいで、可愛い……)
「くぅーん、くぅーん」
鼻をこすりつける。
「わんわん!」
頬ずりする。
「あんっあんっ!」
「!?」
抱きついて顔を嘗め回す。
「幸せぇ……」
玄咲の肩に腕をかけて犬のようにもたれかかってくる。
(……幸せぇ……)
脳が溶ける。ときめきが限界突破する。もしもコスモがこの場にいたら「キュピーン! ときめきパワー108万! 大台更新です!」と言っていたことだろう。思考停止してひたすらの幸福に身を浸す。シャルナがさらに。瞳を潤ませ紅潮した頬で、
「ね、玄咲、私に首輪、つけてぇ……。私、ずっと、玄咲に飼われたかったのぉ……私を飼ってぇ……」
「!?」
流石にアブノーマル過ぎたので玄咲はちょっと冷静になった。常にも増して純粋な表情で瞳をキラキラ輝かせているシャルナに尋ねる。
「な、なぜ?」
「だってぇ、幸せなんだもん。私、今は玄咲の犬なんだもん。犬らしく、ふるまったって、いいでしょ」
「う、ううん……?」
やたらと犬にこだわるシャルナ。犬シャルナ。そんなくだらない語句を思いついた天之玄咲を心の内で一匹ぶち殺す。戸惑う玄咲の前でシャルナは突然伸びをして、
「うーん……なんだか走り回りたくなってきちゃった! ちょっと走るね!」
「え?」
「わん、わん!」
「シャ、シャル? なにを――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?」
シャルナは言葉通り部屋を走り回り始めた。
四つん這いで。
ぐるぐると。
その背後を隠すものは何もない。ついでに言えば激しく動き回りはためいている。玄咲は完全にフリーズした。でも、目だけはしっかりシャルナを追っている。
「ふー、満足」
その玄咲の前に走り飽きたのかシャルナが戻ってくる。真正面の地面に座る。そして、ひざを曲げ地に両踵を突き、手を招き猫のように曲げて。
「わん!」
ちんちんをした。犬のように。
「っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!? が、がふっ……!?」
あまりの破壊力に玄咲は血の滴る鼻を抑えた。真正面からもろ見えている。最も魅力的なふくらみを隠すことなく曝け出している。流石に無視はできなかった。鼻を抑えている手とは逆の手でシャルナの下半身を指さす。
「シャ、シャル、み、見えて、丸見えだから、その、隠して……」
「――」
シャルナは目を細めて恥ずかしそうな表情をした。考えてもみなかった。そんな表情だ。今は羞恥を自覚している。
なのに、隠さない。
「わん」
むしろ見せつけるように、少し、突き出してくる。腰を。
「ッ!!!!? な、なんでっ!!!!?」
「その、玄咲の、喜んでる、からさ。喜んでるなら、見せて、あげたいな、って。だから、見てもいいよ。いつもお世話になってるから、ご褒美、だよ……」
「――」
ピシリ。
理性が軋む音。シャルナはさらに加圧をかける。首を差し出してくる。
「ね、首輪、かけて」
「シャ、ル……」
「私を、玄咲の犬にして」
「……」
玄咲は無言でベッドの上の鎖付きの首輪に手を伸ばす。そして、シャルナの首にカチッと嵌める。
「――やっと、夢が叶った……」
シャルナが、まるで積年の彼岸が叶ったかのような表情で嬉し泣きをする。その姿が、段々と黒ずんで、凄く、懐かしい姿が――。
「――」
玄咲は反射で黒いシャルナを抱きしめた。ずっと謝りたかった。でも、成長した今なら、与えるべき言葉はそれじゃないと分かる。だから、思い切り愛を込めて抱きしめる。そして、伝える。
本当に言うべき言葉を。
「もう二度と逃げない。ずっと愛してる。今も、昔も、未来も、ずっと、永遠に――」
「――わん!」
シャルナが光になって消える。まるで成仏したかのように。そして、夢が、覚めて――。
「……なんか、凄く変な、でも懐かしい夢を見たような……」
玄咲は自室のベッドの上で目を覚ました。壁掛け時計の時刻は11時。夜の11時だ。シャルナと一緒に訓練して、寮の自室に帰って、疲れてそのまま眠って、そしてすぐ起きたらしい。睡眠時間は30分そこらだろう。けど、十分な休息になったらしい。凄く穏やかな気持ちだった。
「ん?」
ふと気づき、玄咲は目元を拭う。
「涙、か。昔の友人にでも会ったのか? なんとなくそんな気がする。俺って結構勘が効くんだよな……もうひと眠りするか」
布団に潜る。確証はない。だが、不思議な革新を抱きながら、玄咲はきっと夢の中で会ったであろう古い友人に穏やかな気持ちでお休みを告げた。
「お休み、クロマル」
ED2 ループエンド
「……なんか、凄く変で、でも尊い夢を見たような……」
玄咲は自室のベッドの上で目を覚ました。壁掛け時計の時刻は11時。夜の11時だ。シャルナと一緒に訓練して、寮の自室に帰って、疲れてそのまま眠って、そしてすぐ起きたらしい。睡眠時間は30分そこらだろう。けど、十分な休息になったらしい。凄く穏やかな気持ちだった。
「ん?」
ふと気づき、玄咲は目元を拭う。
「涙、か。クロマルにでも会ったのか? なんとなくそんな気がする。俺って結構勘が効くんだよな……ま、とにかくいい気持ちだ。それだけでいい。さて、再び寝るとするか。睡眠は人に与えらた最大の幸福の一つだからな……」
ピーンポーン。
「シャルッ!」
インターホンの音。布団に潜りかけた玄咲はただちに体を起こした。体感、インターホーンを鳴らす人物はシャルナの割合が多い。というか10割シャルナだ。シャルナ100%。玄咲は玄関に向かい訪問者の確認すらせず鍵を解錠してドアを開けた。
ガチャリ。
「えへへ。さっきぶり」
「シャル! どうしたんだ急に」
「うん。ちょっとね。部屋上がっていい?」
「ああ。もちろ――シャル。今日は俺の服を羽織ってるんだな」
「うん。いつも羽織ってるよ?」
「あ、うん」
ナチュラルに愛の重さを叩きつけられるも全くひるまず玄咲はシャルナを部屋に迎え入れた。今日はベッドの端ではなく縁に腰かけ隣り合う。シャルナが照れくさそうにもじもじとする。
「あ、あのさ玄咲。さっき私、夢見た」
「シャルもか? 俺もなんだ。夢の内容は忘れたけど」
「うん。私も忘れちゃった。でも、すごくいい夢だったってことは、なんとなくわかる」
「俺も同じ感想だ。もしかしたら同じ夢を見たのかもな」
「うん! きっとそうだよ! それでさ、目が覚めたらさ、凄くいいアイデアが浮かんだの! それを玄咲に提案しに来たの!」
シャルナが凄くいい笑顔で言ってくる。玄咲はシャルナの提案だからきっと凄く無邪気で可愛らしい提案なんだろなと思った。
(この前のメリーみたいに添い寝を頼まれたりするのかな)
玄咲はちょっと浮かれつつシャルナに尋ねる。
「どんなアイデアなんだ?」
「えへへ……あのね!」
シャルナが立ち上がり、玄咲の正面に立って、弾けるような笑顔でポケットからじゃらじゃらと鎖の付いた首輪を取り出し、玄咲に差し出した。
「玄咲、私を飼って!」
――壁掛け時計の時刻は11時11分だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます