第41話 A組 VS C組 2 ―決着―

 修正したい点も多々ありますが、一先ず2章本編完結まで投稿。



「あっ」


「これで終わりよ――!」


 神楽坂アカネが懐に潜り込んだ神鐘マルタの本型のADを杖の柄で弾き飛ばす。そしてがら空きになったボディに桜光魔杖フィオリトゥーラOiウィ Lu Gishuギーシュを突きつけて詠唱した。鮮やかな動き。


「フィオーレ・フランマ!」


「ぐわあああああ」


 神鐘マルタのHPが0になった。


「ばたん、きゅ~」


「はぁ、はぁ……なんとか、勝てた」


「そう、だね。やっと、勝てた……」


「ラグナロク学園は化け物しかいないのかよ……一応故郷の学校じゃ友人に次いで2番目の魔符士だったのによ。ん? あれ。友人の名前なんだっけ……」


 その高い魔力でアカネたちを苦しめた神鐘マルタ。最終的にアカネはマルタのカードチョイスの癖を掴み、一人で下した。だが、水野ユキが、大岩ガッツが、他にも仲間がいなければ、癖を掴むまでに負けていた。マルタの魔法の威力を思い出しアカネは額の汗を拭う。


「強敵、だったわね。敗北感、凄い。試合に勝って勝負に負けたって感じ。でも、勝った。今はそれで良しとしておきましょう。……さて、あとはリュートね。あっちも大詰めか。……リュート、勝ちなさいよ」


 アカネはその巨大すぎる胸にやや腕を埋めながら、胸の前で手を祈り合わせた。






「俺が、負けただと……?」


 A組とC組の戦いにたった今決着がついた。リュートは倒れ伏す炎条司をまだ荒い呼気を落としながら見下ろす。


「……紙一重の勝利だった。次やったら負けるかもしれない。だけど、だけど、だけど――ッ!」


 ――リュートの眼に熱い輝きが灯る。それを拭うこともせず、いつの間にか星が生まれていた夜天を見上げ、渾身のガッツポーズを取りながらリュートは咆哮した。


「――やっと! 勝ったぞ! お前に!」


「……とうとう、追い抜かれた、か……」

 

 炎条司は夜天へ吠えるリュートへ、まるで星を眺めるかのように眩し気に、本当に眩し気に見上げる。


「――俺はいつかはお前に追い越されると思っていたよ。だからこそ、お前には戦う度に徹底的に敗北感を植え付けた。俺の方が上。そう示したくてな。時間の問題だって、分かってたのにな」


「――え?」


 炎条司の告白にリュートが驚く。


「お前が内に秘めた才能は俺よりもずっと眩しい。分かってた。だから、だからこそ、負けたくなかった。――俺はお前をライバルだと思っていたんだッ! それなのに、負けちまった……う、うぅ……!」


「……司」


 ――炎条司はボロボロ泣いていた。グラサンの内から涙が溢れる。人によっては幻滅するかもしれない醜態。


 だが、リュートはその姿を美しいと思った。戦いと敗北はセットだ。戦えば誰でも負ける日が来る。そして本気であればあるほど、勝利の喜びは、敗北の痛みは、増す。涙は、本気の証。だから、心の底から司を美しいと思う。


「……涙を拭え。立て」


 だが、甘やかしはしない。司もまたライバルだからこそ、その心の強さを信じている。


「一人で立てるだろう?」


 それだけで、司には全てが伝わった。司はサングラスを外して涙を拭い、それから再び装着し、いつもの負けん気に溢れた態度を一瞬で取り戻した。


「――ったりめーだ。次は負かす。絶対負かす。いや殺す。本気の本気でだ。首洗って待っとけカスが……!」


「ああ。待ってる。完璧に勝ち越してみせる。超える。僕もまた、君をライバルだと思ってるからな」


リュートは何のてらいもなく言ってのける。ふん、と鼻を鳴らしながら、司はグラサンの位置を直して完璧に瞳を隠した。


「……そういえばよ、俺もあいつとカードバトルしたんだけどよ」


「なんだと!? いつやった!」


「3日前。因縁つけられてな。負けた。確かに強かった。戦闘センスが今まで会った誰よりもずば抜けてるな。だが、魔符士としての素質はそこまででもないと感じた。そして歪だった――お前にも、いやお前だからこそ勝機がある。俺がお前に対天之玄咲戦のアドバイスをしてやる。有難く拝聴しやがれ」








「おめでとう。やっと勝ったわね」


 炎条家と光ヶ崎家の確執は有名だ。リュートと司の関係も。アカネももちろん知っている。それを受けての発言。リュートは拳をほどいて朗らかな笑みを浮かべた。


「ああ。ありがとう。やっと、勝ったよ。そういえばアカネ。君もあのマルタに勝ったんだな。それも最後は一騎討ちで。凄いよ。おめでとう」


「彼女のこと知ってるの?」


「学園長の遠戚だよ」


「……」


 アカネは深々と頷いた。


「納得。道理で魔力が凄い訳だ」


「まぁ、常識の範囲内だけどね。前戦った。勝った」


「あなた、誰とでも戦うのねぇ……ところでさ、炎条司と何の話してたの?」


「司から天之玄咲の対策を教わってた。彼なりの激励なんだろうな。また背負うものが――負けられない理由が、増えた」


「……そ。じゃ、勝たなきゃね」


「ああ。必ず」


「うん! リュート君! 応援してるよ!」


 突然、水野ユキが二人の間に割り込みリュートの手を握った。惚れているからだ。リュートは言葉通りに水野ユキの想いを受け取った。ユキの手を握り返す。


「ありがとう。ユキはいつも優しいな」


「はぅ! あ、あああ、ありが――もう無理!」


 ユキは物凄い速度で後方へ去っていった。アカネはため息をついて、


「……ま、ユキにしては勇気を出した方ね」


「そうだな。ユキはシャイだからな」


「……そうね、間違ってはいないわ。それで、これからどうする? A組は倒したけれど、それでイベントは終わりじゃないわ」


「ああ、確かにそれは大事だ。どうしようか。今どの組が残っているんだろう」


「SDのイベントページを覗いてみましょうか」


 アカネはSDのイベントのページを開いた。残存クラスが表示される。そして顔色を変えた。


「これ、SD見て。残ったのG組とC組だけよ」


「え? あ、本当だ……」


「3組に挟み撃ちにされてたのに跳ね返しちゃったわ。信じられない」


「天之玄咲以外にも強者が揃ってるみたいだな。もしかしたらノーマークの魔符士でもいるのかもしれない。要警戒だな」


「どうする?」


「……」


 リュートは背後を振り返る。C組はまだ多くの生徒が残っている。人数もだが、クラスの主力となる光ヶ崎リュート、神楽坂アカネ、水野ユキ、大岩ガッツが全員残っているのも大きい。B、D、E、F組の合計4組と戦ったG組よりもA組のみと戦ったC組の方が間違いなく多くの戦力を保有しているはずだ。


(……少し、不公平かな。できれば僕個人としては――いや、エゴは抑えるべきだ。クラスメイトのために最善の判断を下すべきだろう。となると……)


 リュートは少しの間難しい顔をして悩んでいたが、結局は迷いを打ち切り、言った。


「山頂に陣取るか。閉所は人数差を活かしづらい。開けた場所で待とう」


「分かったわ。向かってこなかったら」


「こっちから向かうさ。現状、条件的には僕たちが有利過ぎるからな。それくらいの不利は背負いに行こう」


「OK」


 C組は移動開始する。リュートは思う。


(天之玄咲。どんな形であれ、やっと戦える。強くなった僕の全力をぶつける!)

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