第21話 玄咲のAD制作
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「本当に? 本当にボクでいいの?」
「ああ、グルグルがいいんだ」
「わーい! やったー! ボクのパトロンだー! しかも2人もー! もっとADが作れるー!」
グルグルが玄咲の手を握ってブンブンと振る。SDのポイントの項目の497万という数字を見せながら、ポイントを提供するので継続的にADの制作と改造を行って欲しいと告げた直後のリアクションだった。その天真爛漫なリアクションに玄咲は微笑ましさを覚える。グルグルは女性というより性別グルグル的な認識なので、手を握られても玄咲はノ―リアクション。シャルナもノ―リアクションだ。
「他の工房持ちの生徒はちらほらと上級生のパトロンが付き始めてるのにボクのところには誰も訪ねて来なかったんだよねー。何でかなー」
「……」
(ゴミ屋敷でジャンク改造なんて胡散臭いことをしてるからだ、なんて言えるはずないよな……。そりゃ普通は大事なADにジャンクなんて使って欲しくないだろう)
ジャンク改造。ADを無限強化するバグ技のキーとなる特殊改造。他生徒から非常に評判の悪い改造方法だ。ADにゴミをくっつけるなんて言語道断、という理由らしい。玄咲にも気持ちは分からなくはなかった。ゲーム知識がなければまず頼もうとは思わなかっただろうなとつい思ってしまう。「おもしれ―女」とグルグルにAD制作を依頼した大空ライトくんとは違うのだ。
「ま、いいや。じゃ、早速細かい条件の方を詰めていこうか。えっと、契約書契約書……」
グルグルが作業場の奥のデスク――当然のように色んな書類が雑多に置かれている――をゴソゴソと漁り、1枚の紙を取って2人の元へと戻ってきた。まくし立てる。
「どんなADを作る? あ、武装解放機能は学校が予算出してくれるからデフォね。 補正値は? 武器種は? スロット数は? 適応属性は? ギミックは? デザインは? 名前は?」
「ちょっと待って」
「ん?」
「ADって、自分で名前、決められるの?」
武装解放機能搭載型ADは自動で名前が決まる。言霊が宿りやすい――つまり魔力が伝道しやすい武装解放を最もスムーズに行える名前がカードに自動に刻まれるのだ。誰も好き好んで格好つけたルビを振って、長ったらしい名前を呼んでいる訳ではないのだ。クロウなどはこの仕様さえなけれな名前など【あ】で十分だと思っている。シャルナの疑問にグルグルが胸を張る。
「そうだよ! ボクのADは自分で名前を決められるんだ! 3年間独学で試行錯誤してやっと出力を落とさずにネーミングエディットできるシステムを開発したんだ。まだ自作のADにしか採用できないから発表してないけど、理論の汎用化に成功したら学会に発表するつもり」
「す、凄いね。よく、分からないけど」
「そうだよ。凄い発明なんだ。そのためにも、実際にボクのADを使ってくれる魔符士のパトロンが欲しかったんだ! だから、お兄さんの提案は本当にありがたかったよ。あ……でも、一応自動生成式も普通に作れるよ。既存の理論を流用すればいいだけだからね。ボクは別にそっちで妥協してもいいよ。パトロンの意向を優先する」
「いや、ネーミングエディット機能を試したい。凄く面白そうじゃないか」
玄咲は棒読みで知らないふりをして答える。今知ってたらおかしいからだ。シャルナがジト目をする。グルグルは両手を上げて喜んだ。
「やったー! やっと実戦データが取れる! じゃ、細かい仕様を詰めちゃおうか! まずは武器種から――」
「それよりもこれを見てくれ!」
玄咲はポケットに手を突っ込み1枚の紙片を取り出し、バン! と鉄製の作業台に叩きつけた。
「なにこれ?」
「ふふふ……それはな! 俺が考えたオリジナルADだ!」
昨日、バエルとああしようこうしようと語り合いながら紙に書き綴った玄咲の妄想の結晶。約20年分の妄想が詰まっている。それだけに玄咲の思い入れは相当なもの。相応にテンションも高くなる。シャルナが突っ込む。
「玄咲、テンション高いね」
「ずっと自分だけのADを作るのが夢だった。ずっと夢想し続けてた。その夢がやっと叶うんだ。俺は珍しくMAXテンションだ!」
「子供みたい」
「……MAXテンションだ!」
「あはは。お兄さん可愛いなー。仏頂面で俺は兵器を求めてきたーって顔をされるよりは余程やる気が出るよ。じゃ、ちょっと見させてもらうねー」
グルグルが玄咲から紙を受け取りふんふんと頷きながら読み込む。紙には項目がこと細かにマス目で記載され、ぎっちりとその中身が文字で埋められている。ドキドキとグルグルの審判を持つ玄咲へと、グルグルが指でOKサインを作る。
「よくできてるね。驚いた」
「本当か!?」
「うん。お兄さん、さっきも思ったけどADに詳しいね。ボクでも唸るようなマニアックな知識が随所に書かれてて面白かった。でも死ぬ程汚いし格好つけた無駄な補足が多くて分かりづらいから一旦清書しようか」
「えっ」
「ちょっと待ってて」
グルグルがペンと真新しいメモ用紙を取ってくる。シャルナがペンを拝借する。戸惑う玄咲にシャルナがニコリと、
「大丈夫。私が清書する。安心して」
「……」
暗にシャルナからも見てられないほど汚いとDisられた玄咲のテンションがちょっと下がる。落ち着きが出ていい感じになる。それから待つこと10分。
「できた!」
シャルナが清書したAD案は子供の妄想メモから立派な仕様書へとランクアップしていた。玄咲のAD案が誰の目にも明らかになる。
武器種 銃
補正値 50
スロット数 5
適応属性 闇3 火2 水1 風1 雷1 土1 光1
ギミック パワーチャージ
「そしてこれが俺の考えたADデザインだー!」
玄咲は再びポケットに手を突っ込み1枚の紙片を取り出し、バン! と鉄製の作業台に叩きつけた。
「なにこれ。ザリガニ?」
「え?」
「うん。私にも、ザリガニにしか、見えない」
「……そうか」
「あとさ、そのノリ、ちょっと、一緒にいる私が、恥ずかしいかなって」
「……」
玄咲は無言で仕様書に書き足した。
武器種 銃
補正値 50
スロット数 5
適応属性 闇3 火2 水1 風1 雷1 土1 光1
ギミック パワーチャージ
デザイン 赤と黒の禍々しい銃
「えっと、うん、デザインはボクの方で調整しとくね。大丈夫、格好良く仕上げるから安心してよ。あと、名前はどうする?」
「……」
かきかき。
名前 デス・カイザー
武器種 銃
補正値 50
スロット数 5
適応属性 闇3 火2 水1 風1 雷1 土1 光1
ギミック パワーチャージ
デザイン 赤と黒の禍々しい銃
「だ、ださ……」
「!? シャル!?」
「あ! ご、ごめん。でも……これは、流石に、ないよ……」
「……俺は、格好いいと、思うんだが」
「ボクもこれは絶対やめた方がいいと思う。パトロンに口出しはしたくはないけどね。これだけは言わせてもらうよ。お兄さん、絶対後で後悔するよ。断言してもいい」
「……じゃ、変える」
滅多に悪口を言わないシャルナにまで反射でださいと言われ、滅多に真顔にならないグルグルにまで真顔で忠告され、ボロボロになったメンタルで、それでも玄咲は長年温めていた他の名前案をメモ用紙に書き綴っていく。
カオス・デスメテオ
ファイア&ブラック・デスガンナー
ダークデス・メシア
デス・ガン
シュヴァルツ・ブリンガー
ヘルズ・ナイトメア
ヘル・オブ・ヘル
ハーデス・ロード
デビル・ゴッデス
キングス・デス・デーモン
バレットフォーム・デスサイズ
タイラント・デスオーダー
トライデス・トリシューラ
「できればこの中から選びたいんだ。どれがいいと思う」
「よく咄嗟にこんなに思いつくなー」
「……マニュアル式の名前候補だよ。武装解放機能のついてないADは自由に名前をつけられるからさ」
「あ、なるほどねー。一瞬僕のネーミングエディットシステムのことを知っていたのかと思っちゃったよ!」
「ははは……そんなことある訳ないだろ……」
「……玄咲、デスって言葉、好き過ぎじゃない?」
「そう、かな。俺はただ格好いいと思う名前を書いてるだけなんだが。ちなみに俺の1推しは先頭のカオス・デスメテオで、2推しはキングス・デス・デーモンで、3推しは――」
玄咲が語る程に、デスを推す度にシャルナは真顔になる。とうとう玄咲を無視してグルグルに話しかけた。
「……グルグル、さん」
「グルグルでいいよ」
「グルグル、シュヴァルツ・ブリンガーで」
「え?」
「ボクも一番それがマシだと思ってた。お兄さん? それでいい?」
「あ、ああ。シャルが選んだなら文句はない。グルグルも同意したなら尚更だ。でも、正直俺的にはこの中ではワーストだと思ってたんだが……」
「……ディアボロス・ブレイカーは、奇跡だったんだ」
シャルナが小声でボソッと、玄咲と、そしてグルグルに聞こえないように呟く。グルグルがデス・カイザ―に×をしてその横にシュヴァルツ・ブリンガーと書き込む。そして、少し言い淀んでから、口を開いた。
「その、お兄さんはパトロンだからさ。あまり意向に口出しはしないでおこうと思ったけど、大事なことだからやっぱり言っとくね」
「パトロンだからって遠慮なんてしなくていい。言いたいことはなんでも言ってくれ」
「ありがとう。じゃあ言わせてもらうけど、そのAD、なんで全属性適応なの? まるでテスト用ADだよ。属性絞った方がずっと安く済むよ? こんな事細かに適応属性の項目を書くってことは、仕様を知らない訳じゃないよね?」
頷き、玄咲は自信ありげに答える。
「ああ。もちろんだ。ADの適応属性は各属性最大10まで上げられる。その適応属性と補正値の数値の小数点絡みのよく分からない掛け算で魔法の威力は上がる。その度合いは威力もコストも上げる程に跳ね上がる。適応属性が0の属性の魔法は0を掛けるので威力が0になる。つまりそもそも使用できない。だからといって全属性適応にしようとすると、属性を追加するほどに新たに追加するコストが跳ね上がる。改造費を安く抑えるために魔符士は基本自分の魔力属性以外の適応属性は上げない。属性を絞った方が安く済むから、だろ?」
「ちょっと待って、どこで覚えたのその知識」
「え?」
「後半は概ねその通りだけどね。ADに改造上限なんてないよ。AD制作はもっと自由だよ。上げれば上げる程上がりづらくなるし現状技術的な限界があるのは事実だけどね。なんていうか、総じてまるで、ADの改造をテーブルゲームか何かに無理やり当てはめたみたいな知識だなー。もしかしてTRPGとかの知識を真に受けたりしちゃった?」
「……あ、ああ、その通りなんだ! TRPGの受け売りなんだ!」
バエルは魔法や精霊には滅法詳しいが、人工物かつ構造が複雑なADのことは良く分からないらしい。だからシーマのCMAの知識を参考に仕様書を書いた。昨日バエルと語り合ったのはこんな名前が格好いいだの、こんなデザインが格好いいだの、そんなくだらない話ばかりだ。実に気が合った。ADの現実的な構造についての話はほとんどしていない。というかできなかったのだ。そのせいで玄咲は今凄く恥ずかしい思いをしていた。グルグルがさらに追い打ちをかける。
「あー、やっぱり! 結構いるんだよね。TRPGの知識でAD制作語る人。全く、適応属性の上昇幅を一定量毎に数値化して割り振るっていう最近流行りの通な書き方をするから勘違いしたけど、エアプだったんだね、お兄さん」
「!!? エ、エア……!?」
エアプという響きが玄咲のプライドをかつてなく傷つけた。
「にしては妙に詳しかったけど」
「……エアプじゃない。たまたま、その部分だけ、TRPGを参考にしたんだ。だって、AD制作って、そんな複雑だと思わなかった……」
「まぁ、AD制作は複雑だからね。知識の偏りはよくあることか。ボクも実戦派だから教科書的な専門知識は少し疎い所があるし。ミっちゃんとかはそっち方面滅茶苦茶詳しいんだけどなー」
「ミっちゃん?」
「ミッセル・コンツェルタント。魔工技師なら知らない者のいないコンツェルタント家の子で、今年の新入生だよ。こんな、派手なツインテールしてて」
「知ってる。さっき会った」
「あ、そうなんだ。面白い子だったでしょー? ボクあの娘のこと結構好きだなー。裏表なくて素直な性格で。いい子だよ」
「……そうかな。俺は――」
「話が、すっごい逸れてるよ?」
「っと、いけない。でさ、なんで全属性に振るの? 絶対無駄だよ。やめた方がいいよ。かなり高くなるよ?」
グルグルの言葉は道理だった。多くても2属性や3属性が限度の普通の魔符士が相手ならばだ。
だが、玄咲の魔力は普通ではない。闇と火属性に秀でた全属性適応の虹色の魔力だ。その特質を活かさない手はない。だから玄咲は最低限の威力でもカードを発動できるように、全ての属性に適正を最低1は持たせて、その上で闇、火属性を伸ばしていく方針に決めた。その方が玄咲の長所を活かせるとバエルも太鼓判を押してくれた。先程その信頼が激震した太鼓判だが。
もちろん、AD制作者のグルグルにその事情を話さない理由はない。一度きりならともかく、パトロンとしてこれから長く付き合っていくのだから話した方が絶対得だ。そもそも玄咲に隠す意図はない。作中でも、サンダージョーと同じく特異体質の一つくらいのライトな扱いをされていたから、バレても大丈夫だろうという安心感があったからだ。それはそれとしても、よく今まで誰も虹色の魔力について触れなかったなと思いながら、玄咲はグルグルに告白する。
「グルグル。俺は全属性魔力適応者なんだ」
グルグルは笑った。
「あはは、変な冗談はやめてよ。そんな人いる訳ないじゃんか」
「魔力属性測定デバイスを貸してくれ」
「OK。ちょっと待っててー」
ゴミ山からグルグルが魔力属性測定デバイスとバッテリーカードを探し出して玄咲に渡す。大体の場所は覚えているらしい。魔力属性測定デバイスは腕輪型のデバイスだ。表面に赤、青、緑、黄、茶、金、紫の7つの光玉が嵌めこまれている。腕輪を嵌めて魔力が充填されてるバッテリーカ―ドを差し込むと起動し、魔力属性に対応した色の光玉が光る。玄咲は腕輪に腕を通してバッテリーカードを差し込んだ。
紫と赤が一際鮮やかに、一瞬で全ての光玉が光った。グルグルは歓喜の悲鳴を上げた。
「うぴゃあああああああああああああああああああああああ!? すごい! すごい! すごいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい! 研究させて! 研究させて! 研究させてーーーーーーーーーーーーー!」
「うおっ!」
玄咲の腕にグルグルが飛びつく。ドワーフ族は身長が小さいのでちょっと爪先立ち。7色に光る腕輪を間近で覗き込み再度奇声を上げる。カードケースからカードを取り出し玄咲に渡す。
「はいこれ! バッテリーカード! 魔力充電して!」
「チャージ」
玄咲の体から魔力がバッテリーカードに充填された。丹田から精力が吸い取られるような感覚だった。
「うわーーーー! ありがとーーーーーーー! これ後日研究させてもらうねーーーーーー!」
「う、うん。そんな、凄いことなのか?」
「凄いよ! 人類史上5人目だよ! 凄いに決まってるよ! うわーーー! そんな凄い人がパトロンだなんてボク幸せだな――――! お兄さん、大好き!」
「――そうか。喜んでもらえて嬉しいよ。俺もグルグルのことが大好きだよ」
グルグルのあまりにも無邪気な喜び方につい玄咲の頬も緩む。心のままに親愛の情を口にする。グルグルはポカン、とゲームでも見たことのない表情で玄咲を見つめる。グルグルは赤らめた頬を掻きながら、玄咲から視線を逸らした。
「あ、ありがとね。嬉しいよ。男の人にそんなこと言われたの初めてだよ。お、お兄さんって、よく見たら格好いいよね……」
「!」
シャルナが玄咲の袖を掴んで焦る。
「玄咲、早く話、進めよ。AD制作の、本題に戻らないと」
「ん? ああ、そうだな。もう1時間くらいここにいるもんな。グルグル、そういう訳で全属性適応で頼む」
「あ、うん。任せて!」
「闇と炎、特に闇属性が強いから、闇属性適応を強めで。細かい配分は――」
ADの仕様をグルグルに改めて確かめながら、各項目の最終チェック。仕様書を契約書のADの項目に書き写し、魔力をペン先から抽出する魔法陣制作にも使われる魔法ペンで契約書にサイン。玄咲のAD制作の依頼はようやく終わった。グルグルがシャルナの方を向く。
「じゃあ、次はシャルナちゃんのADだね」
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