第35話握手会
最近色々あり過ぎて疲れたし、ストレスが溜まっている。
ところで最近、ある信じられない情報を知った。
海藤咲良のことだ。
彼女の握手会は神対応で、どんなアンチも熱狂的なファンにしてしまうとのことだった。
ワイは気まぐれか、ストレス発散の為か、興味本位で彼女の握手会に行ってみることにした。
まあ、コミュ障のワイからしたら握手会なんてさらにストレス溜まりそうだとも思ったけど、たまには知り合いを冷やかしに行ってやるのも悪くないと思った。
以前ライブに行った50層のダンジョンガールズ社のライブ会場に来ている。
今日はライブでなく、握手会が開かれている。
彼女の握手待ちは長蛇の列で、実際に握手できるのは3時間後だった。
俄かには信じられんな……。
あの怖い海藤姉が人気メンバーで、その人気の理由が握手会での神対応とは……。
時間がたち列の先頭に近づいてくる。
彼女のブースの様子が窺えるようになる。
噂は本当だった。
彼女はワイと話してる時とは全く違う話し方や表情で、ファン対応していた。
『〇〇君、来てくれたんだー!!! ありがと~!!! 嬉しい!!!』と、満面の笑顔で握手していた。
怖い、怖い、怖い……誰かに精神乗っ取られてんのか……?
握手が終わった客がスタッフさんに剥がされていく。
剥がされた客は名残惜しそうに去っていく。
泣いている者もいる。
40代とか、50代のオッサンが……。
どんどんワイの番が近づいてくる。
今までにも緊張する場面はあったが、今までの人生で一番緊張しているかもしれない……。
今からでもやめることできないのかな……? ワイが来たことによって般若のように怒りださないかな……。
悪ふざけでCD100枚も買ってしもうた。
一枚10秒で、握手券100枚って何秒だ……もう頭が働いていない……。
とうとうワイの番だ……。
今日こそワイの最期の日か……? 折角ここまで頑張って来たのに生きて帰れないかもしれない……。
だが、ワイが予想している事態にはならなかった。
「剛力君、来てくれたんだ~、嬉しい。ゆっくりしていってね!!!」
お前、誰やねん!!! でも、殺されないだけでもましかもしれない……。
「CD100枚も買ってくれたんだ~、凄~い!!! 大変だったでしょ?」
問題はそこじゃないねん……お前、誰やねん!!! でも、不思議な気持ちだった。
彼女の表情は見たこともなく優しく、声色も優しかった。
不覚にも女神みたいと思ってしまった。
心が弱っているときにこんな対応されたら、涙が出るかもしれないと思ってしまうほど優しかった。
その後も時間一杯まで『あの時楽しかったよね~』と、優しく両手で握手しながら思い出を語っていた。
惚れてまうやろ!!! 正確には惚れる寸前やけど!!! ギャップえぐ過ぎるっちゅうねん!!!
ワイの事なんかいつも興味ない態度なのに、ワイと彼女が体験した全ての事を覚えていて、その一つずつ具体的にここが面白かったと楽しそうに話していた。
時間が来た。
「剛力君、寂しいよ……また来てね?」
彼女は本当に寂しそうに言った。
こんなん、オッサンら、沼ってまうやろ!!! そら皆CD買ってまうやろ!!!
ワイは会場を後にする。
今日来なければよかったと思ってしまっていた……。
海藤姉の事は只の怖い女性としか思っていなかったのに、女性として少し意識してしまいそうだった。
絶対に好きになってはいけない相手を、少しと言えど意識してしまう罪悪感が芽生えてしまった……。
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