171 白い部屋、だけど落ち着いて ※ナナミ視点

 感覚としては、瞬きしたら別の場所にいたという感じ。

 時間が来て、まばゆい光に包まれて目を閉じ、次に目を開いた時にはもう私は別の場所に移動させられていた。


「ここが、通称『白い部屋』ね」


 目の前の机の上にはパソコンが一台置かれてる。

 ディスプレイには、『あなたは異世界転移者に選ばれました。ボーナスポイントの割り振りを完了させ、異世界へ旅立ちましょう』の文字。

 これは、第一回のときと同じ文言のはずだ。どうやらそこまで大きく修正が入ってはいないらしい。

 最悪、ポイント制度自体を止めるという可能性だってないわけじゃない。すべては神の匙加減次第なのだから、どういうことだってありえるとセリカちゃんは言っていた。


「制限時間は……一時間か。だいぶ余裕があるな」


 それだけあれば、かなり考えることができる。

 ポイントの割り振りは1回こっきり、やり直しのきかないもの。

 慎重に選ぶのは当然として、大胆さも大事だろう。


 ――――――――――――――――――――

・名前:相馬ナナミ

・年齢:15歳 ▼

・性別:女 

・特殊能力 ▼

・身体能力 ▼

・耐性 ▼

・精霊術 ▼

・アイテム ▼

・転移ポイント ▼

・不利な要素 ▼

 残りボーナスポイント 43p

 ――――――――――――――――――――


「こっちも大きな変化はなしか」


 まあ、第一陣がすでに転移しているのだから、そこまで大きな変更はしないだろうという意見が多数派ではあった。実際のところ、まだ初回の転移から半年どころかたった二ヶ月くらいしか経っていないのだから、大きな変化を付けるのは時期尚早と考えたのかもしれない。


「ボーナスポイントはかなり少なめね」


 だが、想定の範囲内だ。

 第1回転移では、ランダム転移がデフォルト選択になっていたという。

 転移場所を「安全」にするだけで30p。おそらく、今回はデフォルトが「安全」になっているのだろう。デフォルトが「ランダム」だったことで、かなり批判的意見があったから、神も考慮したということかもしれない。


「決めてるとこは先に触っておくか」


 私は年齢の項目に触り、年齢を一つだけあげた。15歳から16歳へ変更。ポイントが3だけプラスされ、合計は46ポイント。

 一つ上げても、リフレイアさんと同い年。ジャンヌさんよりは一つ下だ。

 老化耐性を取ることを考えれば、全く問題ない。老化耐性のことを考えれば、もう一つくらい上げてもいいのだが、心理的抵抗感が強くてダメだった。

 最初に増やせる3ポイントがどれだけ大きいか、理屈ではわかっていてもそうそう自分から老化を選べないのが人間というものらしい。


 次に「転移ポイント」の項目を開く。

 この項目は、けっこう変更されているはずだが――


「……だからって、これか。確かに配慮はされているけど……」


 私はその変更内容を見て唸った。

 これをどう選択するかが私にとっては最も重要なことではあるのだが――


 ―――――――――――――――――――――――――

●転移ポイント選択

・安全などこかの街の前に転移 0ポイント (デフォルト選択中)

 危険な野生動物はほぼ駆逐された場所。目の前に街がある。

・大陸別・安全な街の前に転移 10ポイント

 行きたい場所がある人向け。大陸を選択して下さい

(東ロシェシル・西ロシェシル・リングピル・ランシモザ・北アーラウラ・南アーラウラから選択)

 ※ アーラウラ大陸のみ0ポイントで転移可。

・大陸別ランダム転移 +20ポイント

 転移したい場所がある場合は狙い目だが、ランダム転移には危険がつきもの。自己責任。非推奨。

(東ロシェシル・西ロシェシル・リングピル・ランシモザ・北アーラウラ・南アーラウラから選択)

 ※ アーラウラ大陸のみプラス30ポイント

・ダーツ転移 +5ポイント

 ダーツの腕が良ければ狙い目の場所に転移できるかも? 海にダーツが刺さった場合は、やりなおし。スローラインから地図までの距離は300センチメートル。難易度は高めなので、ダーツ経験のない人は安易に選択しないこと。

 ―――――――――――――――――――――――――       


「街選択式の転移はない……か」


 私は事前にいくつかの決め事を作ってここに来たが、その内の一つが「メルティアに直接転移」できる場合は、どれだけポイントが必要だったとしても、それを選ぶということ。

 いの一番にヒーちゃんと合流できれば、あらゆる問題が一気に片付くのだ。私もその条件は呑んだし、今、そのつもりでこのページを開いた。

 だが、あるのは大陸別の転移までだ。リングピルと一口に言ってもものすごく広いのである。それこそ、ヨーロッパ圏がまるごと詰まっているくらいのサイズなのだ。

 とにかく、これで運良く「すぐ合流」できる可能性はかなり減ったといえるだろう。

 10ポイント使って「大陸別安全転移」を使ったとしても、リングピル大陸だけで、どれだけ街があるのか。メルティアが運良く選ばれれば良い。だが、全然別の街だったら? 私はただ10ポイントも使って、合流までの旅をしなければならないということだ。


 いきなり判断が難しい局面に晒されてしまったが、しかし、ここを最初に決めなければ、キャラクターメイキングどころの騒ぎではない。


「……とはいえ、これって完全にサービス選択肢よね」


 こんなの、ダーツ転移を選ぶに決まってる。

 もちろん、ダーツ経験がゼロだったら厳しかっただろうが、私は「一通りなんでもできるようになっておく」と宣言したセリカちゃんに付き合って、一時期毎日近くのマンガ喫茶でダーツをやりまくっていたのだ。

 だから、ある程度なら狙い通りに投げられる。

 すくなくともリングピル大陸に入れることは可能だろう。メルティアを直撃……は、さすがに無理かも知れないが、他の選択肢よりはマシのはず。

 なにより、プラス5ポイントが大きい。


 私は、ダーツ転移を選択し5ポイントを得た。

 これで、残りは51ポイント。


「次は不利な要素を見ておいたほうがいいかな」


 不利な要素は一種の救済措置だ。

 そのかわり、不利な状態が永続的に続くものが多い。取らないほうがいいが、しかしポイントは貴重。ものによっては取ってもいいかもしれない。


 ――――――――――――――――――――

●不利な要素

・記憶喪失 +50ポイント

 元の世界の記憶を失う。

・大飯喰らい +10ポイント

 活動に常人の5倍のカロリーが必要になる。  

・護るべき者  +0~30ポイント

「最愛の護るべき者」を異世界へ連れて行くことができる。

 12歳未満の男女、あるいは動物。

 護るべき者はポイント強化をすることができない(ポイント0)。

 加算ポイントは、護るべき者への脆弱度、および愛情値により算出。

 脆弱度が低い動物は連れていけない。

 ――――――――――――――――――――


 第一陣転移にはあった「精霊術の才能がない」がなくなっていた。

 たぶん、ジャンヌさんが強すぎた関係で、バランス調整のために消されたのだろう。

 護るべき者も、連れて行けない動物の項目が追加されている。元々、大型犬なんかは連れて行けなかったらしいが、それを明文化したといったところだろう。


「まあ、ここからは選ばなくてもいいかな……」


 護るべき者でセリカちゃんやカレンちゃんを連れて行くという手も考えたが、残念ながら年齢制限に引っかかる。まあ、あの子たちは、それを望まないだろうけど。


 もしここから取るなら「大飯喰らい」だが、高レベルになった時に詰みそうだ。

 ずっと食べ続ける必要が出てくるし、精霊力が満ちていて空腹になりにくいという迷宮ならともかく、長旅なんかでは支障が出るだろう。

 

 次は特殊能力を見る。

 おそらくは、この項目は大きく変わっているはずだ。


 ――――――――――――――――――――

●特殊能力

・勇気 20p

 困難や恐怖に立ち向かい、前に進む力を得る。

・超集中 30p

 寝食を忘れて集中できるようになる。

・精霊力察知 15p

 精霊の気配に気付くことができるようになる。

・気配察知 15p

 生物の気配に気付くことができるようになる。

・暗視 15p

 ほとんど光がない場所でも見えるようになる。

・直感 20p

 なんとなく有利になる選択肢を選ぶことができる。

・短睡眠 20p

 ほとんど睡眠が必要なくなる。(1日3時間程度の睡眠で常人の8時間睡眠と同等の効果が得られるようになる)

・無呼吸活動 10p

 呼吸なしで二分間の全力行動ができるようになる。

 訓練すれば潜水で十五分程度潜っていられる。

・広視界 10p

 人間ではありえないような広い視野を持つ。 

・意思疎通 30p

 動物と意思が通じ合えるようになる。

・経験値獲得量UP 30p

 位階が上がりやすくなる。

・鑑定 50p

「アイテム鑑定」および「モンスター鑑定」が回数制限なしで使用可能になる。

・異世界言語 0p▼

 転移場所周辺の共用語の読み書きができるようになる。

 ―――――――――――――――――――


「思ったよりは変わってないけど……やっぱり、なくなってるのはあるか」


 まず、魅了、精霊の寵愛。第一陣転移で問題になったこの二つの能力がなくなっていた。

 セリカちゃんの予想では超集中なんかは不人気だし無くなりそうとのことだったが、残っている。人気のあるなしはあまり関係がないらしい。


 異世界言語を取らない場合に取得できるポイントはかなり減った。

 第一回目ではプラス20ポイントだったが、今回は「なし」を選択しても10ポイントしか貰えない。まあ、これはもう異世界語の翻訳がかなり進んでいるからだろう。セリカちゃんなんかは、すでに日常会話程度ならリングピル語が喋れると言っていたし。

 その代わりだろうか、ポイントで『異世界語完全翻訳』が取れるようだ。異世界言語は、他地域では意味をなさないから、どこでも誰とでも喋れるという能力。誰でもセリカちゃんみたいになれる力ということか。

 異世界でどれだけ効果のある能力かはわからないが、旅好きな人には必須の力となるのかもしれない。


・異世界言語(転移場所周辺) 0p▽

               なし +10p

 異世界語完全翻訳      30p


 完全翻訳は30ポイント。かなり高いが、マイナーな言語もすべて翻訳されるなら、かなり有用なスキルではあるのかもしれない。一人で何カ国もの人間とわたりあえるわけだし、そうなるとあの世界でも一人もいないような異能となるだろう。

 とはいえ、私は言語関係は触らないけど。


「新しい能力も増えてるな」


 今回から加わったのは、「精霊力察知」「短睡眠」「経験値獲得量UP」「鑑定」の4つ。まあ、どれも取る必要はなさそうだが、いちおう考慮はするべきだろうか。

 精霊力察知は、気配察知の仲間だと思うが、地球には当然精霊力なんてものはないから、新しい感覚器官が鋭敏になるような感じだろうか。

 夢はあるが、どういうものかよくわからない。ただ、あの世界の生物はすべて精霊力を持っているらしいし、あるいは気配察知よりも使える能力である可能性もある。

 とはいえ私には必要ない。そのうちセリカちゃんとカレンちゃんが検証してくれるだろう。

 次は「短睡眠」。

 これは論外だ。私は寝ることが好きだし、ゲームすらない異世界で睡眠時間を削ってまでやりたいことなんて今のところない。

 次は「経験値獲得量UP」。

 必要ポイントは多いが、魔物を倒すほど怪物化が進み魔人へと至るあの世界では、チート的な能力になりえる。

 ただ、これもたくさんの魔物を倒すような生き方をしないのならば、宝の持ち腐れだ。気になる能力ではあるが、せいぜい1.2倍とか、多くて1.5倍程度だろう。それくらいの倍率なら、その分多くの魔物が狩れるように力を付けたほうがいい。

 最後は「鑑定」。

 無制限に鑑定ができるというのは、異世界TUEEEの定番ではあるが、我々転移者は元々1クリスタルで鑑定ができるのだ。50ポイントは鑑定1500回分。よほど特殊な仕事に就かない限り、元が取れないと思う。


「……さて、とにかく一通り見ておくか」


 私は特殊能力の項目を閉じ、耐性を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る