その月に、何を想いますか

水紫 葵

序章


 深い闇が、辺りを覆っている。

 その闇を照らすように浮かぶ月は、まるで欠けることを知らないかのように煌々と、穏やかで柔らかい光を纏っている。



 天に浮かぶ月を眺め、その美しさに感嘆する者、いつかの記憶を想起する者、愛しい人と情愛を育む者、ここにいない誰かへ想いを馳せる者、昇る太陽に焦がれる者──人の数だけ、そこに現れる形は異なります。

 果てしない闇という存在を和らげる、月という存在。それに恐怖や嫌悪を抱く者は、そう多くはないでしょう。己の中に湧き立つ感情や想いにこそ嫌厭を覗かせても、月そのものに畏怖の念を抱く者は、数える程しかいないのではないでしょうか。



 永遠の闇は、人を狂わせます。その闇を恐怖の対象から安息のものへと変貌させる月は果たして、闇に共謀することなどあるのでしょうか。

 そんな可能性を微塵も感じさせない温和な光は、ただ永遠に、人々へ安らぎの時を齎していくのです。



 今宵の空に浮かぶ、欠けることのない丸い月。

 見上げた瞳に映る月に、あなたは何を想いますか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る