第16話 姉のブラコンが酷いけど、これは捗らない理由にはなりませんね。

「実の姉弟で起きてたまるか!」


「誰に向かって言ってるのよ」





 ---智子が兎角の部屋へ来た理由。


 退勤間際、智子は何故か出納が合わず、悩んでいた。


 そんな最中、イベリスが、


「兎角、めっちゃ頭良いぜ?」


 と言うので、智子は兎角へ泣き付いたのである。


 兎角は後日、何かしらの埋め合わせを条件に引き受ける。





「終わったぞ、姉貴」


 風呂を終えたあと、兎角は関数電卓を駆使して計算をする。


 すると、見事、出納計算は無事に辻褄が合った。


 これで無事に日付内で寝られそうになった兎角と智子。



「ありがとう、統閣!お礼に、今夜はお姉ちゃんを抱い---」


 智子の台詞を遮る兎角。


「や め な さ い」


 智子はニヤっと笑う。


「反省はする!後悔はしない!」


 兎角は項垂れる。


「事前に言うか⁉︎」


「冗談よ」


 そう言いながら、智子は立ち上がり、身体を伸ばす。


 そのまま智子にはベッドに潜る。


 兎角は床に敷いた煎餅布団で寝る。





 その寝る間際。



 兎角は智子に尋ねる。


 智子と愛里熾亜との思い出話し。



「えー。やだー」


「手伝ったのにー?」


「それを言われたら断れないわねー」


 と、意外と智子が素直に応じた。





 智子はしばらく、話題を考える。



「んー、そうねー。『嘘吐きアリア』だっけ?覚えてる?」


「あ、なっつい」


 笑う兎角。


「でもこれ、首謀者は美菜流なのよ。愛里熾亜は冤罪」


「ああ、直ぐに迷子になる原因だっけ?方向音痴の愛里熾亜」


「うん、そうね」


 不名誉なあだ名は未だ色々あるが、ここでは割愛する。





 智子は次話題を言う。


「『許嫁って理由だけで、私の統閣を奪った上に、統閣をメロメロにさせて、姉の愛情より、許嫁の愛が超えられるか‼︎』って言って、愛里熾亜と本気の殺し合いは?」


「物騒過ぎるだろ!」


「仕方無いじゃない」


「仕方無いで済ます姉貴が怖い」


「済んだ話しよ」


「そうだけども……」



 ここで。兎角はこれも何となく覚えている。


 智子が顔面を腫らしつつ、全身傷だらけで、「負けた」と言って、愛里熾亜の母親が死ぬ程謝って来たのを。



「姉貴が顔面腫らして帰って来た時は笑ちゃったけどねー」


「そうね。180cmもある相手に子供なんか勝てないわよ」


「……愛里熾亜も大人気ないなぁ」


「うん。あの時は恐ろしい位にガチで兎角溺愛してたからねー」


「今じゃなんだか考えられん……」


 兎角はしみじみと言う。


 智子は冷静に返す。


「それはフったからでしょ?」


「ははっ、そうとも言う」


 兎角は苦笑いをする。


 智子もしみじみと言う。


「でも、私も『アリアお姉ちゃん』って言って、慕ってはいたから、愛里熾亜の性格の影響は少なからずあるのかもね?」


「あー、そう言うパターン?」


「うん。そもそも、私が『許嫁』って意味が判ってたか怪しいせいで、実の弟を『男』として見てたかも?」


「……今だから言えるって奴?」


「今も私の中では『男』よ?」


「……」


 兎角は真顔になる。


「あ、うん。今更、倫理的がどうの言えないけど……。---お姉ちゃん、ちょっと傷付く」


「……普通にしてれば良いんだよ?」


「そうなんだどねー……」


 智子は「ふう」と溜め息を吐く。


「---愛里熾亜程、気持ち悪い事はしていないと思うんだけなぁ。アレはもう『女』の目で『男』を見ていたわ。---はぁはぁ言いながら兎角の全身の匂い嗅いでたし」


「うわぁ、ショタコンだぁ……」


「学校以外はもう常に抱っこさせて、おっぱい吸わせてたわね。---アレで大きくなった様なモノよ」


「うへぇ……。何とく覚えてた分、そこはしっかり聞くんじゃなかった」


「そこまでドン引きされると、気分良いわね」


「姉貴に対する侮蔑と同類」


「うわ、酷っ⁉︎」


「あ、でも姉貴がそんなんになったの、やっぱり愛里熾亜のせいかもね」


「ふむ……。---やっぱりそう?」


「うん。---人って要らない所、似るよねぇ」


「ふふ。---お互い様ね」


 そう言いながら、智子は兎角へ背中を向ける。


「ま、私と愛里熾亜の過激なスキンシップに嫉妬の業火を燃やして、美菜流が統閣の初めてを卒業させちゃったのは、少しは私と愛里熾亜に責任はあるかも……」


「あー、それなんだけどねー。実は美菜流と再会して、この前告白された」


「美菜流、殺す」


 一気に湧き出る殺気。


「断ったって。---落ち着いて、姉貴」


「あらそう。---良かった」


 智子から殺気が消えて、ホッとする兎角であった。




 そのあと、兎角と智子は生き別れた間の話しをする。



 兎角が特筆すべきは殺されかけた事だが、智子には言えなかった……。



 智子は生き別れてから、順調ではなかったが、最低限、細々とだが飯は食えていたと言う。


「……いや、優秀な弟と不出来な姉。---実の姉弟かどうか疑いたくなったわ」


「どう見ても、双子並みにソックリなんだから、無理がある」


「でも、想像しちゃうのね?---遺伝子はもう違う。そんな中、生き写しが迫って来るのって……。ゾクゾクする」


「おおよそ、実の弟へ対する妄想じゃねぇ……」


「空白の4年間はそんな感じかな?」


「サラッと流しやがった」


「もー、さっきから統閣、お姉ちゃんを無碍にし過ぎ」


 智子がベッドから降りて、兎角へ添い寝する。


 背後で軽く身体が触れる感覚がする。


「---……おい」


「何もしない。---何もしないから、今はこうさせて」


 静かに言う智子。


 それを遇らう事は出来なかった。


「はあ……。好きにして」


「うん、好きにする」



 しばらく2人は黙る。


 話し込んでいる内に、夜も老けていた。


 眠気到来。



 ここで最後に智子が一言。


「今度、一緒にお風呂、入る?」


「……マジで言ってる?」


「うん。やっぱり、裸の付き合いて大切よ」


「いや、それ実の弟へ言うか?」


「……だめ?」


「はあ……。---何もしないなら良いよ」


 智子は兎角の背中に密着する。


「やっぱり統閣は優しい」


「嫌がる僕を虐めるのが好きな癖に」


「あら、欲情しても何とか耐えるわよ」


「耐える耐えられんとか言いながら風呂に入るな」


「うふふ」


「……ったく。頼むぞ。---統子」


「あら、珍しく名前で呼んでくれた」



 兎角は本気で真面目な話しをする時は智子の元の名前で呼ぶ癖がどうもあるらしく、智子はその名で呼ばれたら、一種の諦めが付く。



「そんじゃ、おやすみ、統子」


「お休み、統閣」



 2人はそのまま眠りについたのであった……。

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