第8話 部員事情が厳しくて捗らない可能性、大

 コロニナへ行く為の、通行手紙を貰う試験まで、今日からあと1週間。


 1年生は部活動へのは休止となる。





 ---兎角は元々、数日前に愛里熾亜にフラれてから、異世界探索部へ行けていない。


 なので、特段と生活は変わらない。



 朝は学校へ行き、放課後は最近始めたアルバイト、短期間での倉庫業の手伝いをする。


 帰宅したら、晩御飯を食べて、宿題をして寝る。


 そして朝を迎える。



 前回、紅羽を抱いてからのそれ以降、紅羽の出入りが無い。


 自宅から普通に通っているのと、


「あ、今ピル飲んでないからスルならスキン着けてねー」


 そう言いつつも、紅羽も忙しいらしく、異世界探索部へも顔を出せていないと言う……。



 しかし、やはりずっと兎角が上の空なのは紅羽は不審に思う。


 お守りも買いに行けていない。





 そんな中、今日から皆んなが追い込みを掛ける為に、猛勉強をしている最中……。



「え?ここ最近上の空だったのは、本当は失恋してたから?」



 と、紅羽にやっと今日になって言えた。



 愛里熾亜にフラれた話しを。



 紅羽は驚きつつも、


「もー、素直に言ってくれたら、もっとちゃんと慰めてたのにー」


 そう言いながら、晩御飯の準備をする。


「---ま、しばらくは悩みなさい。何か思う事があるなら相談にも乗るし、愚痴れば良いわ」


「……うん。---ありがとう」


「私への乗り換えはいつでも良いからね?」


「……それは、まぁ。うん。考えておく」


「もー、なんで、そこはヘタレなのかなー?」



 そう良いつつも、ニヤける紅羽。


 作業を一旦辞めて、兎角の前に正座をする。



「---わたしは、兎角ちゃんの事、ちゃんと見てるから」


「……ん?……うん」



 紅羽は続ける。


「何て言うのかなー?色々話し、聞いてくれるよね?」


「そう?」


「うん。聞いてない様で聞いてて、忖度してくれるとキュンって来ちゃう」


「そ、そう?---ありがとう」


 照れる兎角。


「あとねー、エッチが上手になった!」


「う、うん」


 紅羽はグッドのポーズをする。


「ま、そんな感じ」


 そう言いながら、また台所へ戻る紅羽。



 と言うわけで、相変わらず友達以上、恋人未満ではある……。





 こうした、何とも言えない状況と言うのは不思議と重なる。





 次に浮上したのが、兎角も噂には聞いた事がある。



『異世界探索部は治安が悪い』と……。



 そんな噂の流布。





 現地小さな村で権力者になってしまう


 逆に悪の組織に加担してしまう。


 賭博系で丸儲け。


 マルチ商法。


 性的欲求を求めてウロウロする部員が居る。


 女性部員がコロニナの男性に孕まされた。


 男性部員がコロニナの女性を妊娠させた。



 特にその中で有名な人が居る。





『折尾将樹』





 兎角の1歳上。


 爽やかイケメンで、学校では女子からの人気が高い。



 コロニナにセフレが数名。


 そこでハーレムも形成している。


 複数の男女でセックスを楽しむグループも幾つかある。


 コロニナに子供も既に居るらしい……。



 ちなみに、紅羽の初カレらしいが、紅羽曰く、


「前の前に付き合ってたの。---ま、処女卒業したくて、兎角ちゃんみたいに顔だけ見てから、入部当初に誘い受けでヤって貰ったけど、それ1回こっきり。私は彼女なのか4股なのか、セフレなのか判らなかったから、直ぐに別れた」


 と、こちらの世界でも元々、性的に奔放な人だと言う。



 ちなみに、つい先日、複数の男女でセックスを楽しむグループに兎角は誘われたが丁重に断っている。


 他の男性部員はそのコミュニティに属しているらしいが……。





 こうした話しが上がるのは、コロニナで活動している他の部活動の存在がある。


 異世界探索部の活動状態について、代表者であり、部員でもあるイツミは特に問題が無いと思っている。


 しかし、他の部活動は、そうもいかない。



 こちらの世界の価値観を押し付けながら活動するのが当たり前と思っている。



 逆にイツミは他の部活動の方針に辟易している。


 たまにイツミは、


「天誅を食らわせている」


 と言っているらしいが。内容を知る者は居ない……。



 従って、異世界探索部の『郷に入って郷に従っている』のは、受け入れて貰える人が少ない。



 この、折尾の話しが大きくなった辺りから且つ、折尾が『紅羽の初カレ』と言う事もあって紅羽も悪目立ちをしてしまう。


 主に盗賊等のならず者を、容赦無く叩き切る事を。



 紅羽はその話しが出回り始めた辺りから、兎角への意識を高め、顔だけでない、他の何かへ対して、徐々に向き合いを見せる様になってきた……。


 (と思われる。……のかなぁ〜)


 ---と、兎角は分析をしている。


 含みも持たせる事が極端に増えた。


 最初は、


(照れ隠し?)


 と、思ってみたり、


(実は未だ折尾先輩と未だ確執があるのかな?)


 と、軽い気持ちで構えているが……。





 しかし結局……。


 ここ数日間で新入部員が幾人か退部したのである。


 部活動の方向性が不一致な為。



 最初、兼部の部員を含めて50人近く居た人間もおよそ半数以下となった。


 部の存続としては今後の推移次第では割と死活問題である。





 従って、イツミはこれ以上、部員減らない為にも、ある作戦に出た。





「兎角には是非とも、試験は主席で合格して、異世界探索部の広告塔になって貰う」



 そんな事を言いながら、兎角の部屋に突撃して来たのである。





 ---試験前日。



 放課後、兎角は直帰をする。


 紅羽は、


『明日の試験、頑張ってねー』


 と、スマートフォンにメッセージが来た。



「……俺、この試験に合格したら紅羽と付き合うんだー」


 と、棒読みをしながら意気込む。





 試験内容について。



 5日間のサバイバル生活をさせられる。


 籤引きでパーティーメンバーを決める。


 中にはソロもある。



 課題も別で、ソロだろうとパーティーだろうと、同じ籤引きの箱から選んで決まる。



 その最中に筆記試験もし、最終日のゴール地点で提出する。


 故にカンニングが可能。



 合同パーティーも可能だが、点数が下がる。


 ソロは係数が掛けられて、項目に寄っては大幅な加点となる。


 逆に無理難題だと大幅な減点もあり得る。



 故にソロは一長一短。



 ちなみに、パーティー内の不和や、気に食わないと言う理由で他人を蹴落とすのもあり。


 そうした、人間性も見られる、中々アグレッシブな試験である。





 兎角は試験内容について、『ボーダーライン位での調整』を紅羽に勧められている。


 紅羽曰く、


「別に成績にはそんなに響かないから、気を張らなくても大丈夫」


 と、上位を目指そうとすればする程、失敗の可能性があると、示唆する。



「元々ダルいから、真面目にしねぇ、っつーの」



 現在、兎角は『富河統閣』と言う“素”で居る。


 四六時中、『香椎兎角』で他人に気を使い、回りの目を気にするのは気が疲れる。


 自宅に居る時位はゆっくりをしたい。


 紅羽は『2人切りの時はそれが良い』と言うので、たまに気が抜けたら『富河統閣』として過ごす。



「……言語は、まあ、何とかなるだろ。サバイバル術もそんなに苦労はせん。後はパーティー編成か……」



 完全に当たり外れも運任せ。



「あー、クソ。こう言う時に限って、ムラムラするし。---自分で処理すっかー」



 最近、部屋にすら来てない紅羽に少し寂しいせい……なのだと思う。



 つい最近まで紅羽が兎角のアパートへほぼ入り浸っていたのが、本当に都合が良かったのを痛感する。





 兎角は紅羽に何かメッセージを送ろうとしたが、玄関チャイムが鳴り、立ち上がってそれに応じる。



 チャイムしかないので、玄関まで行き、扉を開く。


「うーっす、だーれだー」


 うっかり、“素”のままで応じる。



 そこに居たのは、


「やあ、何だか随分と普段からは考えられない状態だね」


 イツミだった。



 直ぐに扉を閉めて、兎角は深呼吸。


「ボクは兎角、僕は兎角」


 小さな声で言って、気持ちを切り替える。



 テイク2。



 扉を開ける。


「えっと、……どちら様ですか?」


 イツミだった。

 

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