第11話 そして僕は再び涙を流す
「それで、インタビューについてだけど、僕はどこに座れば……」
「う~ん、とりあえずアタシの席の向かい側で良いから座ってくれる?」
黒須さんの席は教室の中央に近いところにあり、僕の座っている席より少し西側にあった。
彼女が向かい側の机と椅子を180度回転させると、僕はそこに座った。
向かいの席のヤツには明日話しておこう。悪い奴でないと良いけど。
それから黒須さんは自分の席に座ると、慣れた手つきで鞄から学校指定のパソコンを取り出した。
彼女の持っているパソコンは持ち出し頻度が高く、ケースは大分くたびれていた。
さっき話していた部誌の取材絡みなのかな。
「結構使い込んでいるんですか、それ」
「そうだね。部誌の準備で頻繁に持ち運んだから、ケースがちょっとボロボロになっちゃったんだよね。三年間使わなきゃならないのにさ」
「まあ、仕方がないですね。壊れたら修理すればいいだけの話だし」
「それもそっか」
黒須さんは笑顔を見せながら話していたけれど、あのパソコンは割と高い。
僕の場合は、親がいざという時にある程度の資産を作っていたおかげである程度良いパソコンを買ってもらえた(しかも二台)けれども、他の生徒は一台で済ませている生徒も居るんだろうなぁと思った。
すると、黒須さんは知らないうちにPC用眼鏡を掛けてパソコンを立ち上げて準備を整えていた。
「よし、ボイスレコーダーのアプリも立ち上げたし……。じゃあ、早速だけど君の体験したことをすべて話してくれる? もし話したくないようであれば、話さなくても全然構わないから」
これから僕が経験したいじめのことを他の人に話すことになる――。
誰のためでもない、これは僕のためだ……。
「それでは、僕が経験したことを話します――」
僕は昨日我妻さん達に話したことを、少しずつ、丁寧な言葉で黒須さんに話した。
自分に「これは自分の心の傷と向き合うためだ」と言い聞かせながら、少しずつ、少しずつ――。
◇
「――これが、僕の経験したことの全てです。その結果、僕たち家族は山形を離れて仙台で生活するようになり、今に至っています」
どれだけ時間が経ったのだろうか、空は昨日と同じ様に夕闇が迫っていた。
僕は自分が山形で経験したいじめの実態を余すところなく彼女に伝えた。
黒須さんは僕が話をしている間、何度も相槌を打ったり、時々僕に訊き返すようなしぐさを見せたりしながら、僕の話を最後まで聞いていた。
僕の話が終わるや否や、黒須さんはパソコンの画面をタップしてからPC用眼鏡を外した。
彼女の顔を見てみると、目にうっすら涙が浮かんでいた。
僕の話に深く聞き入っていたのだろう。
「何というか……、辛い思いをしたんだね」
「ええ、まあ。でも、こうして生きているだけでもありがたいです」
「でも、いじめが原因で故郷を遠く離れることになったのは事実でしょ? そう考えると、やっぱり可哀そうだよ……」
黒須さんは涙声でそう言いながらも、目に浮かんでいる涙を拭った。
僕だって、山形に居たかった。
何十年前に同じようなことがあったにも関わらず、全く動こうとしなかった教育委員会が頼りにならないと知って、父さんが決断した後はあっという間に物事が進んだ。
仙台に来てから心美と知り合ったのは良いけど、そんな彼女も今では大手私立高校でチアリーダーをやっている。
しかもチャラ男と既に初体験も済ませている。
僕なんて……。
「う、うぅ……」
いかん。
また昨日と同じように涙が零れ落ちそうだ。
「どうかしたの、富樫君? 泣いているの?」
「い、いや、何でもありません」
我慢すればするほど、涙が目から溢れ出しそうだ。
「富樫君、大丈夫だよ。泣きたくなったら泣けばいいし、辛かったらアタシに言ってもいいからね」
黒須さんが僕に優しく語りかける。
その優しさが、寝取られて三日目の今の僕にとってはありがたかった。
――――――――――――――――
【あとがき】
次の回はまだ主人公がヘタレます。
お願いします! どうか皆様、フォローや♡、☆、応援コメント、レビューのほどをよろしくお願い申し上げます! 上位に行きたいんです!(本人切実)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます