第176話 椎名と会う

「大人ですね。二人とも。俺、開拓村に行ったこと馬鹿にされただけでムカついちゃって。」

「ああ、多分誘われなかったのが癪で三輪があれこれ言ってたからだと思うよ。気にすんな。」

「やっぱり、三輪が言ってたんですか‥‥。」


何か気持ちが沈むなぁ。

ツェット領行きへの声がかからなかったのは、タイミング的にまだこの国に来たばかりで、ちゃんとやっていけるか判断が出来ない時だったからじゃないか。

何ヶ月後かに様子を見にくるって話もしてあったはずなのに、恨むとかよくわからないよ。


少し凹んだ気分のまま挨拶をして彼らのアパートを出た。ツェット領に戻る前にはもう一度会う約束はしておいた。

通りに出て、教えられた椎名の住居に向かう。

ふと思い出してシグマさんを振り返って謝った。


「すみません。付き合わせちゃって。」

「気にしないでいいヨ。」


こういう街では自衛の為に連れ立って歩くのは普通の事なので、気にする必要はないという。そうは言っても無料で護衛を雇っているみたいな状況で申し訳なく思う。

そう言ったら、領主様から往復の護衛費用以外に滞在中のサポートも料金が支払われているから、その一環だと思えと言われた。

いいんだろうか。


疑問に思っても断ったら一人で出歩かざるを得なくなるし、そのまま一緒に椎名の住むアパートに向かった。

このアパートも入り口の扉をノックすると管理人らしいひとが小窓から顔をのぞかせた。今度はお爺さんだ。

椎名の名前を告げたが、どうも不在らしい。でも住所はあっているみたいなので、伝言メモを預けておくことにする。


『元気か?三日後まで前泊まってた宿にいる。B』


狩猟ギルドで書いた内容と変わらないことしか書いていない事に気がついた。でもだからって伝言で書く事はあまりないので仕方ない。

伝言メモをドアの小窓から差し入れてお爺さんに渡して、その場を立ち去った。


そのまままっすぐ宿に戻って来て、宿で夕食を済ませた後に椎名が訪ねて来た。

椎名は狩猟ギルドの依頼をこなしたばかりといった感じの格好だった。一緒に柊さんもいた。

ギルドで伝言を受け取って,その足で来たらしい。アパートにも伝言をしておいたことを伝えた。


「椎名、ちょっと背、伸びたか?」

「尾市も‥‥というか日焼けしたな。」


久しぶりに会った椎名は、ツェット領に旅立つ直前に会った時に比べて随分表情がすっきりしてみえた。

宿の部屋に招いて話をする。


「どうしてるか気になってたからさ。商隊に付いて来たんだ。」

「そうだったか。心配かけたな。今はこの通り元気にしてるよ。狩猟ギルドで依頼受けてる。柊さんと組んで魔獣狩りもしてるんだぜ。」

「うん。元気そうなら良かった。」


俺達がツェット領に向かった後の事を話してくれた。

四人用の女子部屋にいた石倉が部屋に一人となったので、小さい部屋に移ることになったんだけど、宿泊費用がないという。

一人部屋は高い。1〜2泊分くらいはあるがそれ以降の費用がないと、不安そうに泣き出したそうだ。


それって‥‥2日のうちに働けばいい話じゃね?


話を聞いて俺が思った事を椎名も思ったらしいんだけど、男子の中で女子一人だったのもあって、厳しいことを言うのを躊躇っていたそうだ。


そうしたら、三輪が同室になろうと名乗り出た。


「じゃあ、俺と同室になろう。二人部屋の方が一人当たり安くあがるし。」


椎名は、その言葉にあっさり頷く石倉を見て、何となく事前に二人で打ち合わせてたな、と思ったそうだ。


「なんかそれ見て、すーっと冷めたよ。泣き演技ばっかりで宿代稼ごうとしないし。三輪と同室になるなら、さっさとそうすればいいのに、金がないアピールして、うまくすればカンパも貰えるって踏んでたんだと思う。」


石倉と椎名が同室の時も宿代は椎名が負担していたそうだ。考えてみたら石倉が働いているのほとんど見たことない気がする。


1〜2泊分の宿代を持っていたのも、実は椎名が稼ぎの中から時々渡していた生活費の分だろうとのこと。

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