第174話 開拓した村
「あ、こっちは南部さん。1コ上。」
重盛が同行者の男性を紹介した。1歳年上ということは、ワイちゃんと同級生の人か。
「じゃあ,ワイちゃんの知り合い?」
「和井しってんの?ああー、開拓村行ったって話だったなぁ。」
南部さんは軽く笑って肩を竦めた。重盛がニヤニヤ笑う。
うん?なんだ、ちょっと嫌な雰囲気だぞ?
「じゃあ、君、開拓村から逃げて来たんだ?」
「はぁ?」
意味が分からずに聞き返すと、二人で何か面白い事があったのか腹を抱えて笑い出した。
「無理っだよなー!開拓村に夢みちゃったってさー!なーんにもない田舎だろ。騙されて農奴にされたって聞いたぜ。よく逃げ出して来れたな?」
「それでそんなに日焼けして真っ黒なのか。」
二人してゲラゲラ笑ってるけど、何言ってるんだ?こいつら。
「ちょっと‥‥農奴なんかじゃねぇよ。誰がそんな事いったんだ?」
「あれ?でも何にもない荒れ地でイチから畑作らされてるって聞いたぜ。新天地って騙されてほいほい付いて行ったって。三輪から。」
三輪が言ったのか‥‥。あいつ、一体何を伝えてやがる‥‥。
「確かに‥‥何にもない土地だったけどさ。今は畑も出来て色々育ってるんだよ。」
「へぇ〜。ま、いいんじゃない?せいぜい頑張ったら?」
「でも逃げて来たんだろぉ〜。」
馬鹿にしたように笑い続ける二人。なんだかな。ふとロッシュさんが、開拓村の詳しい話はするなって言っていたのを思い出した。
なるほど‥‥。誤解は解けないかもしれないけど、まともに話を聞かないまま馬鹿にした態度の人達には、俺達が苦労して開拓した土地に来て欲しくないなと思う。
「ビーチ君、そろそろ行こうヨ。
」
シグマさんが声をかけきたので、二人はシグマさんの存在に気が付いたようだ。
「あ、この人狩猟ギルド員で、街歩きに付いて来てもらってるんだ。」
「ドモ。」
敢えて、シグマさんの名前を紹介しなかった。シグマさんも特に名乗らないようだ。
彼らに椎名の居場所を訊こうかと思ったけど、やめておいた。江角さん達に聞けばいいし。
用があるからと彼らに別れを告げてその場を後にした。
モヤモヤして何だか早歩きになる。
「知らないというのは幸せだよネ。開拓村は『開拓した村』なのに。」
「ふっ。」
隣を歩いていたシグマさんが慰めるでもなく言った言葉に思わず笑みが浮かぶ。
そう、やつらがイメージする開拓村はもう存在しないんだ。開拓しまくっちまったからな。
確か今月一杯で「村」から「街」に正式に呼び名が変わる。来月にはツェット領の領地が増えるとも聞いている。
俺らはただの領民だけど、その事を凄く誇りに思っているんだ。
あんな風に馬鹿にされたり笑われたりしたくはない。
それにしても、「農奴」とかいったのが三輪ってどういう事だ、あいつ俺達が新天地と騙されて荒野に連れて行かれたって思ってたのか。
「ん。この辺じゃないノ?」
シグマさんが立ち止まって、建物に記された番地を示す番号の前で立ち止まった。確かに、メモに書いた住所の番地だ。
キョロキョロと見回すと、窓辺に干してある洗濯ものが風でゆれて、シャツの裾に「F」という文字が書かれているのが見えた。
あれって柄舟さんの「F」じゃないか?
窓の位置から部屋を確認して、建物の入り口の扉をノックした。
建物の入り口の木の扉をノックすると、ドアについた小窓からお婆さんが顔を覗かせた。
「誰だい?何のようだい?」
「あ、尾市っていいます。江角さんと柄舟さんの知り合いです。‥‥もしかしたらエスさんとエフさんって名乗っているかもしれないのですが。」
「ふむ。ちょっと待ちな。」
小窓がパタンと閉まって足音が遠ざかっていった。
暫くしたらバタバタという足音が近付いて来て、木の扉が開いた。
「尾市君じゃん!元気だった?」
柄舟さんが姿を現した。ハグしそうな勢いだ。
「あ、柄舟さんお久しぶりです。」
「久しぶり。あ、そっち‥‥商隊の人かな。前見た事ある気が。」
「前にあったヨ。」
柄舟さんがシグマさんに気がついて会釈した。シグマさんが片手を軽く上げた。シグマさんは俺達がツェット領に向かうときも同行してたから
見覚えがあっても不思議じゃないな。
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