第62話 アルファベット

角煮を食べ終わった紙コップに湯をそそいで、お茶代わり。

好みで、一度洗ってから湯を入れる人と、角煮の汁が残ったまま湯を入れる人がいる。

温かいだけで美味く感じるからどっちでもいいな。


食べ終わったら紙コップを洗って各自大事に取っておく。多分どこか街か村に出れば、食器も手にはいるだろう。

それまで持たせたいな。


「ねえ。」


藍ちゃんと洗った鍋を拭いていたら、千葉の女子高校生の和井さんが、藍ちゃんに話しかけて来た。

和井さんは日焼けした少し浅黒い肌をしていて目がきょろっとしている。すらっとしなやかそうな体型をしていて、陸上部って言ったら納得しそうな雰囲気だった。到着した時は、ボサボサ状態だった髪を紐で後ろに束ねている。


「はい。」


藍ちゃんが顔を上げて和井さんをみると、和井さんがニコッと人懐こい笑みを浮かべた。


「藍ちゃんっていったっけ。I(アイ)ちゃんって呼んでよい?私、Y(ワイ)ちゃん。」


アルファベット繋がりだよ、なんていうから藍ちゃんが、「あは」っと思わず笑った。

すると、栃木の中三の二人が会話に入って来た。


「じゃあ、俺は尾市でB(ビー)って呼んでくれよ。」

「俺は椎名だからC(シー)だな!」


なんだそれは。

藍ちゃんが笑ってる。俺は身を乗り出した。もう参戦してやる。


「なら俺は瑛太だからA(エー)か。」

「あははABCそろった!」

「しまった。ABC三人組ってなったら微妙に雑魚っぽく聞こえる。」

「雑魚ってなんだよ。」

「ABCトリオ、雑魚っぽい。アハハ。」


「久作はQ(キュー)だね。」


静かに聞いていた真希さんが口を開いた。

ぶっ。緒方さんが水を噴き出しそうになった。

緒方さんの名前は緒方久作というらしい。


「そ、それなら真希は丁田(ちょうだ)の『丁』の字でT(ティー)だぞ。」


ワイちゃんが地面に小枝を使ってアルファベットを書いて行く。


「ねえ、これ。サインみたいに使おうか。何かの時に暗号みたいになりそう。」

「お、いいねぇ。」


ワイちゃんの言葉に、緒方さんことQさんが賛成した。そこに江角さんが反論する。


「ちょっと待てよ。俺とか置いてけぼりなんだけど。」

「江角はS(エス)でいいじゃん。あ、なら、柄舟はF(エフ)だね。」

緒方さんが言うと江角さんと柄舟さんがおおーと小さくガッツポーズをした。


ちらり、と藍ちゃんがライアンさんに視線を投げた。

ライアンさんは黙々と鎧の手入れをしていた。血が付いた所を丁寧に拭き取っているようだ。


「あ」ときが付いたワイちゃんがライアンさんに近付いて行く。


「ライアンさんも、アルファベットにできないかなぁ〜。ライ‥‥。うーん、あ、家名とかってありますか?」

「‥‥ツェットだ‥‥。」

「ひゃーーーっ。Z(ゼット)来たー!」


テンションが上がるワイちゃん。ツェットはドイツ後でのZの発音だね。でも、ここでは文字はどうなんだろう。

ワイちゃんが、ライアンさんの目の前の地面に「Z」の文字を書いて説明してた。

ライアンさんが、枝を取って地面に文字を書く。全然違う文字だ。

でも「Z」の文字は気に入ったみたいだ。

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