第22話 妻として
翌朝、朝ご飯を用意しようとキッチンに行くと、関口さんがすでに準備を終えていた。
「おはようございます、奥様。」
特に嫌味のない挨拶ではあった。一人分の食事がトレーに別に用意されていた。
「貴一さんはご気分がすぐれないようです。こちら、私がお持ちしますね。」
「あ…、いえ、あの、私、私が運びます。」
「私などに気をお遣いいただかなくてもいいんですよ。」
「いいえ。私が運びたいんです。」
「…そうですか。では、まぁ、お願いいたします。」
やっとの思いで使命を得た気がした。そしてトレーを持って貴一さんのお部屋へ伺った。ノックをしたけれど返事がない。
「貴一さん、入ります。」
ドアを開けると貴一さんはベッドの上で慌てて上半身を起こしたようだった。
「おはよう、綾子さん。」
「おはようございます。」
「すまないね、朝食を持ってこさせたりして。関口さんにお願いしたつもりだったんだけど。」
「…いえ、私が運ばせてもらったんです。」
「どうして?」
「…妻の務めといいますか…。」
「はは。」
貴一さんは笑った。そしてむせた。私は慌ててトレーをベッドの近くのテーブルの上に置いて貴一さんの背中をさすった。咳が止まらなくて、関口さんがやって来た。関口さんに促されるまま代わってもらって、関口さんが貴一さんの背中をさすると、貴一さんの咳は止まった。
「では、私はこれで。」
関口さんはお辞儀をして部屋を出ていこうとした。
「待って!」
声をかけたのは私だ。
「関口さんの方がいいみたいだから、お願いできますか?」
「え?あ、ええ。」
「うん。そうだね。食べる順番や間隔、薬の飲み方もあるから。」
「お邪魔にならないように、ここから見させていただきます。」
「貴一さん、なんだか緊張してしまいますね。」
「そうだね。でも、なんだかボクはうれしいよ。」
「ま、貴一さんたら。」とは、関口さんも私も言わずにおいた。
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