第5話 一口ちょうだい

どうしたものか。急に2人で買い物だけでも頭がいっぱいなのに、昼食を決めろか。どんな意図があるのかはわからないが、試されているような感じがする。

そして、服選びでは正解なのか間違っていたのか全然わからないので、ここは正解を選んでいきたい。


「こういう所ならいいか?」


お店を調べていると、ふと気になるものが目に入る。



「ごめん、待たせたね。行こうか」

「もう決まったのね」


少し歩いたところに目的の場所が見える。


「ここだよ」

「へーこんなところ知ってるんだ」

「ま、まあね」


着いたのは外装は洋風な感じがあり、オシャレな喫茶店である。

こんなオシャレな場所をあなたが知ってるのね、みたいな顔をして彼女はこちらを見てくる。

先程までは知らなかったから嘘を言ったような感じがしなくも無いが、今は知っているので嘘は言っていないはず。


「とりあえず入ろうか」

「そうね」


ドアを開けるとカランカランと音がなり、店員がこちらに気がつく。


「いらっしゃいませ!」

「先程連絡した坂下です」

「坂下様ですね、お待ちしておりました」


ここで初登場、私の名前は坂下悠介である。そして、先程トイレに行った際に予約をしておいたのである。人気そうだったので予約しておいて正解であった。

店の中も外装とマッチしており、洋風な造りをしていた。人気店であると同時に昼時なので結構店内は賑やかである。たまたま空いてて良かった。


「やるじゃん、ここまでできる男だったとはね」

「それはどうも」


彼女からお褒めの言葉を預かることに成功した。


「けど、残念なのが君の好きな食べ物がわからなかったからこういう所しか選べなかった」

「ふーん、ま、まあこれから知っていけばいいんじゃない?」


彼女は目を逸らしながらそんなことを言っている。これは流石の俺でもわかる、照れてるんだろうな。しかし、ここで照れているのを指摘すると怒られるのは間違いないのでそっとしておく。


「で、何食べるか」

「そうね、セットがあるみたいだからセットにしようかな」

「いいね、俺もそうしようかな。すみませーん」


 二人ともセットにはするが、内容は少しずつ違う。俺はハンバーグとコーヒー、彼女はナポリタンと紅茶にしている。なるほどね、彼女は紅茶派であることが分かった。もしかしたら違うかもしれないけど。


「美味しそうだね」

「そうね、食べましょう」


 これは結構美味しい。評価がいい店を選んだありいい方に転んだと思った。ハンバーグは割った瞬間に肉汁が溢れ出て、食べれば肉の風味が口全体に広がっていく。そして、コーヒーも酸味が強すぎず、とても飲みやすい物であった。


「いつも美味しそうに食べるよね」

「そうか?まあ素直に表現してるだけだと思うんだけどな」

「んー、すごく美味しそうに見えてきた」


 彼女はそう言いながらハンバーグを目を輝かせて見つめている。


「そんなに食べたいなら一口食べる?」

「いいの?」

「もちろん、別に美味しい物ならいろんな人に食べてもらえた方がいいじゃんか」

「じゃあ、一口ちょうだい」


 そう言いながら口を開けて待っている。このまま食べさせろってことかよ。まあ仕方ない。


「どうぞ」

「うんうん、これも美味しいね」


 それは良かったが、こっちは居た堪れないよ。ここはなんとかして仕返しをしなくてわ。


「じゃあ、そっちのも一口ちょうだい」

「え、いいよ」

「じゃあ、はい」


 こっちも口を開けて待つことにした。すると、すぐさま口の中にスパゲッティが放り込ま出れる。


「美味しい?」

「う、うん美味しいよ」


 なんだよ、そっちはなんとも思わないのかよ。そんな感じで残念に思っていると、


「流石に私がそんなことで恥ずかしがると思ってた?」

「なっ!いつからそれを」

「んー食べさせてもらった後、顔を見たら恥ずかしそうだったから」


 彼女には俺の考えていることはお見通しのようであった。俺にとては恥ずかしいことであっても彼女にとっては当然のような感じである


「そんなに俺って顔に出やすいのか?」

「そんなことはないと思う。なんとなくわかるだけだよ」

「なんとなくって」


 恐ろしい限りである。多少なりとも表情は豊かなのかもしれないが、なんとなくで考えることがわかっていいものなのか。そんなこんなで食事が終わり、帰路に着く。


「今日はありがとね、いい買い物ができたよ」

「こちらこそ、久しぶりに休日に外に出て、楽しかった。またどこか行くか」

「えっ、いいの?」

「もちろん」


 休日に家で過ごすだけと言うのはなんとも味気ない物であるので、今日はいい気分転換になった。流石に1人での外出は気が向かないが、彼女といれば楽しく過ごせる気がする。だからありのまま伝えた。隠し事は彼女に通用しないし。


「そっか、またどこか行こうね」

「そうだね、次は俺が考えるとするよ」

「楽しみにしてる」


 嬉しそうな彼女の表情を見ると、またどこかに行くことがより楽しみになってくる。そして、嬉しそうな彼女はとても可愛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る